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始まりの章
3話 文化レベル?
しおりを挟む街道と呼ばれる、街と街を繋ぐ道。
とは言え、舗装路と言える物では無く、人が通り轍が出来上がり、草木の生えてないだけの剥き出しの土の道の上を俺達はソンドと言う街に向かって馬車に揺られていた。
俺達は野盗供を打ち倒した後、アジトとして使われいた山小屋に向かったのだが、そこには嬲り殺された女性の遺体が一つだけで他はガラクタや汚れの目立つ家具ぐらいで目ぼしい物は何一つなかった。
先程助けたオフィーリアによると同じ時期に捕らえられて一緒に耐えてきた間柄だというようだ。
亡くなられた女性を丁重に弔った後に山小屋から移動を開始すると30分程で直ぐに街道への道に当たり、そのままオフィーリアの言うままにソンドの方角へと歩き続けていた。
残念ながらオフィーリアとの間にはあまり会話は進まず、お互いの名前だけ名乗り合う程度でその後の会話はほぼ無い状態だった。
ああいう状況で助けたらモテるみたいな話を聞いたが現実はそうでも無いらしい、まぁそりゃそうだ。今まで散々と野盗達に好き勝手嬲られてたのだ、男に近づくのも怖くなるのが普通なんだろうな。
因みに俺の通り名はヴィクトリーと名乗る事になった、何故なら恥ずかし過ぎて口籠ってたら勝手に解釈してくれたのだ。正直言えば助かった。34になる男がアニメキャラの「ヴィクトールと申します」など恥ずかしすぎて口が裂けても言えないのは仕方のない事だろう。
騎士仮面物語では名前は常に表示されてるし、チャットで打つ程度なら抵抗は少ないが声に出す、この行為になった瞬間にハードルが4、5段一気に上がる感じがして今更ながらに名前に後悔していた。
そんな落胆にも似た感情が生まれた頃に行商の馬車とかち合い、同乗させて貰らい今に至る所だ。
日が傾き始めた頃にはソンドの街の外壁が見え、3mは有る立派な外壁に守られた大きな街には列を成して城門へと続いていた。
ゆるゆると進む隊列の中、石作りの立派な城壁を見て俺は文化レベルを観察していた。
城壁には胸壁は無く、上に登るだけの屋根の無い通りが幅的にはありそうに見えた。城壁の文化レベルとしては古代の作りでレンガでは無くて、切り出して作った岩で積み上げた程度の物だった。
思案に耽っていると10騎程度の騎士の部隊が勢い良く駆けて城門から出てきた。
「オフィーリア様!!」
オフィーリアを探してたのだろう、慌てた勢いで声をかけてくる騎士達は馬車を取り囲み、統一感のある出で立ちで一際装飾が為されている騎士を先頭に半包囲的な布陣を率いていた。
「お探ししておりました、オフィーリア様。よくぞご無事で!」
「心配をかけまして申し訳ありません」
「勿体ないお言葉です、しかし……この者達は?」
取り繕う様な表情を見せていた隊長も俺を見る時の目は怪訝な表情を隠せない様だ。一応助けた側なんだけどな、間に合ってはいないけども。
「道中の護衛をして頂いた方です。このまま屋敷までご一緒して貰うつもりです」
騎士達全員が同じ様な目で俺を見ている。同じ装備で統一された連中に同じ目を一斉に向けられるのはかなりの圧迫感を感じる。本質的に俺が悪いのかと勘違いさせられてしまう。
居心地の悪いまま、城門を潜り抜け街が目に入るとそんな気分は一気に吹き飛んでしまった。
立派に舗装された石畳のメインストリートは広々としていて馬車が往復しても尚、人々が行き交い日暮れ時と言うのに盛況している様が一目で分かる程の賑やかさを肌で感じ取れた。建物も二階建てや三階建ての立派な家々が並び、店先や出店の声掛けがよく響いていた。
人々の服装のレベルも高く多種多様なファッションで、中には露出の高い女性や、武器を携えた冒険者らしき風貌の者達も珍しくない。
そして何より人の生存区域にいると言う実感が今までの野営生活からの解放を伝えられ、自然と安堵のため息が漏れた。
オフィーリアの表情も心なしか安心している様にも見えたのも救いだったのかもしれない。
周りの景色を楽しんでいる内に人の往来が減り、代わりに大きな屋敷の並ぶ区画へと入り始めた。
