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けつまつ!~それぞれの栄光の第一歩
○●15表裏_悪役令嬢は新たな一歩を踏み出した!
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翌年。
王都では、盛大なパレードが開かれていた。
クラウスとホトス姫の、婚約パレードである。
そのパレードの中央、白馬の引く馬車の中、トトスはクラウスとともに、窓の外から聞こえてくる歓声に手を振っていた。
「ほら、トトス、あんなにみんなが祝福してくれているよ」
「は、はイ、クラウスさマ。ですガ、私で良かったのでしょうカ?」
慣れているのか堂々と手を降るクラウスに対して、遠慮がちに手を振るトトス。
本来ならここにいるのはトトスではなくホトスのハズだが、ホトス本人から
「パレードはトトス! 結婚式は私!」
などと言われ、今に及ぶ。
トトスとしては人の多いパレードはホトスに任せたかったのだが、
「だめヨ! トトスは緊張して結婚式のスピーチなんてできないでショ!」
と言われ断念した。
「遠慮することはない。トトスもホトスも、私の大切な人なのだから」
「そ、それハ、私もでス!」
反射的に声を上げてしまい、真っ赤になるトトス。
クラウスの、愛おしい視線が刺さる。
それが嬉しくて、恥ずかしくもあり、外へと目を向ける。
しかし、見知った姿を見つけて、声を上げた。
「あ、ヨグちゃんがいますヨ! てけちゃんモ!」
「ラバンとメビウス、ローザも一緒だな。
地位も種族を超えて手を取り合う。
うん、素晴らしい景色だ」
クラウスに合わせ、手を振る。
王宮に籠もって過ごしてきたトトスは、確かに幸せを感じていた。
# # # #
一方のラバンは、宇宙的恐怖を感じていた。
瘴気あふれ出る触手生物が目の前にいるのだから、当然といえよう。
(^_^)v てけちゃんさン! こウ!
(*‘∀‘) 内臓を絞り出せバ! 瘴気に方向性を持たせることができまス!
(*^▽^*) オウ! 素晴ラシイ!
阿鼻叫喚となるパレードの会場。
それに笑顔で手を振っているクラウスとトトス。
頭の痛くなる光景だが、隣からは感動の叫びが飛んでくる。
「ああ! 本当に素晴らしい! クラウス様!
パレードの準備をしたかいがありました!」
言うまでもなく、クラウスの信徒と化したローラである。
ちなみに、ヨグちゃんとてけちゃんを特等席に据えたのも彼女だ。
ローラにとっては当然の行為だったのだろうが、国民にはいい迷惑である。
これが種族混在の未来か。
何やら冒涜的境地にたどり着きそうになった自分を何とか引き戻そうと、ラバンは隣のセバスチャンに話しかけた。
「やれやれ、やはりタイタスのところへでも遊びに行くべきだったな」
「左様でございますな、ラバン様」
「おっと、ラバン兄様。僕をおいて逃げようとするのは禁止ですよ?」
そこへメビウスが入ってきた。
目的は同じなのだろう、真っ青な顔をしている。
「まったく、王族だからと盛大なパレードを開くのは不適切ですね。
金もかかるし、国民の支持率も下がりそうだし、いいことなしです」
「左様でございますな、メビウス様」
「有能なイエスマンなんて素晴らしいですね、セバスチャン。
どうです? 僕のトコで働いてみません?」
「引き抜きはやめてくれ、メビウス。これでも重宝してるんだ」
「左様でございますな、ラバン様」
「おや、それは残念。
なんなら、僕トコの教会貴族と交換でもよかったんですが」
「明らかに釣り合っていないだろう、メビウス」
「左様でございますな、ラバン様」
会話を続けながら、徐々に触手生物と距離を取る三人。
幸い、ローラ率いる混沌の化身はクラウスとトトスに夢中らしく、ちょっとくらい席を外しても気づかなさそうだ。
メビウスは、周囲の衛兵に聞かせるかのように、声を上げた。
「この後は――陛下からのお言葉に、聖女様のスピーチですか。
では、僕は、聖女様の相手で苦労しているであろう大司教様に声をかけてきます。
という訳で、退散しますね?」
「お待ちください、メビウス様。
私も護衛として同行いたします。これ以上このような劣悪な環境での業務となると、クラウス様をパワハラで訴えなければならなくなりますので」
「ああ、君はクラウス兄さまのトコの衛兵ですか。
素晴らしい判断です。 僕のトコで働いてみません?」
「大司教様の相手はちょっと……」
メビウスめ、うまく逃げたな。
きっと、教会勢力の中でもたくましく生きていくのだろう。
そう思ったラバン、便乗して一緒に出て行く。
「私たちも行こうか、セバスチャン」
「言い訳はどうなさいますか、ラバン様」
「おや、久々にまともにしゃべったね。
うん、そうだな、大司教様の相手で苦労しているであろう、アリス君の様子を見に行く、でいいだろう」
# # # #
「どうしようどうしよう!? ラティ! 私、緊張で頭の中からっぽだよ!」
「落ち着きなさい!
