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第四章 古代の魔法編②

第37話 ノエル・レイウスvsポム・マルクス②

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「なっ! これは、僕の魔法じゃないかッ!!」

 その通りだ。
 コイツらは闇属性を忌み嫌ってばかりで、
 理解しようとしなかった。
 その結果がこれだ。

 そして、
 ノエルが仕組んだブラフ。
 それが魔法名の詠唱。

 吸収球体マナ・ドレインと聞いた限りでは、魔力を吸い取る魔法にしか思えない。

 だが、ノエルのあの魔法。
 その実際の名称は裏空間リバス・スペース
 空間に作用し、
 ありとあらゆるものを自由自在に出し入れすることのできる魔法なのだ。

 完全に受け身な魔法であるが故に、
 そして目立つことを避けるために、
 ノエルがその真価を発揮させることはなかった。

 ただし。
 それは今までの話だ。

「まさかコピーのスキルを持っているのか!? そっちがそう来るなら、僕だってスキルで反撃してやる! 喰らえ、大鉄槌ビッグハンマー!!」

 超巨大な鉄槌を顕現させ、
 それを自由自在に操ることが出来る。
 それがスキル大鉄槌ビッグ・ハンマーなのだが。
 ポムの行動は完全に悪手だ。
 理由は言うまでも無いだろう。

吸収球体マナ・ドレイン!!」

 ノエルは再度、裏空間リバス・スペースを発動する。

 ポムの繰り出した大鉄槌ビッグハンマーはこれでノエルのものだ。
 それどころこ、

 ドドドドドドドドッ!!

 大鉄槌ビッグハンマー海龍旋豪リヴィゼルヴスを迎え撃とうとしたポムの元に、着実に水の刃が接近していく。

「うわわっ! ど、どうなっている!? 僕が発動したのは魔法ではなくスキルだ。つまりお前の吸収球体マナ・ドレインでは吸収できるワケがないんだ! だってスキルは魔力を消費しないんだから!」

「考えてる暇なんてあるの? はやく海龍旋豪リヴィゼルヴスを発動して相殺しないと……死ぬわよ」
「……ぐっ! く、クソ! 海龍旋豪リヴィゼルヴス!!」

 もちろんこれもノエルの作戦だ。
 危機感を煽り魔法を発動させる。
 そしてそれをもう一度、

吸収球体マナ・ドレイン!!」

 裏空間リバス・スペースで吸収する。
 もう、ここから先は勝負にすらならない。

 同じ光景がひらすらに繰り返され、
 やがて――。

「はぁ、はぁ、はぁ……。な、んで。どうしてだっ!! お前、おかしいじゃないか!! だって、お前の吸収球体マナ・ドレインはその名の通り魔法を吸収する……まほ……」

(やっ、やられた~~~~~ッ!!)

 ふふ、どうやら気付いたようだな。
 
 マナ・ドレイン。
 それはノエルのから出た言葉でしかない。
 つまり、たったそれだけの情報を元に相手の魔法を推測するのは早計だったのだ。

「だ、だっ、騙したなッ!!」
「騙されるアンタがバカなのよ。とはいえ、私には人を殺す趣味はない。あのバカ兄貴とは違うの。だからこれで勘弁してあげる」

 大鉄槌ビッグハンマー!!

 ノエルが右手を振り払うと、
 大鉄槌ビッグ・ハンマーはその動きをトレースした。

 横振りされた大鉄槌ビッグ・ハンマーは、まるで小虫を振り払うようにポムを場外へと吹き飛ばす。

「ぶぎょぎょぎょギョェエ~~~ッ!!」

 ドッゴーーンッ!!

 優しいノエルらしい決着の付け方だ。
 もしも大鉄槌ビッグ・ハンマーが振り下ろされていたなら。

 そうなっていたら、ポムはゴミクズのようにペシャンコになって死んでいただろうから。

『しょ、しょ、勝負有り~~~っ!! 一体全体誰がこの結果を予測できたでしょうか!? マナクルス魔法学園史上初の超異常事態と言ってもいいやもしれません!!」

 実況は溜めに溜めてから、
 右拳を天高くへと掲げて絶叫した。

『勝者、ノエル・レイウスゥウ~~~~~ッ!!!!!』

 空間が割れるのではないか?
 そう思わせる程の大歓声。

 だが、瞬時に世界は二人だけになる。

 闘技場から俺を見上げるノエルと。 
 ノエルを見つめる俺と。
 
 だいぶ魔力を消耗したのだろう。
 ノエルの額には汗が浮かび、息も上がっている様子だった。

 だが、その表情はどこか誇らしげで。
 一人でなにかを成し遂げたという達成感、そして充足感が全身を駆け巡っているのだろう。

 俺は親指を立てて微笑んだ。
 それを見たノエルは、

「えへへ」

 同じように親指を立てて、
 満面の笑顔で応えてくれた。

#

 その後。
 俺の隣で黙りこくっていたレックが、ぽつりと呟いた。

「んだよ、ああいう顔もできるんじゃねぇか」
「もしかして惚れちゃいました?」

 からかうように言うと。
 ゴツン! 
 一発のげんこつが一 飛んできた。

「下らねぇこと言ってんな~。俺ぁこれから大忙しなんだ」

 立ち上がるや否や。
 レックは俺に背を向け、
 会場の出口を目指していく。
 去り際、片手をひらひらとさせながら、

「精々仲良くやれよ~」

 などと吐き捨てていた。
 レックらしさ満載の、
 実にナルシストな振る舞いだった。
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