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第一章 魔王 サタナ・エイリーン編
第6話 騒動
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「今日はありがとう。相談に乗ってもらえてスッキリしたよ」
感謝を述べると、メアリさんはまたあの優しい笑顔を咲かせた。
シチュエーションによっては惚れていたかもしれないな、などと考えていると。
ダァンッ!!
突如、大きな音が酒場一帯に轟いた。
誰かが机を叩いた音らしい。
まさか喧嘩か?
今の俺のレベルは40。
人類史上最高レベルの60に達するのも時間の問題だろうし、大抵の人間は捻じ伏せられるだろうが、はてさて……。
「無駄な抵抗をするんじゃない! 君は賢い子だ。いい子だから、あまりお兄ちゃんを困らせないでくれ」
「いやっ! 離して。離してってば!」
どうやら兄妹間でのトラブルらしい。
兄は金髪眼鏡の優男といった風情で、
妹のほうは、白銀の長髪が目を見張る美少女だった。
「あらあら、結構派手にやってますね」
隣に立つメアリさんは困り顔である。
「酒場の清掃、暇な時は受付嬢に任されることもあるんですよ」
「なるほど、それは他人事じゃないな。それにあの男……」
思ったより強く女の子の腕を掴んでいる。
あのままじゃアザになるかもしれない。
「ちょっと止めてくる。メアリさんはそこにいてくれ」
「え? ちょ、ちょっと!」
別に慢心しているわけではない。
それに乱暴な手段に出るつもりもない。
男の身なりは裕福そうだし、知的な雰囲気も出ている。
この手のタイプは話が通じるはず。
そう踏んでの行動だ。
「二人とも、ちょっといいか?」
割って入ると、兄を名乗った人物は少女の手を離し、爽やかな笑みを浮かべた。
切り替えの早さと頭の回転の速さはイコールだ。彼は中々に賢いのだろう。
「あー、すみません。ご迷惑をおかけするつもりはなかったのですが、この子があまりにも抵抗するものですからね。ついついムキになってしまった」
男は一礼した。
それから声を張ってこう言った。
「皆様もすみません! 楽しい雰囲気を壊してしまいましたかね。つまらないお詫びですが、ほんの気持ちです。本日の酒代は全てこの僕が負担させて頂きます! ですので、どうかお許しを」
空気が爆発したかのように歓声が沸いた。
どうやら想像以上の金持ちらしい。
嬌声を上げる冒険者の群れをよそに。
男は、少女の頭をそっと優しく撫でた。
「君は賢い子だ。きっと僕の理想を理解してくれると信じているよ」
「……用が済んだなら早く行きなさいよ」
「ああ、そうさせてもらう。……それでは僕はこれにて失礼いたします。またどこかで出会うこともあるやもしれませんが、その時はどうぞ、お手柔らかに」
「お互いにな」
男が去った後。
俺は、少女に問いかけた。
「彼は君の兄らしいが、なにがあったんだ?」
だが、少女は俺の問いには答えなかった。
暗い表情で俯いたまま微動だにしない。
「答えたくないこともある、か。せめて名前くらいは聞いてもいいかな?」
そんな俺の言葉を無視して、少女はぽつりと呟いた。
「私とは関わらない方がいい。それが身の為よ」
年の頃は俺と同じくらい。
おそらく十六から十七前後だろう。
そんな女の子がこんな言葉を吐くとはよほどの事情があるのだろうな。
もう、そっとしておいたほうが良さそうだ。
「ご忠告ありがとう。そう言うからには相応の理由があるのだろうし、君の言葉に従うとするよ」
少女に背を向け、
俺はメアリさんの元に戻っていく。
去り際、少女が「ノエル」と口にしたのを俺は聞き逃さなかった。
#
一方、場面は変わり。
レインを追放した後の【神の後光】の様子である。
「おいグラン、何してやがる!! お前の護りが甘いと攻勢に出れねェだろうがよッ!!」
「んなこと言ったって仕方がないだろう! 連戦に次ぐ連戦で俺のスタミナが持たねぇ!!」
「だったら回復してもらえばいいだけだろうがウスノロがッ!! ソラはなにしてやがる! 回復と顔と体だけがテメ―の取柄だろうが!!」
「なん、ですって!? ヴェン様はヒーラーをなんだと思っていますの!! 魔力は無限じゃありませんのよ!!」
「だーーーっ! どいつもこいつも使えねぇ!!」
ギャーギャーと吠えながら、
ヴェンは自慢の大剣・カラドボルグを縦横無尽に振り回し、モンスターを何とか討伐していく。
しかし、やがて体力に限界が訪れた。
「はぁ、はぁ、はぁ――」
どうなってやがる!
