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67.ふわり、舞い上がる
しおりを挟む街を出て、本の街を目指す旅路。
空は高く晴れ渡り、草原には風がそよいでいた。
「ふふっ、いい天気ですね!」「絶好の水遊び日和です!」
双子——メルルとマヌルが小川を見つけて駆けていく。
靴を脱いで水に入り、バシャリと音を立てた。
「ちょ、ちょっと!そんなに濡らしちゃ——きゃあっ!」
メリィも巻き添えだ。ぱしゃりと水が跳ねて、服も髪もびしょ濡れ。
「わぁ!!ごめんなさい姉さま!」
「ごめんなさいっ!」
双子が慌てて駆け寄る。
「いい、いいの……大丈夫だから」
苦笑いのメリィだったが、濡れた服が体に張りついて、さすがに気になる。
「そういえばメリィサン!ライオットサンに何か貰っていらっしゃいましたよネ!」
タカチホが飄々と呟く。
「……あるよ。ライオットさんにもらった服が」
メリィはそっと荷物から紙袋を取り出す。
中にはフリルたっぷりの、可愛らしいワンピース。
(……着るしかないよね)
木陰で着替えを済ませる。
出てくると、ズメウがじっとこちらを見た。
「……愛い」
「えっ……」
思わず立ち止まるメリィ。
ズメウは相変わらず無表情で、ただそれだけを呟いた。
「メリィ、こっち来い」
その声に肩を叩かれる。ネロだ。
少し強引に、皆から離れた茂みの方へ連れていかれる。
「ネロ……? どうしたの?」
「……あんまり、他のやつに見せたくなかった」
ぽつりと呟いたネロの顔は、ほんのり赤い。
「その……似合ってるから……」
「えっ」
思わず顔が熱くなるメリィ。
お互い顔を背け、沈黙。
「……ちょ、ちょっと、新しい武器の調整したい。付き合ってくれ」
話題を変えるようにネロが言う。
メリィも慌てて頷いた。
「う、うん!もちろん!」
ネロが短刀を抜く。対するメリィも大鉈を構えた。
「行くぞ!」
風を切り、ネロが一気に間合いを詰める。
メリィは後ろに飛び、近くの木を蹴って高く跳躍——
「はっ!」
勢いを乗せ、大鉈を振り下ろす。
ネロは短刀で刃を受け流した。
「相変わらず一撃が重いな!」
「そっちだって上手く捌いてるじゃない!」
互いに笑いながら、何度も打ち合う。
楽しい——心が軽い。
だが——
「ふっ!」
くるりと回り、ネロの背後に回り込むメリィ。
その瞬間、ネロの顔が赤くなった。目線が下に逸れる。
「……っ!」
動揺したネロは大鉈を捌ききれず、軽く峰打ちを肩に受けてしまった。
「ネロ! 大丈夫!?」
慌てて駆け寄るメリィを、ネロは片手で止めた。
「……やっぱり、その服の時は……模擬戦やめとこう。な?」
「え……?」
メリィがきょとんとする。だが次第に理解し、顔がみるみる真っ赤になる。
スカート。いつもと違う。
動けば——めくれた、かもしれない。
「……見た?」
ぷるぷると震え、涙目のメリィ。
ネロは顔を隠しながら「いや……」と口ごもる。
その赤い顔が答えだった。
二人して無言で仲間の元へ戻る。
少し距離の空いた様子に、ワノツキがぼそり。
「……なんだあいつら。よそよそしいな」
「えっ、けんかですか!?」
「けんかはダメです!!」
双子がわたわたと慌て、タカチホが肩をすくめる。
「若いってイイですネェ……ふふ」
そんな賑やかな声を聞きながら、メリィとネロは隣り合って、静かに顔を赤らめていた。
旅路はまだまだ続く——。
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