3 / 16
始まりの章
2話 初の◯◯
しおりを挟む名も知らぬ森、枯れた大樹が閑散と聳える見慣れた風景、いつ終わるか分からないこの移動を俺はひたすらに歩き続けている。
地面には枯れ葉が敷き詰められていて踏みしめる度に乾いた葉の割れる音が鳴り、風が通る度に枯れ木の枝が風鳴りを響かせていた。
今日で4日目。散策を始めて何一つ変わる事のない風景に俺は辟易としていた。
これだけ歩いても変わる事のない群生に最早、注意力と言う部分が大分削られ、これから出会うだろうモンスター……もしくは野生動物かもしれない獣達の格好の餌食とされているかもしれない。
多少の魔法が使えようと、襲われるかもしれないと言う不安な感覚が楽に成る訳ではないのだ。俺は3回の野宿でそれを嫌という程味わってしまった。
正直に言おう、俺は憔悴していると。
幾らアイテムで寝袋があると言っても、どれだけ強力な結界を張るアイテムがあったとしても、安全な家屋が確立されていない環境で1人、一般市民が夜の森で生活するには過酷すぎた。
しっかりとした月明かりで明るさを感じるとは言え闇の広がる夜の森で1人と言うのはかなり神経を擦り減らす、物音に敏感反応しそれを確認に出てしまうと、アイテムで結界を張っている寝床のエリアでさえ、戻ると確認せずにはいられない程、不安に苛まれる。
そしてもう一つ気持ちの削がれる出来事があった。
無限収納に搭載されていたアイテムの中に神器級の全装備が全て揃っていた事や、期間限定イベントで取り逃がしたアイテム等も入っており、廃プレイヤーとしては手に入らなかったアイテムが自然と備わっていると言うのは敗北にも似た感情が生まれてしまっていた。
そういった事で足取りも重く、放心に近い状態でトボトボと森の中を歩いて行く。
時計が無いので陽の高さと腹時計を目安にある程度の時間を計って食事はきっかり三食摂るようにしている。食料に不安はないし、何より食事だけでも満足に摂っておかないと精神的に参ってしまいそうになる。
本日二度目の食事を摂り、そろそろ歩くかと準備を始めた頃に何かが聴こえた気がした。
「——————っ!!」
女性の声が聴こえた気がしたが周りを見回しても見飽きた360°の大パノラマ風景だけしか目に入らず、寂しさの余り幻聴を聴くようになっただけだと、思わず笑ってしまった。
「————ぁぁ!!」
次に聴こえたのは間違いなく女性の声だった。幻聴ではなくかなり遠くから聴こえる声に耳を澄まして方角を探し出す。
「————……ろすぞっ!」
続いて男の怒声がかなり鮮明に聴こえて方向が定まった、これから進もうとしていた方向で間違いがないようだがかなり切迫している状況なのかもしれない。
無限収納から馴染みの強い幻想級の短剣ハデスダガーを取り出して腰に差し込むと神滅の杖を掴んで急いで向かい出す。
向かう先に聞き耳を立てながら進めて行くと男性と女性の2人分の声が聞こえてきていた、進めば進むほどその内容が鮮明になりどの様な状況下にあるかは到着前には理解できていた。
「お願い!もう止めてください!アソコがもう痛いんです、ああっ!」
「うるせぇ!逃げ出しやがってとっとと股開け、ぐちょぐちょになってる癖に嫌がんじゃねぇ!」
レイプ現場であった。
言語は問題無く聞こえるので意思の疎通に問題は無さそうで一安心だがどうにも胸糞が悪くなる状況に段々と苛立ちが立ち込めてきた。
「ぐぅぅっ痛い、痛いぃぃ、もういや止めてぇぇぇ!」
「へへ、嫌がる割には絞まるじゃねぇかよ。オラ!生きたけれゃ腰振れって言ってんだろ!」
森の中で仰向けに組み伏せられている女性は泣きながら訴えていたが半裸の醜男は何も聞いてない様に自分勝手に腰を使って嬉しそうに顔を歪めていた。