俺様はあのカラドボルグを手に入れたんだぞ!?
魔王を討伐したとされる、
圧倒的かつ無敵の力!
それが今、俺様の手中にある!!
グランとソラの装備だって
一級品のレアものばかり!
あのゴミカスを利用し、二年の月日をかけて集めてきたものばかりじゃないか!!
だってのになんで苦戦を強いられる!?
確かにここはSSS難度ダンジョン【最果ての洞窟】。
最奥部には魔王が眠っていて、
踏破したのは勇者パーティだけだという。
だがしかし!!
俺様は手に入れたんだ!
最強の武器を!
無敵の力を!!
そんな俺様たちが……。
そんな俺様が……。
「負けるわけがないんだァーーーッ!!!!!」
ヴェンは我を忘れて、
中ボスのアシッド・ドラゴンに突進した。
グランとソラの静止の声は、彼には届いていなかった。
『グルルルォ』
ドゴォオッ!!!!!!
「ぐべァっ!!!」
アシッド・ドラゴン。
SSSランクのモンスター。
相対する際の推奨レベルは、55である。
バカな。
何故だ。
何故、勝てない。
俺様は無敵の力を手に入れた――。
そのはずじゃ、なかったのか……。
ヴェンは知らなかった。
そしてレインも知らなかった。
スキル【超威圧】の真価を。
【超威圧】はただモンスターを怯えさせるだけではない。
その圧倒的な覇気により、
モンスターを委縮させ弱体化させる力も有していたのだ。
もちろん元々の性能ではない。
【神の後光】に報いるためにレインが努力した結果、後天的に付与された力である。
レインの力が無ければ、
ヴェン達は今までのダンジョンでボスモンスターはおろか、中ボスすら撃破することはできなかっただろう。
彼らは影から支えられていたことを知らずに、レインという大魚を逃してしまったのだ。
そしてそれだけではない。
ヴェンはもう一つ計算違いを起こしていた。
それは――。
カラドボルグは持ち主を選ぶということ。
カラドボルグは退魔の聖剣。
故に。
汚れた心の持ち主が手にしたところで、その真価を発揮することはできないのであった。
感謝を述べると、メアリさんはまたあの優しい笑顔を咲かせた。
シチュエーションによっては惚れていたかもしれないな、などと考えていると。
ダァンッ!!
突如、大きな音が酒場一帯に轟いた。
誰かが机を叩いた音らしい。
まさか喧嘩か?
今の俺のレベルは40。
人類史上最高レベルの60に達するのも時間の問題だろうし、大抵の人間は捻じ伏せられるだろうが、はてさて……。
「無駄な抵抗をするんじゃない! 君は賢い子だ。いい子だから、あまりお兄ちゃんを困らせないでくれ」
「いやっ! 離して。離してってば!」
どうやら兄妹間でのトラブルらしい。
兄は金髪眼鏡の優男といった風情で、
妹のほうは、白銀の長髪が目を見張る美少女だった。
「あらあら、結構派手にやってますね」
隣に立つメアリさんは困り顔である。
「酒場の清掃、暇な時は受付嬢に任されることもあるんですよ」
「なるほど、それは他人事じゃないな。それにあの男……」
思ったより強く女の子の腕を掴んでいる。
あのままじゃアザになるかもしれない。
「ちょっと止めてくる。メアリさんはそこにいてくれ」
「え? ちょ、ちょっと!」
別に慢心しているわけではない。
それに乱暴な手段に出るつもりもない。
男の身なりは裕福そうだし、知的な雰囲気も出ている。
この手のタイプは話が通じるはず。
そう踏んでの行動だ。
「二人とも、ちょっといいか?」
割って入ると、兄を名乗った人物は少女の手を離し、爽やかな笑みを浮かべた。
切り替えの早さと頭の回転の速さはイコールだ。彼は中々に賢いのだろう。
「あー、すみません。ご迷惑をおかけするつもりはなかったのですが、この子があまりにも抵抗するものですからね。ついついムキになってしまった」
男は一礼した。
それから声を張ってこう言った。
「皆様もすみません! 楽しい雰囲気を壊してしまいましたかね。つまらないお詫びですが、ほんの気持ちです。本日の酒代は全てこの僕が負担させて頂きます! ですので、どうかお許しを」
空気が爆発したかのように歓声が沸いた。
