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第一章
第62話 【強敵・2】
しおりを挟む「討伐系だし、気を引き締めて行かないとな」
依頼を受けた後、街を出て発見された場所へと向かった。
討伐系は普段も受けてるが、慣れて来てしまっていて最初の頃の緊張感は最近は無くなってきている。
その為、今回の依頼は自分の強さとほぼ同格かそれ以上の相手だろうと予想している俺は、向かう道中も緊張感を持って移動していた。
「普段だと、商人さんは少ない人数で移動してるが今日はやたらと警戒してるのか護衛の数が多かったな……」
王都までの道のりは他の道とは異なり、襲う輩も少なく比較的安全の為、護衛の数は二人か三人程度で商人さんは街の行き来をしている。
しかし、今日見た商人さん達は三組いたが、そのどれもが5人以上の冒険者を雇って移動していた。
「ここまで警戒して動いてる人が多いと、対象のウルフの群れを誰かが倒してる可能性もあるよな……」
そういった依頼で出されてる対象が倒されると、報酬は討伐した人が持って行くが依頼を受けた冒険者も一割だけ別途支給される。
そんな事を考えつつ、目的の場所に到着した俺は周辺を索敵しながら対象のウルフの群れを探した。
「……群れじゃないけど、一体だけ居るな。でもなんか様子が変だな?」
草原から少し森に近づいた場所に移動した俺は視線の先に一体のウルフを発見したが、そのウルフは様子が変だった。
足取りがふら付いており、よく見てみると体中に傷があった。
「もしかして、先に誰かが戦ってるのか!?」
俺は慌ててそのウルフの元へと行こうとした。
その直後、発見したウルフの3倍程大きなウルフが茂みから現れ、怪我を負っていたウルフを殴り飛ばした。
「……もしかして、ウルフの群れが草原に現れたのはあいつが原因なのか?」
見た感じ、その姿形からウルフ種では間違いないが上位種か何かだろう。
その辺の知識は勉強していたつもりだったが、俺の知識には無い魔物。
「グルル……」
「こんな近くにいたら、逃げる事も出来ないか」
その魔物は俺を視認すると、睨みつけながら唸ると「ガァウッ!」と叫び攻撃を仕掛けて来た。
速さ、そして力も俺の想像を超えており、何とか剣で防いだ俺は直ぐに反撃に移った。
「くらえッ!」
「ッ!」
炎だと素材を駄目にする為、水の魔法で顔面に攻撃を当て。
ウルフは勢いよく吹っ飛び、ウルフと距離が少しできた。
俺はそこで手を緩めず、更に魔法で追い込もうとした。
「グルル、グルァッ!」
「くっ! くそ、魔法が消えた」
発動しようとした魔法は、ウルフの叫びによって集中力が切れて消えてしまった。
そして俺は動揺してしまい、その隙をウルフは見逃さず。
俺に向かって突進をし、勢いよく今度は俺は吹き飛ばされた。
「カハッ……」
意識を失いかけたが直ぐに思考を切り替え、直ぐに剣を取り起き上がった。
俺の予想通り、ウルフは追い打ちをかけようと俺に向かって駆け出してたが、俺はその姿を見て氷の魔法で壁を形成した。
「素材なんて考えてる暇はないな、こいつを倒さないと俺が死ぬ」
俺はそう判断をして、何度もぶつかって壁を壊したウルフに向かって火と風の【魔法合成】で更に火力の高い炎を作り出し。
その炎でウルフを囲い込み、更に上空から押しつぶす様に魔法を放った。
「……これに耐えるとは、耐久力も抜群だな」
「グルル……」
炎の勢いがなくなり、中にはウルフ死体があると思っていたが、ウルフは体毛が燃えながらもまだ息をしている。
しかし、ほぼ倒れかけの状態なのはその様子から分かり、長く苦しませない為にも俺はそのウルフの首を切り落とした。
そして俺は、ウルフが倒れたのを確認してその場に座り込んだ。
「こんな戦い初めてだったな……」
未だ心臓がバクバクと鼓動が早く、落ち着かせる為に数分そこで休んだ。
そして体調が戻ったのを確認した俺は、大きなウルフが戦ってた森に確認しに行くと、そこには発見されたウルフ達が大量に倒れていた。
死体を回収しつつ、数を確認するとほぼ依頼に書かれて報告書と同数がその場に倒れていた。
「このウルフ達を倒した後に俺とも戦ったんだろ? あの魔物、相当タフだったんだな」
というか、あの魔物自体がこの周辺に居るべき魔物じゃないんだろう。
その証拠にここはそこまで激しい戦闘の痕跡無く、蹂躙されて最後の一匹が俺の近くで倒されたのだろう。
「……!」
「……子供のウルフか?」
ウルフ達の回収を終え、報告をする為に森を出ようとした俺は茂みから出て来た小さなウルフと目が合った。
そのウルフは怪我はしてないのを見るに、あのウルフの群れがこの子を守ったのだろうと察した。
「お前の家族は全員死んだ」
「……くぅ~ん」
俺の言葉を認識したのか、ウルフは悲し気にそう鳴いた。
冒険者としてこのウルフの子供も倒すのが正解だろうが、あの惨状を見て倒す事が出来ない俺はそのウルフを見逃す事にした。
いつか成長して人間に危害を加えたら、自分の責任を感じるだろう。
しかし、子供のウルフがこの弱肉強食の世界で生きていける程、甘い世界では無い。
ここで俺が見逃がしたとしても、直ぐに誰かが倒すかも知れない。
俺はそんな事を考えつつ、森を出る為に歩き出した。
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