救う毒

むみあじ

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8月 樒

第91話

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「ここに僕がいるのは、誓いを果たしに来たからだよ。事前にニルスさんに掛け合って、同じ部屋にしてもらったんだ」
「…なるほど、だからさっき秀にぃさんが、喜んでくれると思うんだが、なんて言ったのか…確かに、今俺ちょ~嬉しいもん」
「ふふ、僕も同じ気持ちだよ。イヨに会えて本当に嬉しいんだ」


抱きつく体勢から居を正し、俺がした質問にゆっくりと答えていくアレクシス。抱きついた事によって乱れてしまった俺の髪の毛を直し、梳くように撫でながら甘い笑みを浮かべている。初めて会った日から常々思っていたが、本当に顔の造形が良すぎる。完成された美とはまさにこの事だろう。


「あ、それで、やりたい事はもう良いの?」
「うん、もう終わらせてきたからね」


数年ぶりのアレクシスの完璧フェイスに釘付けになっていた俺は、まだ聞きたい事があったのだと思い出す。危ない危ない。無言で鑑賞会を始めるとこだった。美形コワ~~

ここにいる時点で分かっていた事ではあったが、どうやらやりたい事というのは終えたらしい。それが何かは知らないし何でしたかったのかもしらない。無理に聞き出そうとも思わない。アルの事は何でも知りたいけれど、無理に聞き出すより自分から話してくれた方が嬉しいし。


「これからはずっと一緒にいられるよ、イヨ」


そっと両手を包み込まれる。空色の瞳には目を丸くした俺が写っていた。誓いが果たされた事が嬉しくて嬉しくて、とってもだらしのない笑顔を浮かべてしまう。しかし、それと同時に思い出す。そういえば、アルは俺が全寮制の学園に入っている事を知らない。なんなら中学も高校も公立に行く!みたいな事を声高らかに宣言した気がするから…公立に通っていると思われてるんじゃなかろうか。全寮制の学園は、外出許可をとるのも面倒な手続きがいるため、公立の高校とは違い会える頻度は少なくなってしまうだろう。


「うれしい…んだけど、俺ね、全寮制の学園に通っててさ…公立じゃないんだ。だから、土日くらいしか、いや、もしかすると全然会えないかもしれないんだよね…」
「そんな顔しなくても平気だよ。知っていたからね。僕も同じ学園に通うんだ。だから、毎日会えるよ」
「っえ、まじ!?うそ!!マジで!?!?やったー!!!」


しょもしょもと俯きながら伝えたが、どうやら既に知っていたらしい。なんならもう手続きも済ませてるっぽい。
アルティメットウルトラハッピー!!!イェーーーイ!!!

なんで知っているのだろうと一瞬思ったが、事前に話したというニィさんにでも聞いたのだろう。抜かりないな、アレクシス。


「それじゃあ、次はイヨの事を聞かせてくれないかな?中学校は楽しかった?」


1人で納得しながらうんうんと首を縦に振っていると、アレクシスがくすくすと笑いながら首を傾げる。俺はすぐに笑顔で肯定し、今まであった事を話し始めた。





「あ、そうだ。午後から海に行くんだけど…アルも海行くんだよね?」
「イヨが良ければ、ぜひ」
「当たり前じゃん!よし、じゃあもう着替えちゃお!日焼け止めも塗んなきゃ!」


ある程度今までの事を話し終え、思い出したかのように問い掛ければ彼は肯定を示した。アルティメットウルトラスーパーハッピーじゃん!ニィさんとも秀にぃさんともアルとも遊べるとか、凄い嬉しい!

既にテンションのメーターが振り切っている俺は、急いで荷物の中から水着を取り出す。その場で着てしまおうと、履いていたワイドパンツと下着を脱ぎ素早く水着を履いた。放り投げていたワイドパンツと下着はアルが畳んでくれたようで、アルの膝の上に置いてある。わぁ…アルに下着を畳ませてしまったという謎の罪悪感が…



「アル、畳んでくれてありがとう。ごめんね、やらせちゃって…」
「構わないよ。僕がやりたかったからやっただけだから、気にしなくても大丈夫。それよりも、シャツも脱ぐんだろう?ボタン、外してあげるよ」
「それもアルのやりたい事なら、お言葉に甘えちゃお~」