どうやら想像以上の金持ちらしい。
嬌声を上げる冒険者の群れをよそに。
男は、少女の頭をそっと優しく撫でた。
「君は賢い子だ。きっと僕の理想を理解してくれると信じているよ」
「……用が済んだなら早く行きなさいよ」
「ああ、そうさせてもらう。……それでは僕はこれにて失礼いたします。またどこかで出会うこともあるやもしれませんが、その時はどうぞ、お手柔らかに」
「お互いにな」
男が去った後。
俺は、少女に問いかけた。
「彼は君の兄らしいが、なにがあったんだ?」
だが、少女は俺の問いには答えなかった。
暗い表情で俯いたまま微動だにしない。
「答えたくないこともある、か。せめて名前くらいは聞いてもいいかな?」
そんな俺の言葉を無視して、少女はぽつりと呟いた。
「私とは関わらない方がいい。それが身の為よ」
年の頃は俺と同じくらい。
おそらく十六から十七前後だろう。
そんな女の子がこんな言葉を吐くとはよほどの事情があるのだろうな。
もう、そっとしておいたほうが良さそうだ。
「ご忠告ありがとう。そう言うからには相応の理由があるのだろうし、君の言葉に従うとするよ」
少女に背を向け、
俺はメアリさんの元に戻っていく。
去り際、少女が「ノエル」と口にしたのを俺は聞き逃さなかった。
#
一方、場面は変わり。
レインを追放した後の【神の後光】の様子である。
「おいグラン、何してやがる!! お前の護りが甘いと攻勢に出れねェだろうがよッ!!」
「んなこと言ったって仕方がないだろう! 連戦に次ぐ連戦で俺のスタミナが持たねぇ!!」
「だったら回復してもらえばいいだけだろうがウスノロがッ!! ソラはなにしてやがる! 回復と顔と体だけがテメ―の取柄だろうが!!」
「なん、ですって!? ヴェン様はヒーラーをなんだと思っていますの!! 魔力は無限じゃありませんのよ!!」
「だーーーっ! どいつもこいつも使えねぇ!!」
ギャーギャーと吠えながら、
ヴェンは自慢の大剣・カラドボルグを縦横無尽に振り回し、モンスターを何とか討伐していく。
しかし、やがて体力に限界が訪れた。
「はぁ、はぁ、はぁ――」
どうなってやがる!
俺様はあのカラドボルグを手に入れたんだぞ!?
魔王を討伐したとされる、
圧倒的かつ無敵の力!
それが今、俺様の手中にある!!
グランとソラの装備だって
一級品のレアものばかり!
あのゴミカスを利用し、二年の月日をかけて集めてきたものばかりじゃないか!!
だってのになんで苦戦を強いられる!?
確かにここはSSS難度ダンジョン【最果ての洞窟】。
最奥部には魔王が眠っていて、
踏破したのは勇者パーティだけだという。
だがしかし!!
俺様は手に入れたんだ!
最強の武器を!
無敵の力を!!
そんな俺様たちが……。
そんな俺様が……。
「負けるわけがないんだァーーーッ!!!!!」
ヴェンは我を忘れて、
中ボスのアシッド・ドラゴンに突進した。
グランとソラの静止の声は、彼には届いていなかった。
『グルルルォ』
ドゴォオッ!!!!!!
「ぐべァっ!!!」
アシッド・ドラゴン。
SSSランクのモンスター。
相対する際の推奨レベルは、55である。
バカな。
何故だ。
何故、勝てない。
俺様は無敵の力を手に入れた――。
そのはずじゃ、なかったのか……。
ヴェンは知らなかった。
そしてレインも知らなかった。
スキル【超威圧】の真価を。
【超威圧】はただモンスターを怯えさせるだけではない。
その圧倒的な覇気により、
モンスターを委縮させ弱体化させる力も有していたのだ。
もちろん元々の性能ではない。
【神の後光】に報いるためにレインが努力した結果、後天的に付与された力である。
レインの力が無ければ、
ヴェン達は今までのダンジョンでボスモンスターはおろか、中ボスすら撃破することはできなかっただろう。
彼らは影から支えられていたことを知らずに、レインという大魚を逃してしまったのだ。
そしてそれだけではない。
ヴェンはもう一つ計算違いを起こしていた。
それは――。
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