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45.火、爆ぜる街(前編)
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鍛冶師の国――グルニエラ。
煙と火と鉄の香り漂うこの街で、一行は武器のメンテナンスをすることになった。
「お前さんら……どんな激戦潜り抜けてきたか知らんがなぁ……」
鍛冶屋の主――屈強な老職人は、ネロの短剣を手にとり刃こぼれを確かめ、メリィの大鉈の鈍った刃先に唸り、ワノツキの大槌のゆがみを見て眉をひそめる。
「武器ってのはな、殺すも守るも命に直結するもんだ。手入れはちゃんとせにゃあならん……道具の世話を疎かにして、無事でいられると思うなよ」
渋い声が鉄と煤の匂いに混じる。双子がこっそり顔を見合わせて小さく頭を下げる。
「ワノツキさま、大槌、ちゃんと預けないと……」
「う、うるせぇ……分かってるよ……」
渋々と大槌を鍛冶屋に渡しながら、ワノツキは柄のリボンをぎゅっと握る。マーレの形見――これだけは離せなかった。
「このリボンは……取らないでおいてくれ。大事な……形見なんだ」
「おぉ、おぉ。わかっとるわい。無理に外しはせん」
その横で、タカチホがズメウをちらりと見る。
「ズメウさんも……さすがにそろそろ、武器持って戦いませんか? あなたの身のこなし……人の域超えてますヨ。一般の人に見られたら流石にまずいデス」
「……ふむ」
ズメウはゆったりと店内を見渡した。
ふと、壁に立てかけられた一本のハルバードに目を留める。
「これならば……我の力に耐え得るやもしれぬな」
ゆっくりと持ち上げると、その重量を確かめるように軽く振るう。
刃先が試し切り用の藁人形に触れた瞬間――
ズパァン。
カカシが綺麗に二つに割れた。細く、滑らかに。
「……うむ」
「おぉ……」
「ひえぇ……」
一同、無言。
「代金は高くつくぜ?」と鍛冶屋の主も苦笑する。だがズメウは何も言わず頷き、金貨袋を置いた。
こうして、ズメウは新たな武器――ハルバードを手に入れた。
***
その夜。宿。
メリィは浴室で長風呂を楽しんでいた。
ネロは部屋の片隅で、散らかったメリィの荷物をまとめていた。
脱ぎちからした上着、布――その中に、ふと、何か硬いものが混じっているのに気付く。
手に取る。少し欠けた、薄青いガラスの花飾り。
「……これ……」
グラウスで――メリィの友人であるチェビオが着けていた物と、全く同じ。見間違えようがない。
何故これが、メリィの荷物に? いつ、どこで――。
最悪な予感が頭を過ぎる。
まさか、
シュヴァルが……?
だがメリィは、何も言っていなかった。
「いつだ……いつ会った……? どうして……」
心の中に冷たい不安が湧き上がる。
メリィはひとりで抱え込もうとしたのか。
やがて浴室の戸が開く。
「ふう……いいお湯だった……あれ、ネロ? どうかした?」
浴室の前に立っていたネロに、タオルを肩にかけたままのメリィが不思議そうに首を傾げる。ネロは一度目を閉じ、息を整えた。
「……メリィ」
「うん?」
「……悩んだり、苦しい事があるなら……オレにも話して欲しい。一人で、背負うな」
メリィはきょとんとする。
「ネロ、急に……なに、言って……」
言葉が途切れた。
ふいに、涙が一粒、ぽとりと落ちる。止めようとしても溢れてくる。
「………………」
メリィの肩が、小さく震えた。顔を隠すように手を当てる。けれど、涙は頬を伝って零れていく。
「ごめん……ネロ……ごめんね……」
ネロは黙って、そっと彼女を抱き寄せた。細い肩。震える体。
胸が、苦しさで締め付けられる。怒りと、悔しさと――守りたいという焦りで。
「……今は、何も言わなくていい。おまえが話したくなった時、話せばいい。だけど……一人で泣くな。オレがいる。オレ達がいる」
メリィは小さく頷いた。その目からはとめどなく、ぼろぼろと涙が落ちる。
ネロの胸に、熱い塊がじくじくと灯る。
「――シュヴァル。
必ず、必ずケリをつける。」
小さく、だが芯は強く。奥歯を噛み締める様ネロは呟く。
