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第四話
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「他の方を」
「誰か先客が?」
「もっと素敵な方がいますわ」
イーニッドは少しでもときめいたことを後悔した。
自分に自信がなくても、ソレク候の親族とは踊れない。
「ですが、せっかくですので」
すっと手を引かれてしまうと、すぐに腰を引かれた。
ガウェインとの顔が近づいて、胸が早鐘を打つ。
切れ長の双眸が、真っ直ぐに自分を見つめて微笑んでいる。
「お、おやめください」
「少し踊るだけでも。さっきから見ておりましたが、顔を隠して隅に立っていてはもったいない。とても綺麗な方なのに。ブルーの瞳が輝いて見えます」
「そんなこと言われても……私は……あなたとは……」
(マッケンジーと聞いて、何も思わないの?)
不信に思いつつ、イーニッドは否応なしにステップを踏む。
しかし、強引ではなくリードするような所作に頬が染まるばかりだった。
この人は駄目だと思っているのに、なぜか胸が鳴ってしまう。
見た目だけの人だと言い聞かせてみても、優しく微笑まれてしまうと、イーニッドはぎこちない笑みを返すだけだ。
(本当にソレク候の親族の人?)
勇気を出して、イーニッドは恐る恐る口を開けた。
ステップを気にしつつ、彼の切れ長の双眸を見つめる。黒く艶やかで思わず見惚れそうになり、慌てて本題をぶつけなければと、イーニッドは鋭く見つめた。
「マッケンジー家をご存知でしょうか?」
「いえ?」
「知らないわけないわっ」
管弦楽団の弦の調べに合わせつつ、イーニッドは思わず反論していた。
しかし彼は「知りませんよ?」と微笑むのだ。
「知っていたとしても、俺はあなたを手放す気はありません」
「どういう……意味でしょうか……?」
いきなり自分を手放すことはないと断言されたことの衝撃に頭がくらりとした。
求婚にも等しいそれに、どう対応したらいいのか分からなくなる。
「マッケンジー家の長女、イーニッド。存じております。ですが、私として名乗らずにダンスをするわけにはいきません」
すっと腰を更に引き寄せられて息が詰まる思いになる。
男性とここまで密接に身体が寄せ合ったことなどなく、高い鼻梁が顔の近くで止まる。
爽やかな香りが鼻先をくすぐり、期待させられるような気分になる。
思わず顔を逸らして、何事もなかったような素振りを見せた。
「そんな素振りをされても、私は今日を楽しみにしてきたのです。イーニッド」
「私は気が重いだけだったの。意味が分かるでしょ」
「あなたの塞いだ気持ちをほぐすのも、俺の役目だと思っています。だから――」
ガウェインが言い終えないうちに、イーニッドは強引に胸のから離れた。
周りはダンスを踊る中、イーニッドは立ち尽くし、ガウェインを睨んだ。
「私はあなたを許すことはないと思うわ。失礼します」
「イーニッド」
ぐっと手を引かれて、強引に振り向かされる。
早く帰らないと、ガウェインから力づくでもダンスを再開されそうだ。
「怒るのも、恨むのも理解出来ます。父がしたことは許しがたいこと。でも、俺はイーニッドを見ていた。俺は君の為ならなんだってするつもりです」
「だったら……、父や家族を王都に呼び戻してください」
「分かりました。その約束、必ず守りましょう」
「ソレク候? 私は……」
「あなたに嘘は付かないと決めています。それに、ガウェインと呼んで頂きたいものです。ソレクと呼び続けていては、あなたは永遠に私を恨むことになる」