俺は心の中にグツグツと煮え滾るマグマが強く成れば成るほど暗く静かに心が沈んでいくのを感じ取り自然と表情が無になっていく。
「いいぞ、そろそろだ!お前も待ちどうしいなぁ」
「ぅぐっ、ぐぅ!もぅ……ぃや」
男は終わりに向けてラストスパートをかけていて、女性は顔を背けて呻き声を堪えながら必死に耐えていた。俺はゆっくりと男の背後から近ずいて刀身が長めのハデスダガーで首を掻き切る様に一閃すると想像以上に軽い手応えで男の頭部は跳ね飛び、大量の血飛沫を女性に浴びせていた。
「……どいて、どいて下さい」
女性は浴びた血飛沫を男の種汁と勘違いしているらしく、行為の終わりを安堵しているだけであった。
乱れた色の強い金髪を赤く染めて腕を畳んで小さく震えている女性に俺は後悔の念を強く感じていた。
——もう少し早く助けられていれば……。
糸の切れた人形の様な男の死体を蹴り倒し、未だに目を閉じて耐えている女性に無限収納から出した、ただの黒マントを掛けるとそこでようやく異変に気付く。
血に染まったブロンドヘアーとマントで隠された裸体婦、よく見ればあちこちに痛々しい痣をこさえており。顔を背けて耐える仕草と裏腹に下品に開かされた下半身は普段なら劣情を催すだろうが今の俺には痛まさしさと憐憫の感情しか湧き出ず、それでも優しさよりも逃げ出したい罪悪感が勝ち、素っ気ない態度が強く出てしまった。
全身が血塗れになっている事実に、急激な状況の変化に女性はショックから言葉という言葉が出ずに、泣き出しそうな呻き声でへたり込みながら俺に助けを乞う視線で見つめていた。
「助けるから、安心してくれ」
そう一言かけるだけで女性は泣崩れ、マントで全身を隠す様に蹲ってしまった。
呆けた表情のまま首だけになった醜男を見ながら初めて人を殺めた抵抗感の無さを実感しながらこの世界の事を考えていた。
やはりゲーム世界では無く現実の世界と考えて問題はないだろう。——なぜこの世界に来たのか。この際この話は置いておくしかないだろう。この先どう生きるか、それを決めないとな。
かける言葉も見つからず、落ち着くのを待っていたその時に、俺は背後から複数の足音が近づいてくるのが聞こえてきた。
「連れ戻すのが遅せぇと思ったらこんな事になってるとはな。おい兄ちゃん、痛い目に遭いたく無かったらとっととズラかんな」
野盗と思しき身なりの悪い男達が抜き身の剣を片手にゆっくりと歩いてきていた。
——7人か……。
俺は人数を確認すると初のリアル対人戦を意識して若干の緊張を感じたものの迷う事無く魔法を発動させた。
「拡大呪文魔法の矢」
左手の杖を薙ぎ払う様に一振りすると複雑な文様が描かれた魔法陣が7つ浮かび上がり、魔法の矢が発動して野盗達の身体を貫いていた。
貫通力のある魔法の矢は体に当たれば穴を開け、頭部に当たれば首から上が無くなり、腕で防げば腕ごと貫いていた。
一瞬の出来事で終わってしまった。出会って1分も経たずに多くの人の命を潰えさせた。
最初に感じた抵抗感になんの変化がない事を俺は自分の手を見つめながら冷静に分析をしてゆっくりと生き残りの野盗の下へ歩いて行った。
「いてぇ!ぐあぁっ、なんなんだこりゃ!」
右足の付け根から下の部分が吹き飛んでいる男の横に着くと自分でも驚くくらい冷淡な声で冷たく言い放っていた。
「なぁ、お前らアジトとかあるのか?他に仲間は?」
「ひぃぃっ、た、助けてくれ!俺らはなんもしてねぇじゃねぇか」
そうだ、確かに俺はコイツらに何もされていない。実害と言えるものは何一つないが。
——だが不快だコイツらがやっていた事を想像するだけで非常に不快になっているのだ。それは恐らくとても重要なことになるんじゃないか?
