夢守りのメリィ

どら。

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85.夏の夜

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夏の気配が濃くなり、陽も長くなったある日の夕暮れ。
メリィたちは川沿いの広い河原で野営をすることに決めていた。

さらさらと流れる水音。
涼やかな風。
陽の光で暖まった石の匂い。

「やっぱり水辺は気持ちいいですね~」
タカチホが大きく伸びをしながら言う。

「夏だからこそ、こういう場所で休めるの嬉しいですよ!」
双子のマヌルとメルルも川のほとりをちょこちょこと駆け回っている。

「焚き火の準備、できたぞ」
ワノツキが手際よく薪を組み、火を起こした。
ズメウは川辺の大岩の上でじっと空の様子を見ている。

やがて夕飯を食べ終わり、焚き火の周りに皆が集まる。
そこへ、ひょいとタカチホが口を開いた。

「ところで、川といえば……怖い話、聞きませんかァ?」

「えぇぇぇ!?や、やめましょうよ……!」
メリィが小さく肩をすくめ、双子も「こ、こわいです……」と焚き火に寄る。

「良いでしょウ?こういう時には……ふふ、川の底から手が伸びてくるとか……」
目を細め、ぞくりとするような声色で語り出すタカチホ。

一行の顔色がみるみる青くなる。
ズメウも無言でじっと聞き入っていた。

「……その女は夜な夜な川に現れては、通りかかった旅人を――」

「や、やだっ!」
「姉さま~!メルルおトイレ行けないですっ!!」
双子がきゅっとメリィの袖に掴まる。

「おいタカチホ、やりすぎだろ」
ワノツキが呆れたように口を挟む。

「えェ?せっかく夏の風物詩を味わってもらおうと……」
楽しげな顔のタカチホ。

「ズメウさま、抱っこしてください……!」
「マヌルも……!」
双子はずいとズメウの傍に行き、その腕にしがみつく。
ズメウは無言のまま、軽く双子の頭に手を置いた。


夜も深まり皆が眠りにつく頃、メリィは……焚き火のそばで座ったまま、ネロの腕をぎゅうっと掴んでいた。
メリィとネロは見張り番をしていたのだ。

「メリィ……そんなにがっちり掴んでたら、いざって時動けないぞ?」
苦笑しながらネロが言う。

「だ、だって……怖いんだもん……!」

ネロは小さく息をつくと、そっとメリィの手をほどき、自分の足で彼女を挟むように座り込む。
そのまま、後ろから両腕で優しく抱きしめた。

「ほら。これなら……怖くないだろ?」

その声はとても、優しかった。

「……うん……」
メリィは、ほっとしたように目を閉じる。

パチパチと焚き火が音を立てる。
静かな夜が流れていく。

しばらくして——。

「……?」
肩にかかる重み。

そっと横を向くと、メリィの肩にネロの頭が乗っていた。
彼は珍しく……眠ってしまっているようだ。
規則正しい呼吸が耳に心地良い。

「……ネロ……いつも、ありがとね」

メリィはそっと、ネロの額にキスを落とした。

——と。

「……メリィ。今……」

驚いたように目を開け、額に手を当てるネロ。

「お、お、お、おきてたの!?」
メリィの顔が見る見る赤くなる。

「ちょっと!やだ!聞いてないよ~っ!」
じたじたとネロの腕の中で暴れようとするが、がっちりホールドされたままだ。

「逃してやれないな」
ネロは嬉しそうに笑う。

「お二人サ~ン。交代ですよ~?」
タカチホが笑いながら声をかけ、ワノツキもニヤリと笑っていた。

「……ほんと、仲良いな」
ワノツキは呆れたように、だがどこか嬉しそうに焚き火を見つめていた。

川の流れる音と、焚き火の灯り。
ほんのひととき、穏やかであたたかな夜だった。

——旅の途中の、ささやかな休息。
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