「……っ! わ、分かりました。でもっ……私は結婚の意志はありません」
イーニッドは厳しい口調で言うが、ガウェインの口元は笑みを絶やさない。
余程の自信なのかと思うが、ガウェインの一存でマッケンジー家を王都に呼び戻すなど不可能な筈だ。
どうせ、それも嘘だとイーニッドは自分に言い聞かせた。
「まだ時間はあります。今晩は宮廷内の客室に泊まっていきなさい。用意させます」
言葉に詰まると、ガウェインは手を離し、人混みに消えていった。
さっきまで敵ともいえる相手の胸の中にいたことが信じられないと、また壁際に逃げる。
結局、イーニッドと踊る男性はガウェインだけだった。
マッケンジー家の没落は有名だったし、イーニッドが顔を隠していたせいもある。
途中で疲れて別室に逃げて、スツールに座り、ガウェインとのことを頭の中で整理していたが、それでもよく分からずに、結局執事に言われるがまま、宮廷の客間で一晩過ごした。
翌朝に馬車を走らせると、昼過ぎに着いて、ロバートが血相を変えて出迎えてくれる。
イーニッドはドレスを持ち上げながら、ふらりとした。
ロバートに抱えられてしまうと、そのまま寝室に運ばれる。
ベッドに身を預けると、ようやく気持ちが落ち着いてきて息が吸えるような気がした。
「ガウェイン様に求婚されそうです」
「ガウェイン……。それは、ソレク候の長男だな! 知っている、父よりも敏腕と噂の男だ。見た目も良いと聞いていたが。まさか、そんな相手を……」
「お父さま。違うの。私、まだOKしたつもりはないわ。だって、ソレク候の長男なんて、無理だもの。だから、結婚するなら王都に戻してくれとお願いしたのよ。そうしたら、彼がそうすると言ったの。ねえ? 本当かしら」
「嘘に決まっているだろう!」
激昂したロバートを初めて見た。
驚いて目を剥くと、慌ててロバートが咳払いをして、「大きな声を出してすまない」と謝罪してくる。でも、父が怒るのは充分に理解出来るのだ。
昨日自分だって、ソレク候の親族だと分かって拒絶した。
無理難題をふっかければ去ると思ったのに、彼は嬉しそうに受けたのだ。
そのことを考えると、頭がくらくらしてきて、何から考えたらいいのか分からなくなる。
(互いに嫌っているのよね? ソレク候は父を追いやって、父はソレク候を恨んでいて。なのに、どうしてガウェインは私を?)
考えても思いつかずに、イーニッドは枕に身を静めた。
「誰か先客が?」
「もっと素敵な方がいますわ」
イーニッドは少しでもときめいたことを後悔した。
自分に自信がなくても、ソレク候の親族とは踊れない。
「ですが、せっかくですので」
すっと手を引かれてしまうと、すぐに腰を引かれた。
ガウェインとの顔が近づいて、胸が早鐘を打つ。
切れ長の双眸が、真っ直ぐに自分を見つめて微笑んでいる。
「お、おやめください」
「少し踊るだけでも。さっきから見ておりましたが、顔を隠して隅に立っていてはもったいない。とても綺麗な方なのに。ブルーの瞳が輝いて見えます」
「そんなこと言われても……私は……あなたとは……」
(マッケンジーと聞いて、何も思わないの?)
不信に思いつつ、イーニッドは否応なしにステップを踏む。
しかし、強引ではなくリードするような所作に頬が染まるばかりだった。
この人は駄目だと思っているのに、なぜか胸が鳴ってしまう。
見た目だけの人だと言い聞かせてみても、優しく微笑まれてしまうと、イーニッドはぎこちない笑みを返すだけだ。
(本当にソレク候の親族の人?)