こういう所を貴族街とでも言うのだろうか、敷地面積の大きそうな建物をいくつも抜けると一際大きな屋敷に馬車ごと入って行くことになる。
やはりこのオフィーリアは権力者の娘と言うのが妥当なのだろうか。
大きな中庭を抜けてロータリー式の玄関前まで馬車を走らせると玄関にはこの館の主人らしき華美な衣装を纏った初老の男とその夫人が並んで待っていた。
「オフィーリア!!」
「お母様!」
感動の対面と言えばいいのだろうか、娘のオフィーリアは両親としっかり抱き合ってそのまま泣き崩れてしまった。
「恩人を前になんとダラシない事か、すまないな。大事な愛娘であるが故に許してほしい」
威厳のある風体で俺達に向き直した初老の男は上から下まで品定めする様な視線で全身を見ていた。
「申し遅れたな、私はダイカン王国公爵家当主ムンジェン・リダソンドである。この度は娘を救ってくれた事、本当に感謝する」
貴族と思っていたら公爵だったのか、貴族社会にはあまり詳しくはないが王家の血筋の入った家柄が公爵家だったと思うが。つまりは大貴族様と言う事になるわけか。
「も、もも勿体ないお言葉です、私はただ道行きに御られたお嬢様をお乗せしたに過ぎません」
考え事をしている内に馬車を走らせていた行商人が勢い良く平伏ながら答えていた。相当な焦りを見せながら早口言葉で返す所を見るとこの世界では身分差と言うものが絶対なのかもしれない、俺はひれ伏すのは嫌だったので膝をついて礼のポーズを取るだけにした。
「ご丁寧に痛み入ります、私は…ゔ、ヴィクトリーと……申します。私も旅の途中で偶然出会っただけの事、再会が果たせたのも一重にお嬢様の生き延びる力によるもので有ります」
実際には間に合わなかった事がある、地獄を見る前に助けてやれなかったのがどうにもバツが悪く感じてしまう。
「良い。良いのだ、娘がここに帰れるまで助けになった全ての者達に礼をしたいと思うのが親心というものであろう。急な知らせ故に瑣末であるが今日は寛いでいって欲しい」
正直な話休ませてもらえるのはありがたいと思えたので招かれるままに巨大な長テーブルのある食堂に連れられ、貴族食と言われそうなフルコース式の食事を振舞われた。
初めてこの世界の食事にワクワクしていたが残念ながら現代の飽食文化を味わってしまった俺にはどうにも全体的に味付けは淡白な印象で香辛料も舌への刺激の強い料理が多く少々ガッカリした。
「ヴィクトリー殿、お口に合いますかな?」
「あ、はい。無作法者ですのでこの様な格式の高い食事は初めてでして、戸惑ってしまいますが」
「作法など気にせずに良い。もてなしなのだから楽しんでもらわねばな」
そう言いながら優雅に食事を続けるムンジェン卿は頻繁に執事達から耳打ちされている。恐らくはオフィーリアの状態を聞かされているのではないだろうか。まぁ貴族位の高い人ほど忙しいというのもあるのだろうか。
「さて、申し訳ないが私はここで失礼させてもらうよ、食事が終わり次第部屋に案内させるので安心して欲しい」
ホストが中座して行商人と2人で苦笑いを浮かべながら早々に食事を済ませた。
通された客室はだいぶ離れており、一人で食堂に戻れと言われても不可能な気がする。複雑な作りの建物ではないが白を基調とした建物は所々が金や銀で装飾されていて圧倒される気分だ。夜も更けた時間帯に差し掛かったであろう通路には煌々と明かりが灯されていたが光源は見たことのない石で灯されていた。
因みに行商人は別の部屋で階が違うようだ。
久々のベットに倒れる様に埋もれて軽く脱力をする。
柔らかな感触と家具の香り、完全な静けさと明かりに包まれた室内。何処とも分からない世界に転移してきて初めて安息を得たと心に喜びのむず痒さを感じ、思わず頬が緩む。
今日の出来事を思い返し感触を思い出す。人の体にダガーを差し込む感触、首に当てた感触。
魔法の方は引き金を引いた感じなのかな?俺がやったと言う自覚はあれど手や肌に感じる感触は全く無かった、そして何より落ち着いた心で思い返したとしてもその事実は胸から下腹部にかけてストンと納得の重石が落ちた程度で終わってしまっていた。
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