アルは俺を甘やかすのが好きなので、お言葉に甘えてしまおう。前に拒否したらこの世の終わりみたいな顔してたし、そっちの方が罪悪感凄いもん。
慣れた手つきでボタンは外されていくが、1番上のボタンを外し終えた瞬間、手が止まる。


「これ…」



ボソリと呟いた声を拾いアレクシスの表情を伺う。悲痛な顔である一点を見つめていた彼は、ゆっくりと手を下へ下ろしていき、腹の傷を触った。


「ん、それ、さっき話した刺されたとこ。跡は残っちゃったんだよね」
「…痛かっただろう?可哀想に…」
「もう痛くないし、大丈夫だよ」


安心させるように笑って見せるが、彼は納得がいかないのか未だ眉を下げて悲しそうにしている。過保護だなぁ、なんて思いながら、どうにか話を逸らそうと日焼け止めを手に取った。


「アル、日焼け止め塗って~」
「…うん、僕でよければ。ここだと少し塗りにくいな…ベッドルームにいこうか」


アレクシスに手を引かれ、そのままベッドへとうつ伏せに寝転がる。自分の腕を枕にし目を伏せて寛いで待っていると、アルが跨ったのだろう、太ももあたりに少し体重がかかった。日焼け止めのボトルを開閉する音ともに「触るね」という優しい声が囁かれる。軽く首肯して見せれば、ひんやりとした感触が肩甲骨の辺りに広がった。
優しく、壊れ物に触るかのような強さで撫でられるため、思わずくすぐったさに息が漏れる。


「っ…ふ、ぅ…ん……ぅ…ひゃうっ、」


肩甲骨から、背骨のラインを沿うように手が動いていく。冷たかったクリームの感触は俺とアルの熱によって、もう感じなくなっていた。



「…イヨ、大丈夫?」
「えっ、あ、…う、ん…っふ、…ちょっと…くすぐったかっただけ…ッん…」



背骨がある部分に指があたる度に、くすぐったさと共にゾクゾクとした痺れが駆け巡っていく。それから逃げようと体を若干動かすと、さらに体重がかかったのと同時に腰をグッと掴まれた。それに驚き上半身を起こして振り返ってみれば、跨っていたアレクシスが俺の体が動かないように固定していた。



「……ごめんね、重いしくすぐったいと思うけれど、少し我慢してくれるかな?すぐに終わらせるから」
「ぅん、大丈夫…っ、ふ…ん、…ぅう…んっ…」



困ったように眉を下げて謝ってきた彼に、大丈夫だと首を横に振りながら答える。うつ伏せの体勢に戻ると、軽く掴まれていた手の力が抜けていき、腰の中心に向かうように動きはじめた。その動作に勝手にびくりと腰が跳ねるが、アレクシスは特に何のリアクションもなく塗ってくれている。

そう、これは、別に、いやらしい事をしているわけではない。わけではないんだが…どうしても昨夜の事が思い浮かんでしまい、若干愚息が反応しそうだ。

背中を撫でられるのさえ快感へと変換しそうになるぶっ壊れた神経回路を遮断するように、意味もなく頭をぶんぶんと振ってひたすら素数を数えた。



「うひぇっ!?え、えっ!?アル!?」
「驚かせてごめんね。脚も塗ろうと思ったんだけど…ダメだったかな?」



腰にあった掌が離れたと思えば、今度は太ももへと移動し、驚いて間抜けな声を出してしまった。どうやらこのまま脚にも塗ってくれるようなのだが…
どうしようかと迷ったものの、流石にそこまでやってもらうのは悪いっていうか…俺が、俺がダメなので…
断ろうとアレクシスの方へ向くと、断られると分かったのか、あからさまに肩を落とししょぼりとしていた。

え~~~~何その可愛い顔~~~~~~犬耳見えてきちゃうんですけど~~~~~!!も~~~~~!!そんな、そんな顔されたらいいよって言っちゃうじゃん~~~~~~!!!



「いいよぉ…」



ぐりぐりとベッドシーツに顔を押し付けながら答えると、くぐもった声が響いた。

そもそも、だ。いやらしい触り方さえされなければ別に?反応とかしないし?さっきのは、朝にニィさんに腰撫でられたせいってのもあって、ついつい思い出しちゃっただけだし?今はもう素数のおかげで冷静になったし?アルの手つきはエロくなかったし?そう、何も問題ない!ないったらない!だから反応すんなよ、愚息!