スピーチといっても、私が用意した原稿を読み上げるだけです!
だいたい! 頭からっぽなのはいつものことでしょう!」
「この不肖てぃびちゃんも! 筋肉で! 応援していますよ!」
「アナタはちょっと黙ってなさい!」
スピーチを前に慌てるアーティアとマッスルポーズなてぃびちゃん、叫ぶラティ。
もはや見慣れた光景に、アリスはむしろ落ち着いていた。
それはもう、目の前にいる教皇様と大司教様の相手もできるほどに。
「ええっと、聖女様はもう少し時間がかかりますから、先にご挨拶をお願いしてもよいでしょうか? スピーチには、間に合わせますので」
「もちろんだ。むしろ、若い世代に大役を押し付け、心苦しく思っている」
「ふん、やはり聖女への挨拶など、後日にすべきでしたな」
カリスマたっぷりに答える教皇様に、嫌味たっぷりに突っこむ大司教様。
アーティアとラティみたいだ。
きっと、この二人にも、似たような苦労があったのだろう。
「いえ、お気になさらず。ただ、聖女様は今、少し余裕がないようですので、後で、こちらからお伺いしますわ」
「そういってくれると助かる。私はそれまでアルゼウスへ挨拶にでも……」
「いや、それは止めておけ」
とりあえず気を使ってみるアリスだったが、途中で大司教が止めた。
大司教が顎でしゃくる方を見ると、どうやらクラウスがパレードから戻ってきたらしく、王と王子の会話が聞こえてきた。
「まさか本当に余の用意した政略結婚に親愛の情が伴うとはな。
それも二人と一匹も。
よかったというべきか、余計なことをしたというべきか」
「父上!? これから婚約のスピーチですから!」
「ああ、すまんスマン。
それにしても、伝統では、隣国の王族と婚約するのは悪役たる公爵令嬢と決まっているのだが、まさか我が王家がその役割を担うとは――」
「父上! ですから今は――!」
頭を抱えそうになるアリス。
そんなアリスに、大司教から声がかかった。
「君は予言者だろう?
このくらいで頭を抱えていては持たんぞ?
私も教皇にはいろいろと苦労させられたものだ」
「だ、大司教? 私も常々すまないと思っているのだが!?」
何か教皇が慌てているが、同類を見つけたかのような大司教の視線は消えない。
おかしい。学園に入学したときは、アーティア係を卒業して、学園生活を謳歌する予定だったのに。なぜ、偉い人に目をつけられているのだろう?
ああ、私にも、予言の書のアーティアみたいに、王子様が助けに来ないかしら?
そう思っていると、ノックが聞こえた。
どうやら、また誰か来たらしい。
フラネイルあたりが来たのなら、金だけ取り立てて追い返してやる。
あの手紙のこと、まだ忘れてないからね?
そんな思いを乗せながら、アリスは扉を開いた。
# # # #
「うお、寒気が!?」
「そら寒いよ。何せ、修道院に風穴開いてるんだからね」
路地裏の修道院。
修復作業を監視しに来たフラネイルは、急に襲ってきた寒気に身を震わせた。
老イザラからごく当たり前の事実を突きつけられたが、どうもそれだけではない気がする。
また何か起こるのか?
もう勘弁してくれ!
いやな予感に顔をしかめていると、シスター二人が駆け寄ってきた。
「商人のおにーさん、そんな変な顔してたらぁ、幸せが逃げてくよぉ?」
「そうそう、ここは前向きにいかないと! これから新しくなるんだって!」
「っ! お前ら!」
思わず、声を上げるフラネイル。
が、それを遮るように、マザー・マギアの声が響いた。
「リサ、ローザ! 領主様にご迷惑をかけてはいけませんよ!」
「はーい! じゃ、おにーさん、ゆっくりしていってね?」
「お土産、置いてってもいいよぉ?」
イタズラが成功した子どものように笑うと、駆けていくシスター二人。
老イザラの、それはもう楽しそうな視線が突き刺さる。
「おや、アンタにも縁ってものがあるんだね?」
「そんな立派なものじゃないですよ」
「縁が立派かどうかなんて、後にならないと分かんないもんさ。
少なくとも、あの二人はアンタを気にしてただろう?
