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第三章 マナクルス魔法学園編
第33話 ノエルとの共闘
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「えっと、ここは一体?」
「A難度ダンジョン【闇の洞窟】だよ」
俺は嘘を吐いた。
SSS難度ダンジョンだなんてことを知ったらノエルは怯えてしまうかもしれないからな。
「A難度って、課題よりも一つ上だけど……。ねぇ、帰ろう? レイン君。レイン君は知らないかもしれないけど、先生の言うことを破ったら減点なんだよ。Aランクのモンスターを倒したとしても意味なんてないよ」
「大丈夫、全ての責任は俺が負う。そんなことより先に進もう。ここにはエビル・オークが出現するらしいからな。首を取って帰れば、きっと大絶賛されるぞ?」
実際にいるのはデス・オークだし、
そもそもエビル・オークはCランクのモンスターだが、この際細かいことはどうでもいいだろう。
追手らしき存在は確認できたが、
俺には追いつけなかったみたいだしな。
ここで二限が終わるまで時間を潰すのがベストだろう。
「ねぇ、それより教えてよ。さっきの質問はなんなの? なにをそんなに気にしていたの?」
「あーあれか。いやほら、ノエルが普段から邪魔されてるんなら許せないなって思って」
「だから、Bランクよりも上の成果を出すためにこんなところに来たって言うの?」
「まっ、そんなところだな。俺もクラスの奴らにはむかっ腹が立ってきた頃だったしな。ここいらでワッ! と驚かしてやろうと思ったんだよ」
ノエルは呆れたように溜息を漏らした。
そして実際に「呆れた」と口にした。
「レイン君が強いっていうのはなんとなく察しがついてるけど、こんなにもバカだとは思わなかった」
「俺がバカ?」
「だってそうでしょう? 分かり易く例えてあげる。今回の課題はBランクのモンスターを討伐すること。これをクリアすれば10点が貰えるの。でもこんなことしたら逆効果。Aランクモンスターの撃破で20点貰えても命令違反で-50点。結果は-30の赤点よ」
なるほど。
まあ俺の言葉は全部嘘だからどうでもいいが。
それに。
もしもノエルが減点されそうになった暁には、相応の手段に出るつもりでもいるしな。
「今からスマホウ・フォンで先生に連絡するから、ちょっと待ってて」
そう言うと、
ノエルは制服のポケットから
小型の四角い物体を取り出した。
「なんだそれ?」
「これ? これはスマホウ・フォンと呼ばれる魔道具だよ。人類が未だに発動できたことのない超高等魔法・テレパシーを再現することができるの。レイン君は魔道具科って知ってる?」
ノエルが流暢に喋り始めた。
もしかしたら、ノエルは魔道具というものが好きなのかもしれないな。
#
「なるほど。それは凄いな」
「でしょでしょ? それにね、この学園では有事の際に備えたスーパー兵器も眠っているという噂よ!」
「スーパー兵器?」
やけにチープな名称だな。
あまり強そうなイメージが湧かない。
「魔導砲っていってね。数百年間溜め続けた魔力を一気に解き放つことが出来る、まさしく究極にして最強の魔導兵器! これがあれば魔王だって一撃で倒せちゃうんだからッ!」
凄んでから、
ノエルは小声で「多分」と付け加えた。
というかだいぶ話が逸れちゃいないか?
俺はノエルの持つスマホウ・フォンを指差した。
「あ、いけない。思わず忘れちゃうところだった。……って、アレ?」
スマホウ・フォンの画面を見ながらノエルは固まった。
「どうかしたのか?」
「スマホウ・フォンが繋がらないの。多分モンスターの魔力を拾っちゃってるんだと思う。低難度ダンジョンなら、モンスターも弱いからこうはならないんだけど」
ノエルはスマホウ・フォンをポケットにしまい、
「ねぇ、こんなところ早く出ようよ。私、単位減らされたら本当に困るんだから」
と口にした。
だがその相談に乗ることは出来ない。
何故ならノエルは今、
何者かに狙われている状況なのだから。
「なあ、次の授業まであとどれくらいだ?」
俺は話を逸らすついでに時間を訪ねた。
「えーと、あと三十分はあるわね」
なら、あと三十分はなんとしてでも時間を稼がないとな。
さて、どう言い訳を並べ立てようか?
