夢守りのメリィ

どら。

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5.星の道をゆくものたち

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焚き火の赤い光が、夜の草木をゆっくりと揺らしていた。
葉の隙間から覗く星々が、旅人たちに光を注ぐ。

静寂の中、メリィがふと思い出したように声を上げた。

「そういえば、今日の昼間道の向こうから馬車が通ったよね?あの荷台の上に、綺麗な花の飾りがついてたの、見た?」

膝を抱えたまま空を見上げ、くるりと巻いた前髪が風に揺れる。焚き火の火花がその端を照らした。

「ああ……派手だったな」
ネロが薪をひとつ火にくべ、ぱちりと音を立てる。

「花嫁道中か何かじゃないか? ずいぶん晴れやかだったし」

「うん……綺麗だったなあ。馬も立派で、荷車の布も真っ白で……。あんな旅もしてみたいな」

メリィの言葉に、ワノツキがふっと短く息をついた。
手にしていた木の枝を削るナイフの動きが、静かに止まる。

「……荷車の上の晴れ姿か」

ぽつり、と低い声。

「悪くねぇさ。道の向こうで誰かが夢を叶えてるってのは、良い光景だ。けど――そういうのを見ると、思い出しちまう」

焚き火の明かりが、彼の影をゆらりと映す。

「昔の自分を、な」

メリィが首を傾げる。

「昔の、ワノツキ?」

彼は枝とナイフを置き、焚き火に目を落とした。

「……夢ってやつはな、追いすぎるとロクなことにならねぇ場合もある。手に入れるために、大事なモンを見失う……そういうこともあるんだ」

メリィの目が静かに伏せられる。

けれどワノツキは、すぐに目を上げた。

「でもな。だからって……最初から諦める必要はねぇ。お前さんはらは間違っちゃいねぇよ。今のところ、な」

「……ワノツキ」

「……俺は頭悪ぃからよ、うまく言えねぇけど……」
そう呟いて頬をかく彼の表情には、確かな優しさがにじんでいた。

「――お前が何かを大事に思って、まっすぐ進もうとするなら。その分、俺も……そいつを守る側にいる」

静かに言い切ったその言葉に、メリィの瞳が焚き火の灯を映し、ふわりと笑った。

「……ありがとう」

ネロがくつくつと笑う。

「メリィはな、何を言っても止まらないんだ。思考も行動も一直線。だからこそ、短所にもなるけど――いいところでもある」

「だから、おまえの前を遮る雑草を払うくらいは、オレがやる。お前は信じた道をまっすぐ行けばいい」

「ふふ……頼りにしてる」

焚き火の火花が、夜空へと舞い上がっていった。

――ちりんちりん。

風が草を揺らし、鈴の音がどこからか聞こえてきた。
次いで、控えめな馬の蹄音。

その気配にネロが眉をひそめる。ワノツキも手を止め、そっと立ち上がった。

やがて、茂みを分けて現れたのは、鳥族の家族連れだった。
翼を背にたたんだ、穏やかそうな父親。花飾りを髪に編み込んだ母親。
その後ろから、無邪気な声で話す姉弟が顔を覗かせる。

「おや、旅の方ですか? こんな森の中で焚き火とは……風流ですねぇ」

父親がにこやかに声をかけてくる。
母親も礼儀正しく頭を下げた。

「よろしければ、ご一緒しても?」

その問いにネロが軽く頷き、焚き火のそばの鍋に目をやる。

「……スープがまだ少し残ってる。よかったらどうだ」

「まぁ!冷えた体に沁みそうだわ。ありがとうございます」

母親が微笑むと、姉弟が「いい匂いだ!」とぱたぱた羽を広げかける。

ワノツキが薪をくべ直し、低く呟く。

「火なら、いくらでも。夜道は冷えるからな」

その気遣いに、父親が深く頷いた。

「実は……フェザリアへ帰る途中なんです」

鳥族の母親がそっと打ち明ける。

「毎年この時期、“仮面祭り”がありまして……皆で向かうところなんです」

「仮面祭り……?」

メリィが身を乗り出し、目を輝かせる。

「ええ。年に一度の大きなお祭り。街中が仮面と花で飾られて……身分も種族も関係なく、皆で踊るんですよ」

「わあ……行ってみたいなぁ……!」

その言葉に、母親がふっと目を細める。

「よろしければ、私たちの馬車でご一緒に。荷台にはまだ余裕がありますから」

ネロがちらりとメリィを見る。彼女の嬉しそうな表情に、口元が自然と緩む。

「……それなら、甘えさせてもらおうか。ちょうどオレたちもその街を目指してた」

「ありがとう!」

ワノツキも小さく頷いた。

「いい旅になりますよう。そう願いましょう」

母親がそっと胸の羽飾りに触れる。
その仕草は、旅人の無事を祈る鳥族の習わしだった。
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