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28.宝飾の街へ、煌めきの罠
しおりを挟むお世話になった漁師に別れを告げ、港町ティレルナを後にしたメリィたち一行は、次なる目的地へと足を進めていた。
海沿いの街道を抜けた先、装飾品の工房が軒を連ねることで名物な街
――宝飾の街ジョエルを目指して。
「キラキラがいっぱいですかね!?」
「楽しみですね!きっと、お洋服や靴なんかも、全部キラキラなんですよ!」
双子――メルルとマヌルは手を取り合い、はしゃぐように声を上げる。
そして、くるりと振り返り、メリィに小声で耳打ちをする。
「姉さま!あのですね、メルルたちのいた街では、好き同士はお揃いのものを身に着ける風習があるんですよ!」
「この通り!メルルとマヌルも、お揃いの首飾りをしてるんですっ!」
二人の胸元には、淡い光を放つ星形の石が付いた小さな首飾りが揺れている。
「ですから姉さまも、ネロさまと、お揃いのものを持たれてもよろしいのでは?」
最後の一言は、他の誰にも聞こえないように、ごく小さな声で耳打ちをする。
途端に、メリィの顔がぼっと赤く染まり――
「も、もうっ!からかわないでよ!!」
顔を真っ赤にしながら、双子とふざけ合いはじめる。
その様子にぬっと割り込む影がひとつ。
「……我も、混ぜろ」
「わぁあぁ!邪魔しないでくださいズメウさん!」「姉さまとの貴重なじゃれ合い中なんですぅ!」
双子が頬を膨らませて文句を言う中、ズメウは真っ直ぐメリィを見て言った。
「メリィ、我を“さん付け”で呼ぶのはやめよ。“ズメウ”と呼び捨てで構わぬ。いや、そうしてくれ」
「えっ……?」
「…竜が呼び捨てを許すのは、信頼の証しだ。メリィには、その資格がある」
メリィが返事に迷っていると、横からネロが口を挟んだ。
「そうか、それなら……オレたちも、呼び捨てで呼んでいいんだよな、“ズメウ”」
その笑顔は、どこか怒気を帯びているようにも見える。
2人の間にはバチバチと、火花が散っているように見える気がする。
「お若きことは良きことですなァ~」
傍観を決め込むタカチホが、穏やかに笑い、その横ではワノツキがため息をついていた。
賑やかに会話を交わしながら進んでいた一行の前方から、突然叫び声と、逃げてくる人々が飛び込んでくる。
「あんたたちも早く逃げろ! 怪物化だ!!!」
一人の中年の男が叫びながら走り去っていった。
「行くぞ!」
ネロが即座に判断し、先頭を駆ける。
メリィ、双子が続き、ワノツキが大槌を構えて後を追う。
「おやおや……みなさんお早い事で」
タカチホが肩を竦める。
「……なぜ、己と無関係な者を助けに行く?」
ズメウが問う。
「それは……皆さんと深く関わっていけば、おのずと理解できるのではないでしょうか」
目を細め、ネロ達を見るタカチホ。
「……そういうものか」
短く返したズメウも、彼らの後を追った。
やがて辿り着いたのは、宝石のように輝く結晶が辺り一面に散らばる、惨状の中心。
「ホら、ミテ。ワタくシ、トテも美シイでショウ?」
楽しそうに声を響かせるのは――人の形をしているが、全身に宝飾品を纏い、歪に光り輝く異形の怪物だった。
その傍らには、地面から突き出した結晶に串刺しにされた人々の姿がいくつもあった。
「ワたクシヲ引き立テるオブジェはイクつあッテモ困りマせんノ。
だかラ……アナた達モ、コレクションノ一つにシて差シ上げマスワ!!」
「下だ!!」
ネロの叫びと同時に、一行は跳躍する。
直後、彼らがいた地面から鋭い結晶が突き上がってきた。
「これじゃあ近づけません……!」
「どうしましょう、姉さま!」
双子が困惑する中、ワノツキは結晶を砕きながら突き進もうとする。
「クソッ!!壊しても壊しても生えてきやがる!雑草よりタチが悪い!」
その時、一行の後ろから悠然と歩いてくる影がひとつ。
「……ふむ。彼奴を倒せば良いのか?」
ズメウだ。
「アラ、美しイ。わタクシのコレクションに、ピッタリデすワ!!」
ズメウを見た怪物は狙いを定める様に彼を見据える。
一直線に、地面からは結晶が次々と生え、ズメウに向かって行く――
「危ない!!」
メリィの叫び。しかし、彼の尾が一閃すると、結晶は粉々に砕け散った。
「ワ、ワタクシの……宝石達ガ……コレクションが……なんテこト……ア、アアア、アアアアア――!!!!」
「――煩い」
ズメウが手を振り下ろすと見えない圧のようなものが怪物へと襲いかかる。
その一撃で、怪物はグシャッと音を立てて潰れた。
「お前の声は、不愉快だ」
唖然とする一行。あまりの圧倒的な力に、誰も言葉を発せずにいた。
唯一、タカチホだけが肩を竦めて呟く。
「アララ~……やりすぎですよォ」
ズメウはメリィに向き直る。
「…メリィよ…これで、よかったのか?」
「うん!助かったよ。ありがとう、ズメウ!」
メリィの口から、はじめての呼び捨て。
それを聞いていたネロは、唇の端をわずかに歪めながら、目を逸らした。
「「姉さまっ!!これっ!!」」
空気を裂くように、双子の声が響く。彼女たちは倒れた怪物のそばに落ちていた赤い宝石のブローチを拾っていた。
「これ……すっごく嫌な感じがします……!!」
「マヌル、もう持ってるの限界ですぅ~!!」
赤い宝石は、どこか濡れたような光を放ち、見る者の心をじわじわと蝕むようだった。
ブローチを見たメリィが、ぽつりと呟く。
「……悪夢の結晶だ」
その言葉に、ネロがピクリと肩を震わせる。
最近は沈静化していた“悪夢”の気配――それが、また現れたのか?
「……不穏な空気、ですねェ」
タカチホが、厚い雲がかかる空を見上げて言った。
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