と俺が腕を組んだところで。
空気を読んだかのようなタイミングでそいつは現れたのだった。
ズシン、ズシン……。
大地を踏みしめる重厚感は、
まさしくオーク族の頂点に相応しい。
「あ、あれは……」
ノエルの表情がサー、と青褪めていく。
当然の反応だ。
A難度ダンジョンとは言ったものの、
出現したモンスターの出で立ちは明らかにその領域を逸脱しているのだから。
サタナの言葉を借りるのであれば、
細胞・遺伝子レベルで屈しているということだ。
「ね、ねぇっ! まさかアレと戦うつもりなのっ!?」
「ははっ、どうしたものかね。まさかイレギュラー個体が出現するとは」
「イレギュラー? なによ、ソレ」
イレギュラー個体。
通常、そのダンジョンには存在しないはずの個体を差す。
「何はともあれ、やるしかないだろう。ノエル、手を貸してくれ」
「む、無理に決まってるじゃないっ! あんなバケモノ相手に、勝てっこないよっ!!」
「なら逃げるか? ま、そのためにはアイツに道を譲ってもらう必要があるわけだが」
「なんでそんな他人事みたいな顔してるのよっ!」
「やれやれ、他人事なもんか。いいかノエル、しっかりと聞くんだ」
俺はノエルの肩を掴み、
真剣な面持ちで言った。
「確かに俺は強い。子供の頃から冒険者をやってきてそれなりに鍛えられてはいるからな。だが、あれだけ巨大なモンスターを一人で倒すことは不可能だ。見ろ、手も震えているだろう? 強がっているが、実は怖いんだ」
実際は少し肌寒いだけなのだが、
この際、利用できるものは全て利用してしまおう。
これは絶好のチャンスなのだ。
ノエルと親睦を深めるためのな。
とはいえ自分でも不思議だ。
過去の自分をノエルに投影してしまっている、というのもあるが。
それにしてもだ。
どうしてこんなにまでノエルのことが気に掛かるのだろう?
まさか本当に一目惚れしてしまったのか?
いや、一度酒場で出会っているのだから、正しくは二目惚れか?
「ああもうっ! 冒険者だっていうから嫌な予感はしてたけど、本当にイメージ通りのおバカさんね、レイン君は」
「イメージ通り?」
「ええ! レイン君は私がイメージしてた冒険者そのものよ。後先考えずに突っ走って、目先の利益ばっかりに目が眩んで」
俺は全国の冒険者に心の中で謝罪した。
俺のせいで冒険者のイメージを落としてしまったのなら申し開きの余地もない。
「でも」
ノエルは懐から魔法の杖を取り出し、臨戦体制に入った。
「そういう破天荒なところ、ちょっと憧れちゃうかも!」
先刻までのノエルとは打って変わり。
ちょっと強気な様子である。
女性というのは男の弱い姿に弱い、
的なことを聞いたことがあるが、
あながち間違いじゃないのかもしれないな。
もしくは。
ノエル自身が、守るべきものがある時に強くなるような、そんな性格なのかもしれない。
「前衛は任せろ」
カラドボルグを引き抜きながら、
「その代わり」
俺は後ろを振り向き、
キッパリと言い放った。
「後方支援は任せたぞ、ノエル」
本気を出せば数秒で終わる戦いだが、
俺はノエルに自信を持って欲しかった。
内気な性格にさせられてしまったノエルを変える方法は一つだけ。
与えてやればいい。
圧倒的な成功体験を。
これから行われるのは、
そのための戦いだ。
「A難度ダンジョン【闇の洞窟】だよ」
俺は嘘を吐いた。
SSS難度ダンジョンだなんてことを知ったらノエルは怯えてしまうかもしれないからな。
「A難度って、課題よりも一つ上だけど……。ねぇ、帰ろう? レイン君。レイン君は知らないかもしれないけど、先生の言うことを破ったら減点なんだよ。Aランクのモンスターを倒したとしても意味なんてないよ」
「大丈夫、全ての責任は俺が負う。そんなことより先に進もう。ここにはエビル・オークが出現するらしいからな。首を取って帰れば、きっと大絶賛されるぞ?」
実際にいるのはデス・オークだし、
そもそもエビル・オークはCランクのモンスターだが、この際細かいことはどうでもいいだろう。
追手らしき存在は確認できたが、
俺には追いつけなかったみたいだしな。
ここで二限が終わるまで時間を潰すのがベストだろう。
「ねぇ、それより教えてよ。さっきの質問はなんなの? なにをそんなに気にしていたの?」
「あーあれか。いやほら、ノエルが普段から邪魔されてるんなら許せないなって思って」
「だから、Bランクよりも上の成果を出すためにこんなところに来たって言うの?」
「まっ、そんなところだな。俺もクラスの奴らにはむかっ腹が立ってきた頃だったしな。ここいらでワッ! と驚かしてやろうと思ったんだよ」
ノエルは呆れたように溜息を漏らした。
そして実際に「呆れた」と口にした。
「レイン君が強いっていうのはなんとなく察しがついてるけど、こんなにもバカだとは思わなかった」
「俺がバカ?」
「だってそうでしょう? 分かり易く例えてあげる。今回の課題はBランクのモンスターを討伐すること。これをクリアすれば10点が貰えるの。でもこんなことしたら逆効果。Aランクモンスターの撃破で20点貰えても命令違反で-50点。結果は-30の赤点よ」
なるほど。
まあ俺の言葉は全部嘘だからどうでもいいが。
それに。
もしもノエルが減点されそうになった暁には、相応の手段に出るつもりでもいるしな。
「今からスマホウ・フォンで先生に連絡するから、ちょっと待ってて」
そう言うと、
ノエルは制服のポケットから
小型の四角い物体を取り出した。
「なんだそれ?」
「これ? これはスマホウ・フォンと呼ばれる魔道具だよ。人類が未だに発動できたことのない超高等魔法・テレパシーを再現することができるの。レイン君は魔道具科って知ってる?」
ノエルが流暢に喋り始めた。
もしかしたら、ノエルは魔道具というものが好きなのかもしれないな。
#
「なるほど。それは凄いな」
「でしょでしょ? それにね、この学園では有事の際に備えたスーパー兵器も眠っているという噂よ!」
「スーパー兵器?」
やけにチープな名称だな。
あまり強そうなイメージが湧かない。
「魔導砲っていってね。数百年間溜め続けた魔力を一気に解き放つことが出来る、まさしく究極にして最強の魔導兵器! これがあれば魔王だって一撃で倒せちゃうんだからッ!」
凄んでから、
ノエルは小声で「多分」と付け加えた。
というかだいぶ話が逸れちゃいないか?
