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27.波を越えて、竜と共に
しおりを挟む「……そんな、まさか……我々の先祖が、そんな非道なことを……」
村人たちは、ズメウの語った真実に唖然としていた。
信じ難い、だが竜の静かな怒りは、それが真実であることを否応なく証明していた。
「……失われてしまったものは、戻ってこない……“すまなかった”で済むことじゃない。だけど、それでも……すまなかった」
誰かがそう呟くと、村人たちは次々に頭を垂れた。
そして、ある年配の男が顔を上げる。
「竜、セイラン様のこと、私たちの代からは決して忘れません。その名を語り継ぎ、村を守護していただいた者とし、祀ります」
その言葉に、ズメウはほんの一瞬だけまなじりを揺らし、一言だけ言う。
「――好きにするがいい」
それだけを言い残し、彼は静かに背を向けた。
その後ろ姿を見つめながら、メリィがズメウへと話しかける。
「セイランさんも……ズメウさんも、優しいんだね」
その言葉に、歩みを止めたズメウが振り返る。
「我が、優しい……?」
「許すことができる優しさ、想うことができる優しさ……ズメウさんは、優しさにあふれてるよ」
メリィのやわらかな笑顔に、ズメウは一瞬だけ目を見開き――ふ、と微かに口元を緩める。
そして海辺を眺め、心の内で呟いた。
『セイラン……お前が短き者と過ごしていた気持ちが、今なら少し、分かるやもしれんな』
島から戻ってきた一行は、港町ティレルナの宿へと戻って来ていた。
「さてと、自己紹介をば!」
タカチホが腕を広げ、いつもの調子で始める。
「我はズメウ。特に説明はせぬ。見ての通りだ」
「うわぁ、自己紹介、簡潔ですね……!メルルはメルルです!マヌルの姉です!」
「マヌルです!メルルの妹です!」
「ワノツキだ」
「ネロだ。よろしく」
「わたしはメリィだよ!よろしくね!」
「小生、調香師であr「貴殿はよい」あ、ハイ」
いつもの調子で話せなかったタカチホはとほほと肩を落とした。
ズメウは皆を一瞥し、軽く頷くだけだった。
そして、部屋割り。ズメウを誰と同室にするかという話になり――
「小生は!小生は断じて!!ズメウさんとの同室は!断・固拒否します!!!」
タカチホが全力で身を引いた。
「ふむ。ならば我は外で寝る。宿に泊まる必要もない」
「やめてください!!」
「そんなことしたら街中大騒ぎになります!!」
双子があわあわと手を振って止める。
結局、タカチホが渋々妥協し、ワノツキ、ズメウと三人で同室という案に落ち着いた。
そして、ネロとメリィが同じ部屋へと入って行くのをみたズメウがその二人を指さして言った。
「……あの二人は“番”なのか?」
「……違う。…今のところはな」
とワノツキが真顔で答える。
「ふむ。ならば――我がメリィを“番”としても、良いのだな?」
「いいわけないだろ!!!」
ズガン!!と音を立てて部屋の扉を勢いよく開けたのはネロだった。
「まだ“番”ではないのだろう?」
ズメウの真顔に、タカチホがわざとらしくいい笑顔で頷く。
「ウンウン!これはとても、とても面白そうな展開になってきましたねェ……!」
「厄介ごとの間違いだろ」
ワノツキが眉間を押さえる。
「メリィ姉さまはどちらにもあげません!!」
「あげません!!!」
双子がわーっと会話に乱入してくる。
そして遅れて部屋から出てきたメリィは、皆の視線が集まっていることに戸惑いながら、
「えっ!?えっ!?私何かした?な、なんの話!?!?」
きょろきょろと視線を泳がせるのだった。
……ネロの、恋のライバル、現る。
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