かなり理不尽な結論だと自分でも笑える考えを、自分の内情を冷静に見つめていたが男の哀願を蹴り一つだけで応える位には苛立っていたらしい。
「おい。答えろよ、じゃなきゃもうちょい削るぞ?」
「ゲホッゲホッ。ひぃっ!ア、アジトは……」
答えようとした野盗は一瞬の間に言い淀む。恐らく生き残る為にどうするのが1番なのか今を必死に考えているんだろう。
ほんの一時。唾を飲み込む程度の時間の沈黙に軽く溜息を覚えた時に後ろから声がかかった。
「向こうの方角に小屋があります、男達はこれで全部ですがもう1人囚われてる人が……」
振り返れば先程まで泣き崩れていた女性が強い眼差しで俺を見ながら小屋の在り処を指し示しながら訴えかけてきた。確実にコイツらは許せないのだろう、勿論だ。許す道理は何もないのだろう。
「テメェ!俺が言おうとしてた——ひぅっ!」
女性の先答えに腹を立てた野盗が喚こうとしたが、睨みをきかせた視線をしっかりと、確実に殺意を込めて黙れと言わんばかりに目を見つめた。
既に押し黙っている野盗に向かって人差し指で静かにする様にジェスチャーをしてやるとしっかりと口を噤んで何度も頷いて了解を示している。
そんな従順を示す野盗の胸にゆっくりとハデスダガーを刺し込んでいく。野盗は血の泡を漏らしながらも黙ったまま静かに死んでいった。
ゆっくりと確実に俺は人を死に至らしめた。それでも心は揺るがずに落ち着いたままの姿に俺は以前とはどこか変わっていたのだと実感した。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
高身長お姉さん達に囲まれてると思ったらここは貞操逆転世界でした。〜どうやら元の世界には帰れないので、今を謳歌しようと思います〜
水国 水
恋愛
ある日、阿宮 海(あみや かい)はバイト先から自転車で家へ帰っていた。
その時、快晴で雲一つ無い空が急変し、突如、周囲に濃い霧に包まれる。
危険を感じた阿宮は自転車を押して帰ることにした。そして徒歩で歩き、喉も乾いてきた時、運良く喫茶店の看板を発見する。
彼は霧が晴れるまでそこで休憩しようと思い、扉を開く。そこには女性の店員が一人居るだけだった。
初めは男装だと考えていた女性の店員、阿宮と会話していくうちに彼が男性だということに気がついた。そして同時に阿宮も世界の常識がおかしいことに気がつく。
そして話していくうちに貞操逆転世界へ転移してしまったことを知る。
警察へ連れて行かれ、戸籍がないことも発覚し、家もない状況。先が不安ではあるが、戻れないだろうと考え新たな世界で生きていくことを決意した。
これはひょんなことから貞操逆転世界に転移してしまった阿宮が高身長女子と関わり、関係を深めながら貞操逆転世界を謳歌する話。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
扱いの悪い勇者パーティを啖呵切って離脱した俺、辺境で美女たちと国を作ったらいつの間にか国もハーレムも大陸最強になっていた。
みにぶた🐽
ファンタジー
いいねありがとうございます!反応あるも励みになります。
勇者パーティから“手柄横取り”でパーティ離脱した俺に残ったのは、地球の本を召喚し、読み終えた物語を魔法として再現できるチートスキル《幻想書庫》だけ。
辺境の獣人少女を助けた俺は、物語魔法で水を引き、結界を張り、知恵と技術で開拓村を発展させていく。やがてエルフや元貴族も加わり、村は多種族共和国へ――そして、旧王国と勇者が再び迫る。
だが俺には『三国志』も『孫子』も『トロイの木馬』もある。折伏し、仲間に変える――物語で世界をひっくり返す成り上がり建国譚、開幕!
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる