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第七話
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イーニッドは精一杯の負け惜しみを言う。
もうこれ以上夜会に通っても、自分に振り向いてくれる男性はほとんどいないだろう。
そろそろ結婚相手の見通しが立たなければ、次に父から言われるのは、再婚相手の妻だ。考えたくないことが次から次へと浮かんでくる。
後妻なんて、王都にいるときには考えたこともなく、それだけは避けたいのだ。
「イーニッド。そのブルーの瞳が時々潤んで見える。どうしてです?」
「気のせいよ。寝不足だわ」
「じゃあ、もっとよく見せてほしいものです」
突然顎を掬われてイーニッドの胸が止まるような絞めつけられるような感覚になる。
「や、やめて……」
「もっと良く見せて。悪い病気になったらいけないでしょう?」
「見ても……分からないじゃないっ」
「分かります。俺はイーニッドが困惑しているのが、よく分かる。瞳が泳いでいるし、さっきより艶やかになってきた。頬も染まっていますよ」
声に出して言われて、イーニッドは息が止まるかと思った。
もう離して欲しいと思うのに、彼の瞳を見つめてしまうと、途端に吸い込まれるような思いになる。
自分の気持ちがほぐされるような思いになって、慌てて身を捩った。
「失礼だわ」
緊張で息を弾ませながら、イーニッドは背を向けた。
頬が火照り、耳朶まで熱を帯びている。
胸が鳴り止まず、まるで恋にでも落ちた錯覚になって、慌てて胸元を抑えた。
(この人は敵よ。よく考えなさい。いつか良い人が必ず現れるわ)
ガウェインに向き直ると、彼は頭を下げた。
「少し強引過ぎました。申し訳ありません」
「だったら! もうこれ以上近づかないで」
じろっと睨んでみるものの、イーニッドの胸は鳴り止まない。
こんなにも頬がアツく、恋をしていると勘違いしそうで頭の中がぐちゃぐちゃになりそうなのに、相手はソレク家の長男ガウェイン。
こんなにも必死に言い寄ってくるのは嬉しいはずなのに、憎まれ口しか出てこない。
イーニッドの混乱をよそに、ガウェインは笑みを絶やすことなく優しく見つめるばかり。
そんな余裕を見せられて、余計にどうしたらいいのかわからなくなる。
「そうはいきません。このままではイーニッドの初婚の相手が、丸く太った年の離れた男になってしまいそうで、心配でたまりませんから。見た目だけで決めるのは悪いのですが、再婚相手を探す男の妻になるのは、あまり勧めませんが」
「……」
言い当ててられて、イーニッドは何も言えなくなった。
もうそろそろ、初婚同士の結婚は無理ではないかと諦めていたのだ。
ロバートの伝手で、再婚相手探している侯爵でもいればと、弱気な気持ちもあったのだ。
(だからって、口に出すことないじゃない!)
イーニッドはガウェインを睨むしか出来ない。
すると彼も申し訳なさそうに、口を開いた。
「一度だけでいいのです。デートをしてほしい。互いの家のことは関係なく、純粋に」
ガウェインの熱っぽい言葉に浮かされて、イーニッドはスカートの裾を掴んでいた。
後がないことを理由にデートをするなど、卑怯だと思う。
でも、自分の気持ちのどこかにガウェインを否定しきれないところがあるのだ。
それに、王都に家族を帰らせてくれるという約束を、信じても良いと思ってきている。
「ガウェイン」
イーニッドは長身の彼を見上げると、想いが込み上げて涙目になっていた。
彼を気になる気持ちよりも、まだ敵という気持ちが大きいのだ。
ここまで求婚をされて、少しもなびかないわけでもない。
でも、父や家族は、ガウェインの父アランのせいで王都を追われることになった。
その怒りがすぐに消えるわけじゃない。
「なんですか?」
「一度だけならいいわ。でも求婚に応じたわけじゃないの。ただ、私も父に少し嬉しい話を持って帰りたい。それに再婚相手の妻になろうとも、あなたには関係ないわ」
「……」
自分でも冷たいことを言ったと思った。
逃げ場のない自分に、素直にガウェインに甘えてしまえばいいのかもしれないと、時々悪魔が囁くのだが、そんなに簡単なことじゃないと、どうしても天使の意見が勝ってしまう。
自分の性格が恨めしいような気がした。
「イーニッドは真っ直ぐですね。余計に好きになりました。妻に迎えいれたくてたまりません」
ガウェインが満面の笑みを見せるので、イーニッドは目を丸くした。
自分は嫌われることばかりを口にしているのに、どうして彼は離れるどころか、好きだと口にするのだろう。
頭を抱えたくなる思いだ。
そんな悩ましい表情がつい顔に出てしまう。
そんな様子を、ガウェインはゆったりと見守るだけなのだ。
いっそ笑われ、今までのことは嘘だと言われた方がいいのに。
彼は真正面から、イーニッドに告白してくる。
どうしたらいいのか本当に分からずに、スカートの裾をまた握っていた。
「私、そんなつもりで言ったわけじゃないわ。あなたとは、ちゃんと距離を……」
「距離なら、どんどん縮めていけますよ。デートだって、受けてくれたじゃないですか」
「……っ!」
イーニッドは誤解だと言いたいのだが、上手く言葉にならなかった。
これ以上拒絶したら、ガウェインの気持ちを無下にするような気がしたからだ。
デートは一度きりだと念押ししているし、それ以上の関係にはなるつもりはない――はずだ。