なら、大切にすることさね」
「はあ、シスター、俺はもう帰りますよ。視察は十分済んだし」
見透かされたような気がしたフラネイル。
視察の打ち切りを告げる。
が、それを老イザラが引き止めた。
「まあ、待ちな。今度来るときは、お土産と――そうさね、シスター・イザベラのことでも聞かせてやるといい」
「イザベラって、この修道院でかくまっていたっていう……」
「さて? 私達は誰も匿ってなんていないさ。
でも、急にいなくなったんで、皆、心配してるのさ。
アンタなら、修道院のシスターが書いた手紙を届けるくらい、出来るだろう?」
やれやれ、さっきの寒気の原因はこれか。
フラネイルは苦笑で返して、修復中の修道院から出て、一緒に来ていた官吏へ声をかけた。
「おい、視察は終わりだ! 戻るぞ!
代わりに、調査を――」
# # # #
「ふう、今日はこのくらいかしら?」
「お疲れ様です、イザラ様!」
辺境伯領臨時キメラ生物研究所。
イザラは、薬品をいじっていた手を止めた。
声をかけてくれるのは、相変わらず護衛を務めてくれる女騎士。
差し出されるタオルを、ありがとう、と言って受け取る。
「研究は、順調ですか?」
「ええ、設備がいいせいかしらね? 学園より充実してるわ」
あの事件の後、この研究所に戻ったイザラは、解毒剤の改善を続けていた。
ナイアは逮捕されたとはいえ、まだ「神の種」の犠牲者は残っているのだ。
まだ、研究は続けなければならない。
「イザラ、手紙だ」
そこへ、タイタスが入ってきた。
すかさず、女騎士が突っこむ。
「タイタス様。仮にも女性のいる部屋にノックもしないとは何事ですか。
もう少しマナーというものを身に下さい」
「いや、ノックはしたのだがな」
「イザラ様は研究に夢中で、私は護衛に集中していましたからね、聞こえなかったのでしょう。そして、聞こえないノックに意味はありません」
「そう思って、タイミングを待ったのだが」
「それでは、タイミングを掴んだ時にノックをしてください」
「分かった、すまない」
面倒になったのか、イザラの方へ謝るタイタス。
イザラは苦笑しながら、手紙を受け取った。
「相変わらず仲がよろしいのですね?」
「そういうわけではないのだがな。
それで、その手紙は?
部下から至急、といわれたので、部屋ではなくこちらへ持ってきたのだが」
事件を警戒しているのだろう、タイタスは雰囲気を変えて、問いかけてきた。
少しの緊張とともに、手紙を開くイザラ。
しかし、すぐに、笑みを浮かべた。
「問題ありませんわ。少し前にお世話になった、修道院からです」
「そうか。それは――よかったな」
言葉は少ないが、優しくうなずくタイタス。
イザラはそのまま手紙を読み進め、
――おウ! 素晴らしイ! 新たなサンプルが届きましタ!
――おい! うかつに近寄るな! セインツ流忍術!
――お待ちください! お嬢様に迫る危険はこの私が!