俺はノエルの持つスマホウ・フォンを指差した。
「あ、いけない。思わず忘れちゃうところだった。……って、アレ?」
スマホウ・フォンの画面を見ながらノエルは固まった。
「どうかしたのか?」
「スマホウ・フォンが繋がらないの。多分モンスターの魔力を拾っちゃってるんだと思う。低難度ダンジョンなら、モンスターも弱いからこうはならないんだけど」
ノエルはスマホウ・フォンをポケットにしまい、
「ねぇ、こんなところ早く出ようよ。私、単位減らされたら本当に困るんだから」
と口にした。
だがその相談に乗ることは出来ない。
何故ならノエルは今、
何者かに狙われている状況なのだから。
「なあ、次の授業まであとどれくらいだ?」
俺は話を逸らすついでに時間を訪ねた。
「えーと、あと三十分はあるわね」
なら、あと三十分はなんとしてでも時間を稼がないとな。
さて、どう言い訳を並べ立てようか?
と俺が腕を組んだところで。
空気を読んだかのようなタイミングでそいつは現れたのだった。
ズシン、ズシン……。
大地を踏みしめる重厚感は、
まさしくオーク族の頂点に相応しい。
「あ、あれは……」
ノエルの表情がサー、と青褪めていく。
当然の反応だ。
A難度ダンジョンとは言ったものの、
出現したモンスターの出で立ちは明らかにその領域を逸脱しているのだから。
サタナの言葉を借りるのであれば、
細胞・遺伝子レベルで屈しているということだ。
「ね、ねぇっ! まさかアレと戦うつもりなのっ!?」
「ははっ、どうしたものかね。まさかイレギュラー個体が出現するとは」
「イレギュラー? なによ、ソレ」
イレギュラー個体。
通常、そのダンジョンには存在しないはずの個体を差す。
「何はともあれ、やるしかないだろう。ノエル、手を貸してくれ」
「む、無理に決まってるじゃないっ! あんなバケモノ相手に、勝てっこないよっ!!」
「なら逃げるか? ま、そのためにはアイツに道を譲ってもらう必要があるわけだが」
「なんでそんな他人事みたいな顔してるのよっ!」
「やれやれ、他人事なもんか。いいかノエル、しっかりと聞くんだ」
俺はノエルの肩を掴み、
真剣な面持ちで言った。
「確かに俺は強い。子供の頃から冒険者をやってきてそれなりに鍛えられてはいるからな。だが、あれだけ巨大なモンスターを一人で倒すことは不可能だ。見ろ、手も震えているだろう? 強がっているが、実は怖いんだ」
実際は少し肌寒いだけなのだが、
この際、利用できるものは全て利用してしまおう。
これは絶好のチャンスなのだ。
ノエルと親睦を深めるためのな。
とはいえ自分でも不思議だ。
過去の自分をノエルに投影してしまっている、というのもあるが。
それにしてもだ。
どうしてこんなにまでノエルのことが気に掛かるのだろう?
まさか本当に一目惚れしてしまったのか?
いや、一度酒場で出会っているのだから、正しくは二目惚れか?
「ああもうっ! 冒険者だっていうから嫌な予感はしてたけど、本当にイメージ通りのおバカさんね、レイン君は」
「イメージ通り?」
「ええ! レイン君は私がイメージしてた冒険者そのものよ。後先考えずに突っ走って、目先の利益ばっかりに目が眩んで」
俺は全国の冒険者に心の中で謝罪した。
俺のせいで冒険者のイメージを落としてしまったのなら申し開きの余地もない。
「でも」
ノエルは懐から魔法の杖を取り出し、臨戦体制に入った。
「そういう破天荒なところ、ちょっと憧れちゃうかも!」
先刻までのノエルとは打って変わり。
ちょっと強気な様子である。
女性というのは男の弱い姿に弱い、
的なことを聞いたことがあるが、
あながち間違いじゃないのかもしれないな。
もしくは。
ノエル自身が、守るべきものがある時に強くなるような、そんな性格なのかもしれない。
「前衛は任せろ」
カラドボルグを引き抜きながら、
「その代わり」
俺は後ろを振り向き、
キッパリと言い放った。
「後方支援は任せたぞ、ノエル」
本気を出せば数秒で終わる戦いだが、
俺はノエルに自信を持って欲しかった。
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