「っひわ…」


突然やってきた冷ややかな感触に間抜けな声が漏れる。これ以上声が出ないようにキツく唇を引き結べば、太ももの上を掌が往復し始めた。塩を振った肉を揉み込むように、絶妙な力加減で撫でられるのが気持ちよくて、思わず目を瞑ってしまう。どうやら自然と緊張して体がこわばっていたようで、マッサージに合わせて肩の力も徐々に抜けていった。太ももにあった掌はいつの間にかふくらはぎへと流れていき、ふくらはぎも丁寧に揉み込まれていく。
今の俺は下拵えをされてる肉だ……


「はい、塗り終わったよ。マッサージもしてみたんだけど、気持ちよかったかな?」
「はぁ…ちょ~きもちかったぁ…脚が軽~!アルありがと!」
「どういたしまして。前も塗ってあげようか?」
「前は自分でやるって~アルが冗談いうなんて珍し~!気持ちだけ受け取っとくね。そうだ、アルも着替えたら?背中、塗ってあげるぜ?」


掌が脚から離されたのを合図に、うつ伏せの状態から起き上がる。そのまま四つ這いでベッドの縁まで移動し、座り直した。脚をぶらぶらと揺らしながら、アルへと笑顔で感謝を告げる。
どうやら知らぬ間に疲れや浮腫みの原因である水分が溜まっていたようで、マッサージを受けた脚は軽く、若干ぽかぽかしていた。前も塗ろうか?なんて冗談めかして言うアレクシスにくすくすと笑いながら、日焼け止めのボトルを手に取って掌へ適量絞り出す。


「…うん、じゃあそうしようかな」


塗ってあげるという提案はどうやら採用されたらしい。アルは早々にベッドから降りて荷物を取りに行ってしまった。とはいえここは続き部屋になっているから、アルの背中は丸見えなのだが。人の着替えを覗く趣味はないので、視線をアルの背中から自分の体へと向け、掌に出した日焼け止めをべちょべちょと体や腕に塗り始めた。


「イヨ、日焼け止め、塗ってくれないかな?」
「あ、着替えた?じゃあ塗るから寝転……ぶ前に腹筋触らせて…」


余ったクリームを適当に塗りたくっていたら、着替え終わったアルに声をかけられる。声の方へと視線を向ければ、キラキラ王子様フェイスと数年前にはなかったバキバキの腹筋が目に映る。思わず欲望のままに腹筋触らせてとかお願いしちゃった…筋肉スゲ~…


「ふふふ、はい、どうぞ」
「ぅわ…かった…すご…何?何したらこんなになんの?」
「特に珍しいことはやっていないと思うけれど…普通にトレーニングしただけだよ」


アルに手を取られ、そのまま彼の腹筋を触る。指先で軽く押してみれば、ハリのいい筋肉に簡単に押し返されてしまった。それに感動し、どんな筋トレをしているのか聞いてみたが、平然と普通のトレーニングだと返されてしまった。

絶対嘘だって!俺もみんなが言う普通のトレーニングをしていた時期もあったけど、全然筋肉つかなかったもん。今もうっすら腹筋があるかな?位で、腕や太ももは全然だ。ニィさん達からは体質の問題なのだから仕方がないと言われたのだが、やっぱり諦められない。だって男の子の憧れでしょ、筋肉って!固く閉まった瓶の蓋を簡単に開けれたりするの、あまりにも便利じゃん!



「そろそろいいかな?」
「あ、ごめんごめん!はい、じゃあ寝転がってくださ~い」



無我夢中で腹筋をつついていたら、流石に痺れを切らしたアルが俺に声をかけた。はっとしつつ謝罪を述べて寝転がって~とベッドをぽんぽんと叩けば、アルはゆっくりとうつ伏せに寝転がる。膝立ちでアルに近づいて彼の体を跨ぎ、体重をかけないように若干体を浮かせる。だが何故か浮かせていると気がついたアルが「そのまま座っても大丈夫だよ」なんて優しい言葉をくれた。くっ、俺に筋肉はないのでありがたく座ります…若干浮かせるのは大分きちぃんですわ。



「背筋もすごい!よ~し、んじゃあ塗るぞ~」



日焼け止めを手にべちょっと出して…両手を擦り合わせ若干温めてから、えいっと背中に塗りつけた。
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