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第五章 女神解放編

第54話 レイン・ロッドの願い

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 俺が五歳のとき、
 父親が亡くなった。
 S難度ダンジョンの攻略に失敗したのだ。

 それ以降、母は俺が冒険者になる事を全力で否定した。
 
 だが、
 それでも俺は、
 冒険者になるという夢を捨てられなかった。

 毎日のように剣を振るい。
 毎日のように体を鍛え。
 
 そんな俺を、
 母は毎日のように叱った、

「冒険者になんてなるんじゃない! 許さないからね!!」

 父が亡くなって以降。
 喧嘩が絶えぬ日は無かった。

 俺と母は、
 毎日のように言い争っていた。
 
 十五歳の誕生日を迎え、
 俺は、スキル鑑定の儀を受けた。
 
 結果は【超威圧フルプレッシャー

 支援型のスキルに、
 俺は絶望した。反対に母は喜んだ。

 しかしそれでも。

「今日で家を出る。今まで世話になったな」
「待って! 待ちなさい、レイン! レイィン!!」

 俺は母の気持ちを無視した。

 そして、一文無しで家を飛び出した。

 右も左も分からぬままに、
 ただただひたすらに王都を駆け巡った。

 

 そして【神の後光ライトリングス】のヴェンにスカウトされてから二年が経ったある日。

 俺の元に一通のふみが届けられる。

 皮肉なことに、
 俺が追放を言い渡される三日前のことだ。
 
 その文を読んで、
 俺は絶望した。

 母が重い病に伏したのだと。
 手紙にはそう書かれていた。

 どう足掻いても治らない不治の病。
 
 街中で倒れた母を、
 数多くの人間が救ってくれようと奮闘した。

 しかし、
 どのアイテムを用いても、
 どんな回復術士を呼んでも。

 母が回復することは無かった。
 母はもう、自分一人では生活できない。

 近隣の人に助けられ、
 いつその時が来るのかと、
 怯えながら生きている。
 
 ヴィーナに解放者様と言われた時。
 
 ヴィーナが女神だと知った時。

 俺はもしかしたら、
 と思った。
 
 もしかしたら、
 ヴィーナなら。
 女神の力なら、母の病を治せるのではないか? と。

「頼めるか、ヴィーナ?」
「超余裕デス!」

#

「久しぶりだね、母さん」

 ヴィーナを引き連れ。
 俺は久しぶりに実家に帰ってきた。
 
 俺の顔を見るや否や。
 母は大急ぎで駆け寄ろうとした。
 だが。

 ドダッ!

 足を崩して転倒しかけた。
 
 俺はそれを支え、
 母に微笑みかける。

「心配かけて、ごめん」
「……なによ、今更ぁ」

 いきなり泣き出した母だが、それは俺も同じだった。
 
 俺の意地で喧嘩別れになっただけに留まらず。最悪、それが今生の別れになるところだったのだ。

 しかし、今の俺は以前までの俺とは違う。
 
 俺には仲間がいる。

「ヴィーナ、頼む」
「はぁ~いっ!」

 ぽわぁああん!

 青白い光が母を包む。
 そして。

「え? あれ? 嘘!」

 母は勢いよく立ち上がった。

「あんなに苦しかったのに……。一体どうなっているの?」
「紹介するよ母さん。仲間のヴィーナ。冒険の途中で出会ったんだ」
「ヴィーナ、さん……? もしかして、貴女が治してくれたの?」
「はい! この我、レイン様のためなら何でもしちゃいますからっ!」
「そう……」

 母は泣きながら、
 何度も「ありがとう」と口にしていた。

#

 その後、
 俺は、冒険で出会ったみんなに母を紹介した。

「ああ、もう……。こんなに立派になったのね、レイン」

 母は終始泣いていた。
 
 そしてそれに感化されるように。

 時々は俺が、
 メアリさんが、
 ノエルが、
 リリルが、
 涙を流していた。

 サタナは魔王としての威厳を保つためなのかどうかはしらないが、必死に涙を堪えていた。



「レイン、これから時々は帰って来なさいよ? お母さん、いつでも待ってるからね!」
「ああ、約束する」


 かくして俺は母さんと別れたのであった。
 
 俺の願い。
 
 母の病を治すという目的は、
 こうして達成された。

 ちなみにリリルの両親も大変な状況だったらしく、それを聞いた俺は、

「ヴィーナ、頼む」

 惜しむわけもなく、
 ヴィーナの力を頼らせてもらった。

#

「レインさん。私、弟子にしてくださいって言いましたが、未だに一度も稽古を付けて貰ってないんですけど!」

 メアリさん、やや怒り気味。
 だがそれも無理はない。
 
 このままでは俺は約束を反故にしたことになってしまうからな。

「して、俺から何を教えて欲しいんだ?」
「決まっているじゃありませんか!」

 メアリさんはニッコリと微笑み、

「スキルの鍛え方についてですよ!」

 胸を張ってそう言うのだった。
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