部屋の外からの声で、すぐに手を止めた。
無言で部屋の外へ向かう女騎士。
数秒後に、戦闘音。
タイタスはため息をつくと、イザラへ問いかけた。
「修道院、視察にでも行ってみるか?」
「よろしいのですか?」
「ああ、休暇は必要だろう? それに」
そんな顔をされてはな。
静かに笑うタイタスに、
「では、一緒に行きませんか、タイタス様」
イザラも、小さく笑い返した。
(完)
王都では、盛大なパレードが開かれていた。
クラウスとホトス姫の、婚約パレードである。
そのパレードの中央、白馬の引く馬車の中、トトスはクラウスとともに、窓の外から聞こえてくる歓声に手を振っていた。
「ほら、トトス、あんなにみんなが祝福してくれているよ」
「は、はイ、クラウスさマ。ですガ、私で良かったのでしょうカ?」
慣れているのか堂々と手を降るクラウスに対して、遠慮がちに手を振るトトス。
本来ならここにいるのはトトスではなくホトスのハズだが、ホトス本人から
「パレードはトトス! 結婚式は私!」
などと言われ、今に及ぶ。
トトスとしては人の多いパレードはホトスに任せたかったのだが、
「だめヨ! トトスは緊張して結婚式のスピーチなんてできないでショ!」
と言われ断念した。
「遠慮することはない。トトスもホトスも、私の大切な人なのだから」
「そ、それハ、私もでス!」
反射的に声を上げてしまい、真っ赤になるトトス。
クラウスの、愛おしい視線が刺さる。
それが嬉しくて、恥ずかしくもあり、外へと目を向ける。
しかし、見知った姿を見つけて、声を上げた。
「あ、ヨグちゃんがいますヨ! てけちゃんモ!」
「ラバンとメビウス、ローザも一緒だな。
地位も種族を超えて手を取り合う。
うん、素晴らしい景色だ」
クラウスに合わせ、手を振る。
王宮に籠もって過ごしてきたトトスは、確かに幸せを感じていた。
# # # #
一方のラバンは、宇宙的恐怖を感じていた。
瘴気あふれ出る触手生物が目の前にいるのだから、当然といえよう。
(^_^)v てけちゃんさン! こウ!
(*‘∀‘) 内臓を絞り出せバ! 瘴気に方向性を持たせることができまス!
(*^▽^*) オウ! 素晴ラシイ!
阿鼻叫喚となるパレードの会場。
それに笑顔で手を振っているクラウスとトトス。
頭の痛くなる光景だが、隣からは感動の叫びが飛んでくる。
「ああ! 本当に素晴らしい! クラウス様!
パレードの準備をしたかいがありました!」
言うまでもなく、クラウスの信徒と化したローラである。
ちなみに、ヨグちゃんとてけちゃんを特等席に据えたのも彼女だ。
ローラにとっては当然の行為だったのだろうが、国民にはいい迷惑である。
これが種族混在の未来か。
何やら冒涜的境地にたどり着きそうになった自分を何とか引き戻そうと、ラバンは隣のセバスチャンに話しかけた。
「やれやれ、やはりタイタスのところへでも遊びに行くべきだったな」
「左様でございますな、ラバン様」
「おっと、ラバン兄様。僕をおいて逃げようとするのは禁止ですよ?」
そこへメビウスが入ってきた。
目的は同じなのだろう、真っ青な顔をしている。
「まったく、王族だからと盛大なパレードを開くのは不適切ですね。
金もかかるし、国民の支持率も下がりそうだし、いいことなしです」
「左様でございますな、メビウス様」
「有能なイエスマンなんて素晴らしいですね、セバスチャン。
どうです? 僕のトコで働いてみません?」
「引き抜きはやめてくれ、メビウス。これでも重宝してるんだ」
「左様でございますな、ラバン様」
「おや、それは残念。
なんなら、僕トコの教会貴族と交換でもよかったんですが」
「明らかに釣り合っていないだろう、メビウス」
「左様でございますな、ラバン様」
会話を続けながら、徐々に触手生物と距離を取る三人。
幸い、ローラ率いる混沌の化身はクラウスとトトスに夢中らしく、ちょっとくらい席を外しても気づかなさそうだ。
メビウスは、周囲の衛兵に聞かせるかのように、声を上げた。
「この後は――陛下からのお言葉に、聖女様のスピーチですか。
では、僕は、聖女様の相手で苦労しているであろう大司教様に声をかけてきます。
という訳で、退散しますね?」
「お待ちください、メビウス様。
私も護衛として同行いたします。これ以上このような劣悪な環境での業務となると、クラウス様をパワハラで訴えなければならなくなりますので」
「ああ、君はクラウス兄さまのトコの衛兵ですか。
素晴らしい判断です。 僕のトコで働いてみません?」
「大司教様の相手はちょっと……」
メビウスめ、うまく逃げたな。
きっと、教会勢力の中でもたくましく生きていくのだろう。
そう思ったラバン、便乗して一緒に出て行く。
「私たちも行こうか、セバスチャン」
「言い訳はどうなさいますか、ラバン様」
「おや、久々にまともにしゃべったね。
うん、そうだな、大司教様の相手で苦労しているであろう、アリス君の様子を見に行く、でいいだろう」
# # # #
「どうしようどうしよう!? ラティ! 私、緊張で頭の中からっぽだよ!」
「落ち着きなさい!
