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第四章 古代の魔法編②

第36話 ノエル・レイウスvsポム・マルクス①

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 マナクルス魔法学園。
 その地下には広域な空間が存在する。
 校庭と同じくらいの広さを持つそのエリアは、

 時には闘技場へと、
 時には訓練場へと、
 時には演説会場へと、
 千態万様に姿を変える。

 今この瞬間。
 この場所は闘技場へと姿を変えた。

 一対一の決闘を行うにしてはやや広すぎる空間ではある。だが、この観客の数を見ればその理由も納得だ。

 大勢の生徒、生徒、生徒。
 のみならず。
 ルーザ先生やレックの姿までもがそこには見受けられた。

 ちなみにレックは俺の隣に座っている。
 決闘申請書とやらを十枚ほど書かされたらしく、やや疲弊気味の様子であった。

 つまり、
 この決闘はそれだけ注目されているということだろう。

 もしくは。
 クラスメイトの陰湿具合を考えるに。
 ノエルが負けると決めつけて、
 嘲笑いに来ているのかもしれないな。

 だが残念ながら、この決闘の末に地に伏しているのはポム・マルクスのほうだ。

 俺はそれを確信している。

「やあ、ノエル・レイウス。君と口を利くのは入学式以来かな? まさか闇魔法などという十字架を背負わされているとは思わなかったが……。でもね、ノエル君。君は幸運さ! 君が犯した前世での大罪、その罪は今日というこの日に浄化されるのだから!! この僕、ポム・マルクス様の手によってね」
「……何が言いたいの」
「分からないかな? 神を冒涜する程の大罪だぞ? 浄化する方法はたった一つじゃないか。死ぬってことだよ、君は今日、この場所でね」

 決闘――。
 それは神聖な儀式とされている。
 お互いがお互いのプライドをかけて行われる決闘には何人なんぴと足りとも手出しは出来ない。

 その結果、
 命を落とすことになろうとも、だ。

 学生の保護を最優先に掲げる信条。
 一見すればそれと矛盾しているように思える。

 しかし、こと決闘においては話が別だ。
 決闘とは神儀。
 優先度は、マナクルス魔法学園の掟を上回る。

「そういうアンタこそ、遺書は書いてきんでしょうね?」

 二人の言葉は魔法によって拡散され、
 観客に届く。
 ノエルが凄むと同時に、
 沸騰した水のように歓声が沸き上がった。

「幽霊みたいな奴って思ってたけど中々言うじゃねえか!」
「何アイツ、調子づいちゃって」
「生意気だな~」
「闇属性使いのクセに!」
「調子乗ってるなアイツ」
「別によくね? どうせここで死ぬし」
「確かに、それ言えてるわ」
「そうですわね。ここがあの子の墓標」
「フム、どうなるか……」
「俺は逆張りさせてもらうぜ。大穴でノエルに賭ける!」
「はっ、金をドブに捨てる気か?」
「ついでだしアイツの魂も賭けるわ」

 当然だが、ノエルの敗北を信じる声が圧倒的だった。

 少しおかしな奴も混じっているみたいだが……。



「遺言書なら書いてきたよ。ただしのノエル、君の名前でね!」
「あっそ。後悔しても、知らないわよ!!」

 ノエルは先手で黒玉ダーク・ボールを放った。

 魔力の蓄積は無し。
 詠唱も無し。
 まずは手数勝負といったところだろう。

「ははっ! こんなクソの威力もない魔法を連打したところで魔力の無駄でしかないよ! 冥途の土産も兼ねて、君には本物の魔法というものを教えてあげるよ」

 ポムは杖を天高くに掲げ、
 詠唱を開始した。

「五日目の眷属よ、そらから分かたれた二対についの一よ、今こそばくされし権能のいちを解放せし給え! 受けよ、特大級魔法――海龍旋豪リヴィゼルヴス!!」

 ポムの魔法。
 それは神が生み出した脅威、
 リヴァイアサンの力の一部を再現する魔法である。

 膨大なる水流が竜巻のような渦を発生させ、対象を水刃で切り刻みながら溺死させるのだ。

 ドドドドドドドドドドッ!!

 もの凄い轟音とともに。
 激しい水流の渦が、ノエルへと迫る。
 その様は、
 まるで獲物を捕食せんとするドラゴンの姿を彷彿とさせた。

「くっ! なんていう魔力圧!」

 これが、ポム・マルクス……。
 来年の金クラス候補、その一人!

「あっははははっ!! どうだ、これが僕の魔法の威力さ。大地を抉り大気を裂く! まるでドラゴン種のモンスターに迫られているかのような恐怖だろう!?」
「なにが、ドラゴンよっ!!」

 落ち着きなさい、私!
 確かにマルクスの魔法は強い。
 威力も一級品、それは間違いない。
 けれど、デス・オークとやりあった時ほどの威圧感はない。

 あの時はレイン君がそばにいてくれたから。
 
 確かにそれもある。
 でもそれだけじゃない。
 私は、この魔法に対処できる!

「闇の精よ、我に力を与え給え。吸収球体マナ・ドレイン!!」

 ノエルの詠唱と同時に、
 暗黒の球体が展開される。
 大きさは無いが、凝縮された魔力は相当なものだ。

 海龍旋豪リヴィゼルヴス吸収球体マナ・ドレインが衝突し、そして。
 
 ブワァァアアアアアッッ!!

 魔力と魔力が衝突した際に生じる大魔力風が、観客席に魔の手を伸ばした。

 これ程までに強大な魔力風だ。
 半端な実力の持ち主なら即座に失神してしまうだろう。

 実際、俺の周囲でも数人の生徒が気を失っていた。

「なにィっ! この僕の魔法と同格だとォ!?」

 驚愕に目を見開くポム。
 そんなポムに、ノエルは再度杖を突きあげ、今度はハッキリといった。

「言ったじゃない、吠え面かかせてやるって!」

 ノエルの台詞に

「ォォオオオオオッ!!」

 と空気が揺れた。
 予想だにしない展開に、
 ギャラリーがとてつもない盛り上がりをみせる。

 うんうん、良いぞ。
 その調子だ、ノエル!

『なんと! 誰がこの展開を予想したでしょうかァ!!?』

 実況者も白熱していた。

『ノエル・レイウス!! 海龍旋豪リヴィゼルヴスを見事に相殺して見せましたァ―――ッ!!」

 まあ、周りからはそう見えるだろうな。
 そして、そう錯覚させるための仕掛けをノエルは仕組んでいる。

 これからもっと面白いことになるぞ。
 俺は腕を組みながらノエルを見守った。

「チィッ! たまたま上手くいった程度で図に乗るんじゃないぞ!」
「別に図に乗ってなんかいないわよ。……今度はこっちからいくわよ!!」

 ノエルは威勢よく叫び、
 杖の先端をポムに向けた。

海龍旋豪リヴィゼルヴス!!」
「………………は?」

 ノエルの放った魔法を前に、
 ポムは間抜けな表情のまま固まった。
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