ネロはメリィの震えが静まるまで、支えるように強く、強く抱きしめた。
煙と火と鉄の香り漂うこの街で、一行は武器のメンテナンスをすることになった。
「お前さんら……どんな激戦潜り抜けてきたか知らんがなぁ……」
鍛冶屋の主――屈強な老職人は、ネロの短剣を手にとり刃こぼれを確かめ、メリィの大鉈の鈍った刃先に唸り、ワノツキの大槌のゆがみを見て眉をひそめる。
「武器ってのはな、殺すも守るも命に直結するもんだ。手入れはちゃんとせにゃあならん……道具の世話を疎かにして、無事でいられると思うなよ」
渋い声が鉄と煤の匂いに混じる。双子がこっそり顔を見合わせて小さく頭を下げる。
「ワノツキさま、大槌、ちゃんと預けないと……」
「う、うるせぇ……分かってるよ……」
渋々と大槌を鍛冶屋に渡しながら、ワノツキは柄のリボンをぎゅっと握る。マーレの形見――これだけは離せなかった。
「このリボンは……取らないでおいてくれ。大事な……形見なんだ」
「おぉ、おぉ。わかっとるわい。無理に外しはせん」
その横で、タカチホがズメウをちらりと見る。
「ズメウさんも……さすがにそろそろ、武器持って戦いませんか? あなたの身のこなし……人の域超えてますヨ。一般の人に見られたら流石にまずいデス」
「……ふむ」
ズメウはゆったりと店内を見渡した。
ふと、壁に立てかけられた一本のハルバードに目を留める。
「これならば……我の力に耐え得るやもしれぬな」
ゆっくりと持ち上げると、その重量を確かめるように軽く振るう。
刃先が試し切り用の藁人形に触れた瞬間――
ズパァン。
カカシが綺麗に二つに割れた。細く、滑らかに。
「……うむ」
「おぉ……」
「ひえぇ……」
一同、無言。
「代金は高くつくぜ?」と鍛冶屋の主も苦笑する。だがズメウは何も言わず頷き、金貨袋を置いた。
こうして、ズメウは新たな武器――ハルバードを手に入れた。
***
その夜。宿。
メリィは浴室で長風呂を楽しんでいた。
ネロは部屋の片隅で、散らかったメリィの荷物をまとめていた。
脱ぎちからした上着、布――その中に、ふと、何か硬いものが混じっているのに気付く。
手に取る。少し欠けた、薄青いガラスの花飾り。
「……これ……」
グラウスで――メリィの友人であるチェビオが着けていた物と、全く同じ。見間違えようがない。
何故これが、メリィの荷物に? いつ、どこで――。
最悪な予感が頭を過ぎる。
まさか、
シュヴァルが……?
だがメリィは、何も言っていなかった。
「いつだ……いつ会った……? どうして……」
心の中に冷たい不安が湧き上がる。
メリィはひとりで抱え込もうとしたのか。
やがて浴室の戸が開く。
「ふう……いいお湯だった……あれ、ネロ? どうかした?」
浴室の前に立っていたネロに、タオルを肩にかけたままのメリィが不思議そうに首を傾げる。ネロは一度目を閉じ、息を整えた。
「……メリィ」
「うん?」
「……悩んだり、苦しい事があるなら……オレにも話して欲しい。一人で、背負うな」
メリィはきょとんとする。
「ネロ、急に……なに、言って……」
言葉が途切れた。
ふいに、涙が一粒、ぽとりと落ちる。止めようとしても溢れてくる。
「………………」
メリィの肩が、小さく震えた。顔を隠すように手を当てる。けれど、涙は頬を伝って零れていく。
「ごめん……ネロ……ごめんね……」
ネロは黙って、そっと彼女を抱き寄せた。細い肩。震える体。
胸が、苦しさで締め付けられる。怒りと、悔しさと――守りたいという焦りで。
「……今は、何も言わなくていい。おまえが話したくなった時、話せばいい。だけど……一人で泣くな。オレがいる。オレ達がいる」
メリィは小さく頷いた。その目からはとめどなく、ぼろぼろと涙が落ちる。
ネロの胸に、熱い塊がじくじくと灯る。
「――シュヴァル。
必ず、必ずケリをつける。」
小さく、だが芯は強く。奥歯を噛み締める様ネロは呟く。
ネロはメリィの震えが静まるまで、支えるように強く、強く抱きしめた。
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