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第三章 マナクルス魔法学園編

第29話 実技の授業①

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「はい! 並んで並んで~」

 レックの命令で俺たちは十人一組のグループを三つ作り、三列に並んだ。

 これから行われるのは、
 的当てと呼ばれる授業。
 魔法の命中精度を高めるための基礎訓練らしいのだが。

 かなり遠いな、これは。

 俺は十メートルくらいを想定していた。
 だが、実際は五十メートルも離れていた。    
 しかも、その中心を弾丸のように撃ち抜かなければならないらしい。

「チャンスは三回。中心に近ければ近いほど評価が高いのは言うまでも無いな~。んじゃあ俺はぶらぶらしてるからお前らは適当なタイミングで始めろよ~」

 かくして始まった的当ての授業。
 これには少しばかり困ってしまう。
 
 魔法の威力も飛距離もレベルによってカバーできる。だが、命中精度はその限りではない。これだけは訓練以外では伸ばせないのだ。

「外せば減点か」

 減点が重なれば進級は取り消し。
 のみならず。
 
 このマナクルス魔法学園では、
 一定以上のマイナス評価をを取り続けると強制退学させられてしまうのだ。

 そうなれば、
 古代魔法の手がかりもクソもない。

 さて、どうしたものかな。
 と思っていると。

「闇の精よ、我に力を与え給え。初級魔法・黒玉ブラックボール!!」

 俺の隣にはノエルが立っていた。
 
 構えられた杖の中心には闇のエネルギーが渦巻き、少しずつ収束し、玉の体を成していった。そして――、

 ドォオオオッ!!

 ノエルが放った黒玉ブラックボールは一直線に的へと向かっていった。
 だが。
 
 ヒュンッ!!

 その斜め後方辺りから一筋の光線が伸びていった。
 
 何者かの魔法なのは疑う余地もない。
 おそらくはノエルを妨害しようという企てだろう。

「下らないな」

 俺はカラドボルグの柄に手をかけた。
 そんな俺の背後から声がかかる。

「やめとけ~」
「……レック先生」
「お前はあんまり目立つじゃないよ~。ダミアンやったのもお前だろ? 泣きながら辞表出してた時は思わず笑っちまったよ、俺あいつ嫌いだったからな~。せめてもの礼だ。ここは俺に任せておけ」

 レックは杖を構え、
 丸眼鏡の縁をクイッと持ち上げた。
 
 バシュンッ!!

「詠唱破棄ですか」
「まあな。これくらいは朝飯前だ~」

 レックの放った光魔法。
 それさ何者かの妨害魔法をいとも容易く消滅させた。

「嫌いじゃないんですか? ノエルのこと」
「ん? 嫌いだよ~」
「ならどうして助けるんです?」

 問いかけると、レックは首元を掻きながら欠伸をした。
 眼鏡の奥の双眼は相も変わらず眠たげだ。

「それ以上に嫌いなものがある。ただそれだけだ。それに、学生を最低限保護するのはこの学園の掟だしな~」
「なるほど」

 どうやら学園全体が腐敗しているということでも無さそうだ。レックのような人間もこの場所にはいる。

「そんなことよりお前は自分の心配をしたらどうだ? 見た感じ魔法に精通しているって感じもしないしな~。俺はどんな事情があろうとも成績は公平につけるぞ~?」

 確かに。
 俺はまず自分の心配をするべきだったな。
 ちょっと強引だがあれをやってみるか。

「カラドボルグ」
「はぁい」

 カラドボルグは空気を読んでか囁き声で返事をした。
 俺は彼女に「3%」とだけ告げる。

「了解」

 解放、3%!

 ズズズズズズッ!!

「おお~? なんか雰囲気変わったなあ、お前」
「的の中心を射抜けば・・・・オッケー、というルールでしたね?」
「まあな」

 ならば話は早い。
 俺は人差し指を立てて、初級魔法・水玉ウォーターボールを発動した。

「杖無しだあ? やるな~お前!」
水玉ウォーターボール!!」

 詠唱と同時に、水玉ウォーターボール地面・・に直撃する。

 砂と水が周囲に舞い上がり、
 クラスメイトたちの悲鳴が校庭に響いた。

「なんだっ!?」
「うおわあ!!」
「きゃあっ!!」

 これで視界は封じた。
 あとは簡単だ。

 俺は大地を蹴飛ばし、
 猛スピードで的の目前へと到達。
 中心部分を指で突いて穴を開け、再び猛スピードで元の立ち位置についた。

 この間、0.5秒未満。
 今の動きを目で追える人間はこの世にはいないだろう。

「ああ~~~、お前なぁ、威力の調整も立派な課題の一つなんだぞ~? こんな爆発みたいなことやったら減点に決まってるだろうが」

 なんだと?
 それは初耳だ。

「先生、そういうのは先に言うべきでは?」
「んあ? 言ってなかったか?」
「はい。言ってませんでした」
「そうか。じゃあ今日だけは特別だ~。的は~……、フム、ちゃんと穴は開いている・・・・・・・な。今日は評価5をくれてやるが、次同じことしたら相殺で0だから気を付けろよ~」

 まずは赤点回避、といったところか。
 俺は安堵の息とともに胸を撫で下ろした。 
 そしてふと。
 自分に向けられている、多数の視線に気が付いた。

「見たか今の」
「ああ。杖無しであの威力ってどうなってるんだよ」
「確か元々は冒険者なんだっけ?」
「気に入らねぇなアイツ」
「どうせ増強剤でも使ったんだろ」
「だな。イカサマだよイカサマ」
「アイツも省くか?」

 「お前はあんまり目立つんじゃないよ~」というレックの言葉をすっかりと忘れていた。あれはこういう意味だったのか

 出る杭は打たれると言うが。
 過ぎたことは仕方がないな。
 二限からはなるべく目立たないように努めよう。
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