夢守りのメリィ

どら。

文字の大きさ
96 / 140

96. 空の上、隔たるもの(前編)

しおりを挟む

地図を手にしたネロが、険しい表情であたりを見渡していた。

「……おかしいな。地図だとこのあたりに街があるはずなんだけど……」

だが、目前に広がるのは木々の生い茂る山の斜面と、青空の広がるばかりの空。
建物どころか道らしいものすら見えない。

「見落としかと思ったけど……これで合ってるハズなんだよなぁ……」
ワノツキも首をひねっていたそのとき、ズメウが無言で一歩前に出て、空を指差した。

「……あそこだ」

皆が一斉に視線を上げる。

遥か上空、雲間に霞むようにして浮かぶ巨大な浮島。そこには人工的に作られた建造物のようなものが遠目からでも確認できた。

「じ、地面が……浮いてます!?」
メルルが目を見開いて声を上げる。

「不思議ですっ……!どうなってるんですかコレっ!」
マヌルも顔を輝かせ、見上げたまま小さく跳ねる。

「……どういう原理で浮いてんだ?あり得ないだろ、アレ」
ネロが唸るように言うと、ワノツキが腕を組んで呻いた。

「にしても、あんな空中に街があるなんてよぉ……どうやって行くってんだ?」

ズメウが視線を一度だけ巡らせたあと、静かに告げる。

「我に乗れ」

言葉とともに、その身体が淡い金色の光を放ちはじめた。風が舞い上がり、衣がはためく中で、ズメウの姿は徐々に竜のそれへと変わっていく。
筋肉の浮き出た大きな体躯、翼膜の張った双翼、鋭く湾曲した尾。

巨大な黒銀色の竜の姿となったズメウが、ゆっくりと頭を垂れる。

「……いいの?」
メリィが戸惑い気味に聞くと、竜の瞳が彼女を見つめ、低く響く声が返る。

「お前は覚えておらぬだろうが……かつて我の背に乗っている。フィズの一件のあとだ」

「……そうなんだ」
メリィは目を細め、過去の記憶を探るが、意識の底はまだ薄暗いまま。
けれど、ズメウの言葉に迷いはない。

「じゃあ……お言葉に甘えるね。ありがとう、ズメウ」

メリィはそっと手を伸ばし、ズメウの鼻先を撫でる。
ズメウは満足気に喉を鳴らし、尾が揺れた。

「さ、シーダはこっちですヨ」
タカチホはシーダの小さな手を取り、自分の前にちょこんと座らせる。ずり落ちぬよう、片手でしっかりと腰を支えた。

一方、ネロは当然のようにメリィの脇へ腕を差し入れ、ひょいと持ち上げて自分の前に乗せた。

「……ちょ、ネロ!?それって、子ども扱いしてない……?」

「じゃあ、大人扱いしていいのか?」
耳元へ顔を寄せ、低く囁くネロ。その気配に、メリィの頬がぱっと赤く染まる。

……が、その甘い雰囲気はすぐに遮られることとなる。

べしっ!!

鈍い音とともに、ネロの背中が大きく揺れた。振り返ると、双子がぴたりと真後ろで睨みを効かせている。

マヌルの指先には、光る爪がちらりと覗いていた。

「なんだお前ら……応援してたんじゃねぇのか……?」
ワノツキが呆れたように問いかけると、双子はそろって言う。

「ネロさまは、ヘタレさまから……鬼畜さまに進化してしまったのです」
「姉さまに害をなす様なら…いくらネロさまでも許しません!」

「なんだよ進化って……」
ネロは苦笑した。

全員がそれぞれの位置に乗り終えたのを確認すると、ズメウは首を持ち上げ、翼を大きく広げる。

ざあ、と風が鳴った。大地の草がなびき、翼が空を掴む。

竜の身体が地面から浮き、そして大空へと舞い上がる。
眼下には流れるように過ぎる森と谷、そして、目前には陽の光に照らされる浮島の街が、その姿を現していた。

夢のような浮遊都市へと、旅路は新たな段階へ進み出したのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

完結【進】ご都合主義で生きてます。-通販サイトで異世界スローライフのはずが?!-

ジェルミ
ファンタジー
32歳でこの世を去った相川涼香は、異世界の女神ゼクシーにより転移を誘われる。 断ると今度生まれ変わる時は、虫やダニかもしれないと脅され転移を選んだ。 彼女は女神に不便を感じない様に通販サイトの能力と、しばらく暮らせるだけのお金が欲しい、と願った。 通販サイトなんて知らない女神は、知っている振りをして安易に了承する。そして授かったのは、町のスーパーレベルの能力だった。 お惣菜お安いですよ?いかがです? 物語はまったり、のんびりと進みます。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

拾われ子のスイ

蒼居 夜燈
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞】 記憶にあるのは、自分を見下ろす紅い眼の男と、母親の「出ていきなさい」という怒声。 幼いスイは故郷から遠く離れた西大陸の果てに、ドラゴンと共に墜落した。 老夫婦に拾われたスイは墜落から七年後、二人の逝去をきっかけに養祖父と同じハンターとして生きていく為に旅に出る。 ――紅い眼の男は誰なのか、母は自分を本当に捨てたのか。 スイは、故郷を探す事を決める。真実を知る為に。 出会いと別れを繰り返し、命懸けの戦いを繰り返し、喜びと悲しみを繰り返す。 清濁が混在する世界に、スイは何を見て何を思い、何を選ぶのか。 これは、ひとりの少女が世界と己を知りながら成長していく物語。 ※週2回(木・日)更新。 ※誤字脱字報告に関しては感想とは異なる為、修正が済み次第削除致します。ご容赦ください。 ※カクヨム様にて先行公開(登場人物紹介はアルファポリス様でのみ掲載) ※表紙画像、その他キャラクターのイメージ画像はAIイラストアプリで作成したものです。再現不足で色彩の一部が作中描写とは異なります。 ※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

アリエッタ幼女、スラムからの華麗なる転身

にゃんすき
ファンタジー
冒頭からいきなり主人公のアリエッタが大きな男に攫われて、前世の記憶を思い出し、逃げる所から物語が始まります。  姉妹で力を合わせて幸せを掴み取るストーリーになる、予定です。

ぽっちゃり女子の異世界人生

猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。 最強主人公はイケメンでハーレム。 脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。 落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。 =主人公は男でも女でも顔が良い。 そして、ハンパなく強い。 そんな常識いりませんっ。 私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。   【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】

『異世界に転移した限界OL、なぜか周囲が勝手に盛り上がってます』

宵森みなと
ファンタジー
ブラック気味な職場で“お局扱い”に耐えながら働いていた29歳のOL、芹澤まどか。ある日、仕事帰りに道を歩いていると突然霧に包まれ、気がつけば鬱蒼とした森の中——。そこはまさかの異世界!?日本に戻るつもりは一切なし。心機一転、静かに生きていくはずだったのに、なぜか事件とトラブルが次々舞い込む!?

処理中です...