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第五章 女神解放編

第55話 光り輝く未来へ

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 あれから一週間が経過し、
 俺たちは穏やかな日々を送っている。

 相も変わらず、
 俺はスライムを狩り続け、
 レベルは200を超えた。

 その傍らで、
 メアリさんにスキルの鍛え方を教えているのだが。

 これが中々に難しい。
 というのも、
 スキルというのは感覚的な要素が大きいのだ。
 
 だから、

「ぶわあーっと!」

 とか、

「ドッカーンっと!」

 みたいな、
 抽象的な言葉でしか教えられないのだ。

 メアリさんも頑張って、
 今まで以上にスキルを使い熟すべく努力しているのだが。

 中々、俺の言う感覚を理解できずに苦労している様子だ。

 リリルは御者の仕事をやめ、
 元々目指していた冒険者になるべく、俺の元で修行をしている。

 つまりは弟子二号だ。
 一生懸命な姿は実に可愛らしい。

 サタナとヴィーナはいがみ合っているように見えて、実は意外と相性が良い。

 お互いにお互いを認め合っているというか?

 二人の口から発せられる毒は信頼関係が前提にあってこそなのだと。

 俺はそう理解した。

 そしてノエルは。
 
 マナクルス魔法学園で、
 魔道具について学びつつ。
 
 必ず金クラスのトップとして卒業してみせると、俺に約束してくれた。

 その際、
 レックが放った言葉に、
 俺は思わず笑顔になってしまった。

「あ~、なんつうかアレだアレ。まあ、な。属性に人間性は関係ないっつ~か。ま~色々あって俺も教頭になるみたいだし? 差別がなくなるよう頑張るっつ~か。だからよ、お前も冒険者として……」

 照れた様子のレックを、
 ノエルがつんつんと小突く。
 レックは頭を掻きむしりながら、

「だ~~~!!」

 と呻いた後、

「お前も頑張りやがれ! こいつのことは俺が責任もって面倒見てやる!!」

 叫ぶようにそう言うのだった。

 二人が仲良くなった、
 ということでいいのかな?
 
 もし、その要因にほんの少しでも自分が絡んでいるのならば。

 それほど嬉しいことは無い。
 そんなことを、俺は思った。

#

 そしてある日。

 俺たちは、
 ある衝撃的な事実に直面していた。

「そういえば、私たちってパーティ登録してなくないですか?」

 メアリさんのひょんな言葉。
 それがキッカケだった。

「そういえば、そうでひゅね」
「うむ。それは由々しき事態じゃの」
「めっちゃビビるんですケド~」

 ああ、まさかこんな基本中の基本を忘れていただなんて。
 
 俺自身がスカウトされた身であるということもあり、すっかり忘れていたのだ。

 というわけで。
 ここからは、長い長い会議がなされた。
 
 何故なら、
 パーティを登録するためには、
 パーティ名を決めなくてはならないから。

 様々な案が、
 それぞれの口から飛び交ったのだが。
 
 各々が自分の主張を通したがるのでまるで話が進まない。

 そんな時。
 酒場兼カフェに、
 一人の少女がやってきた。

「久しぶりだな、ノエル」

 久しぶりとは言っても、
 二週間ぶりくらいなのだが。

「どうしてここに?」

 問いかけると、ノエルはあっけからんとした様子で言った。

「ん? レイン君の顔が見たくなってね。言ったじゃない、時々は会おうねって」

 そう言えばそんな約束もした。

 律義に守ってくれるとはいい子だ。
 
 俺もたまにはマナクルス魔法学園に顔を出さなければ。

 地味にレックのことも気に入ってるしな。



「え? パーティ名?」

 ノエルを含めた会議は、
 さらに二時間を要した。
 だが、その甲斐もあって。

 ついに、パーティ名が決まったのだった。

 その名は。

 光輝なる未来オーバーライツ

 
 来年には俺のパーティに加入すると。
 ノエルはそう断言した。
 だから、それも踏まえての命名だ。

 前世で神を冒涜?
 闇を信仰する魔族の王?
 過去に教え子を亡くした?
 聖剣に封印されていた?
 子供なのに働いていた?

 ……そして。

 パーティを追放され殺されかけた?

 それがどうした。
 そんなの関係ない。
 俺たちは今、生きている。
 今を必死に生きている。

 見据える先は未来。
 
 どんな未来が待ち受けているかは分からない。
 
 でも、どんな未来であって欲しいか。
 それを願うことくらいはできるだろう?

 暗い過去を消し去ってしまうくらいに明るい未来が。
 
 そんな未来が待っていますように。
 
 そんな未来をみんなで歩いていけますようにと。

 そんな願いを込めて。
 光輝なる未来オーバーライツと、名付けたのであった。

#

 その後のことを少し語ろう。

 パーティ名が決まったその日の夜。
 
 酒場のテラス席にて、
 俺は二人の女性に告白された。

 一人はメアリさん。
 そしてもう一人はノエルだ。

「ずっと好きでした。レインさんの相談に乗った、あの時から」

 顔を赤らめながらメアリさんが言う。

「私も。レイン君は恩人だって思ってたけど、気付いたらその気持ちが好きに変わってたの」

 ノエルの頬にも仄かな赤みが差していた。

 正直に言うとかなり嬉しい。
 舞い上がってしまいそうなくらいに。
 だが、俺は――。

「ありがとう、二人とも。凄く嬉しいよ。でも、俺は誰か一人を選ぶことは出来ない。メアリさんのことも、ノエルのことも、サタナのことも、ヴィーナのことも、リリルのことも」

 俺はみんなが大好きなんだ。
 だから。

 冒険者として、
 仲間として、
 これから先の生涯を共にしよう。
 
 そう言うと、
 二人は同時に吹き出し、

「レインさんらしいですね」
「レイン君らしいね」

 と笑ってくれた。

 そんな俺たちを、
 互いに小突き合いながら、
 サタナとヴィーナが大声で呼ぶ。さらにはリリルまでもが。

「今日は朝まで飲むんらからぁ~~~」
「レイ~ン! はらくしろォ~~~!」
「みなさん、早くして下さいでひゅぅ~!」
 
 俺たち三人は互いに顔を見合わせ笑った。
 
 それから、仕方がないなといった様子で。

 三人が待つ店内へと、
 歩いていくのだった。




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