勇気を出して、イーニッドは恐る恐る口を開けた。
ステップを気にしつつ、彼の切れ長の双眸を見つめる。黒く艶やかで思わず見惚れそうになり、慌てて本題をぶつけなければと、イーニッドは鋭く見つめた。
「マッケンジー家をご存知でしょうか?」
「いえ?」
「知らないわけないわっ」
管弦楽団の弦の調べに合わせつつ、イーニッドは思わず反論していた。
しかし彼は「知りませんよ?」と微笑むのだ。
「知っていたとしても、俺はあなたを手放す気はありません」
「どういう……意味でしょうか……?」
いきなり自分を手放すことはないと断言されたことの衝撃に頭がくらりとした。
求婚にも等しいそれに、どう対応したらいいのか分からなくなる。
「マッケンジー家の長女、イーニッド。存じております。ですが、私として名乗らずにダンスをするわけにはいきません」
すっと腰を更に引き寄せられて息が詰まる思いになる。
男性とここまで密接に身体が寄せ合ったことなどなく、高い鼻梁が顔の近くで止まる。
爽やかな香りが鼻先をくすぐり、期待させられるような気分になる。
思わず顔を逸らして、何事もなかったような素振りを見せた。
「そんな素振りをされても、私は今日を楽しみにしてきたのです。イーニッド」
「私は気が重いだけだったの。意味が分かるでしょ」
「あなたの塞いだ気持ちをほぐすのも、俺の役目だと思っています。だから――」
ガウェインが言い終えないうちに、イーニッドは強引に胸のから離れた。
周りはダンスを踊る中、イーニッドは立ち尽くし、ガウェインを睨んだ。
「私はあなたを許すことはないと思うわ。失礼します」
「イーニッド」
ぐっと手を引かれて、強引に振り向かされる。
早く帰らないと、ガウェインから力づくでもダンスを再開されそうだ。
「怒るのも、恨むのも理解出来ます。父がしたことは許しがたいこと。でも、俺はイーニッドを見ていた。俺は君の為ならなんだってするつもりです」
「だったら……、父や家族を王都に呼び戻してください」
「分かりました。その約束、必ず守りましょう」
「ソレク候? 私は……」
「あなたに嘘は付かないと決めています。それに、ガウェインと呼んで頂きたいものです。ソレクと呼び続けていては、あなたは永遠に私を恨むことになる」
「……っ! わ、分かりました。でもっ……私は結婚の意志はありません」
イーニッドは厳しい口調で言うが、ガウェインの口元は笑みを絶やさない。
余程の自信なのかと思うが、ガウェインの一存でマッケンジー家を王都に呼び戻すなど不可能な筈だ。
どうせ、それも嘘だとイーニッドは自分に言い聞かせた。
「まだ時間はあります。今晩は宮廷内の客室に泊まっていきなさい。用意させます」
言葉に詰まると、ガウェインは手を離し、人混みに消えていった。
さっきまで敵ともいえる相手の胸の中にいたことが信じられないと、また壁際に逃げる。
結局、イーニッドと踊る男性はガウェインだけだった。
マッケンジー家の没落は有名だったし、イーニッドが顔を隠していたせいもある。
途中で疲れて別室に逃げて、スツールに座り、ガウェインとのことを頭の中で整理していたが、それでもよく分からずに、結局執事に言われるがまま、宮廷の客間で一晩過ごした。
翌朝に馬車を走らせると、昼過ぎに着いて、ロバートが血相を変えて出迎えてくれる。
イーニッドはドレスを持ち上げながら、ふらりとした。
ロバートに抱えられてしまうと、そのまま寝室に運ばれる。
ベッドに身を預けると、ようやく気持ちが落ち着いてきて息が吸えるような気がした。
「ガウェイン様に求婚されそうです」
「ガウェイン……。それは、ソレク候の長男だな! 知っている、父よりも敏腕と噂の男だ。見た目も良いと聞いていたが。まさか、そんな相手を……」
「お父さま。違うの。私、まだOKしたつもりはないわ。だって、ソレク候の長男なんて、無理だもの。だから、結婚するなら王都に戻してくれとお願いしたのよ。そうしたら、彼がそうすると言ったの。ねえ? 本当かしら」
「嘘に決まっているだろう!」
激昂したロバートを初めて見た。
驚いて目を剥くと、慌ててロバートが咳払いをして、「大きな声を出してすまない」と謝罪してくる。でも、父が怒るのは充分に理解出来るのだ。
昨日自分だって、ソレク候の親族だと分かって拒絶した。
無理難題をふっかければ去ると思ったのに、彼は嬉しそうに受けたのだ。
そのことを考えると、頭がくらくらしてきて、何から考えたらいいのか分からなくなる。
(互いに嫌っているのよね? ソレク候は父を追いやって、父はソレク候を恨んでいて。なのに、どうしてガウェインは私を?)
考えても思いつかずに、イーニッドは枕に身を静めた。
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