それなのに、彼の底なしの自信で気持ちがぐらぐらと揺らぎそうになる。
もうこれ以上夜会に通っても、自分に振り向いてくれる男性はほとんどいないだろう。
そろそろ結婚相手の見通しが立たなければ、次に父から言われるのは、再婚相手の妻だ。考えたくないことが次から次へと浮かんでくる。
後妻なんて、王都にいるときには考えたこともなく、それだけは避けたいのだ。
「イーニッド。そのブルーの瞳が時々潤んで見える。どうしてです?」
「気のせいよ。寝不足だわ」
「じゃあ、もっとよく見せてほしいものです」
突然顎を掬われてイーニッドの胸が止まるような絞めつけられるような感覚になる。
「や、やめて……」
「もっと良く見せて。悪い病気になったらいけないでしょう?」
「見ても……分からないじゃないっ」
「分かります。俺はイーニッドが困惑しているのが、よく分かる。瞳が泳いでいるし、さっきより艶やかになってきた。頬も染まっていますよ」
声に出して言われて、イーニッドは息が止まるかと思った。
もう離して欲しいと思うのに、彼の瞳を見つめてしまうと、途端に吸い込まれるような思いになる。
自分の気持ちがほぐされるような思いになって、慌てて身を捩った。
「失礼だわ」
緊張で息を弾ませながら、イーニッドは背を向けた。
頬が火照り、耳朶まで熱を帯びている。
胸が鳴り止まず、まるで恋にでも落ちた錯覚になって、慌てて胸元を抑えた。
(この人は敵よ。よく考えなさい。いつか良い人が必ず現れるわ)
ガウェインに向き直ると、彼は頭を下げた。
「少し強引過ぎました。申し訳ありません」
「だったら! もうこれ以上近づかないで」
じろっと睨んでみるものの、イーニッドの胸は鳴り止まない。
こんなにも頬がアツく、恋をしていると勘違いしそうで頭の中がぐちゃぐちゃになりそうなのに、相手はソレク家の長男ガウェイン。
こんなにも必死に言い寄ってくるのは嬉しいはずなのに、憎まれ口しか出てこない。
イーニッドの混乱をよそに、ガウェインは笑みを絶やすことなく優しく見つめるばかり。
そんな余裕を見せられて、余計にどうしたらいいのかわからなくなる。
「そうはいきません。このままではイーニッドの初婚の相手が、丸く太った年の離れた男になってしまいそうで、心配でたまりませんから。見た目だけで決めるのは悪いのですが、再婚相手を探す男の妻になるのは、あまり勧めませんが」
「……」
言い当ててられて、イーニッドは何も言えなくなった。
もうそろそろ、初婚同士の結婚は無理ではないかと諦めていたのだ。
ロバートの伝手で、再婚相手探している侯爵でもいればと、弱気な気持ちもあったのだ。
(だからって、口に出すことないじゃない!)
イーニッドはガウェインを睨むしか出来ない。
すると彼も申し訳なさそうに、口を開いた。
「一度だけでいいのです。デートをしてほしい。互いの家のことは関係なく、純粋に」
ガウェインの熱っぽい言葉に浮かされて、イーニッドはスカートの裾を掴んでいた。
後がないことを理由にデートをするなど、卑怯だと思う。
でも、自分の気持ちのどこかにガウェインを否定しきれないところがあるのだ。
それに、王都に家族を帰らせてくれるという約束を、信じても良いと思ってきている。
「ガウェイン」
イーニッドは長身の彼を見上げると、想いが込み上げて涙目になっていた。
彼を気になる気持ちよりも、まだ敵という気持ちが大きいのだ。
ここまで求婚をされて、少しもなびかないわけでもない。
でも、父や家族は、ガウェインの父アランのせいで王都を追われることになった。
その怒りがすぐに消えるわけじゃない。
「なんですか?」
「一度だけならいいわ。でも求婚に応じたわけじゃないの。ただ、私も父に少し嬉しい話を持って帰りたい。それに再婚相手の妻になろうとも、あなたには関係ないわ」
「……」
自分でも冷たいことを言ったと思った。
逃げ場のない自分に、素直にガウェインに甘えてしまえばいいのかもしれないと、時々悪魔が囁くのだが、そんなに簡単なことじゃないと、どうしても天使の意見が勝ってしまう。
自分の性格が恨めしいような気がした。
「イーニッドは真っ直ぐですね。余計に好きになりました。妻に迎えいれたくてたまりません」
ガウェインが満面の笑みを見せるので、イーニッドは目を丸くした。
自分は嫌われることばかりを口にしているのに、どうして彼は離れるどころか、好きだと口にするのだろう。
頭を抱えたくなる思いだ。
そんな悩ましい表情がつい顔に出てしまう。
そんな様子を、ガウェインはゆったりと見守るだけなのだ。
いっそ笑われ、今までのことは嘘だと言われた方がいいのに。
彼は真正面から、イーニッドに告白してくる。
どうしたらいいのか本当に分からずに、スカートの裾をまた握っていた。
「私、そんなつもりで言ったわけじゃないわ。あなたとは、ちゃんと距離を……」
「距離なら、どんどん縮めていけますよ。デートだって、受けてくれたじゃないですか」
「……っ!」
イーニッドは誤解だと言いたいのだが、上手く言葉にならなかった。
これ以上拒絶したら、ガウェインの気持ちを無下にするような気がしたからだ。
デートは一度きりだと念押ししているし、それ以上の関係にはなるつもりはない――はずだ。
それなのに、彼の底なしの自信で気持ちがぐらぐらと揺らぎそうになる。
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