スピーチといっても、私が用意した原稿を読み上げるだけです!
だいたい! 頭からっぽなのはいつものことでしょう!」
「この不肖てぃびちゃんも! 筋肉で! 応援していますよ!」
「アナタはちょっと黙ってなさい!」
スピーチを前に慌てるアーティアとマッスルポーズなてぃびちゃん、叫ぶラティ。
もはや見慣れた光景に、アリスはむしろ落ち着いていた。
それはもう、目の前にいる教皇様と大司教様の相手もできるほどに。
「ええっと、聖女様はもう少し時間がかかりますから、先にご挨拶をお願いしてもよいでしょうか? スピーチには、間に合わせますので」
「もちろんだ。むしろ、若い世代に大役を押し付け、心苦しく思っている」
「ふん、やはり聖女への挨拶など、後日にすべきでしたな」
カリスマたっぷりに答える教皇様に、嫌味たっぷりに突っこむ大司教様。
アーティアとラティみたいだ。
きっと、この二人にも、似たような苦労があったのだろう。
「いえ、お気になさらず。ただ、聖女様は今、少し余裕がないようですので、後で、こちらからお伺いしますわ」
「そういってくれると助かる。私はそれまでアルゼウスへ挨拶にでも……」
「いや、それは止めておけ」
とりあえず気を使ってみるアリスだったが、途中で大司教が止めた。
大司教が顎でしゃくる方を見ると、どうやらクラウスがパレードから戻ってきたらしく、王と王子の会話が聞こえてきた。
「まさか本当に余の用意した政略結婚に親愛の情が伴うとはな。
それも二人と一匹も。
よかったというべきか、余計なことをしたというべきか」
「父上!? これから婚約のスピーチですから!」
「ああ、すまんスマン。
それにしても、伝統では、隣国の王族と婚約するのは悪役たる公爵令嬢と決まっているのだが、まさか我が王家がその役割を担うとは――」
「父上! ですから今は――!」
頭を抱えそうになるアリス。
そんなアリスに、大司教から声がかかった。
「君は予言者だろう?
このくらいで頭を抱えていては持たんぞ?
私も教皇にはいろいろと苦労させられたものだ」
「だ、大司教? 私も常々すまないと思っているのだが!?」
何か教皇が慌てているが、同類を見つけたかのような大司教の視線は消えない。
おかしい。学園に入学したときは、アーティア係を卒業して、学園生活を謳歌する予定だったのに。なぜ、偉い人に目をつけられているのだろう?
ああ、私にも、予言の書のアーティアみたいに、王子様が助けに来ないかしら?
そう思っていると、ノックが聞こえた。
どうやら、また誰か来たらしい。
フラネイルあたりが来たのなら、金だけ取り立てて追い返してやる。
あの手紙のこと、まだ忘れてないからね?
そんな思いを乗せながら、アリスは扉を開いた。
# # # #
「うお、寒気が!?」
「そら寒いよ。何せ、修道院に風穴開いてるんだからね」
路地裏の修道院。
修復作業を監視しに来たフラネイルは、急に襲ってきた寒気に身を震わせた。
老イザラからごく当たり前の事実を突きつけられたが、どうもそれだけではない気がする。
また何か起こるのか?
もう勘弁してくれ!
いやな予感に顔をしかめていると、シスター二人が駆け寄ってきた。
「商人のおにーさん、そんな変な顔してたらぁ、幸せが逃げてくよぉ?」
「そうそう、ここは前向きにいかないと! これから新しくなるんだって!」
「っ! お前ら!」
思わず、声を上げるフラネイル。
が、それを遮るように、マザー・マギアの声が響いた。
「リサ、ローザ! 領主様にご迷惑をかけてはいけませんよ!」
「はーい! じゃ、おにーさん、ゆっくりしていってね?」
「お土産、置いてってもいいよぉ?」
イタズラが成功した子どものように笑うと、駆けていくシスター二人。
老イザラの、それはもう楽しそうな視線が突き刺さる。
「おや、アンタにも縁ってものがあるんだね?」
「そんな立派なものじゃないですよ」
「縁が立派かどうかなんて、後にならないと分かんないもんさ。
少なくとも、あの二人はアンタを気にしてただろう?
なら、大切にすることさね」
「はあ、シスター、俺はもう帰りますよ。視察は十分済んだし」
見透かされたような気がしたフラネイル。
視察の打ち切りを告げる。
が、それを老イザラが引き止めた。
「まあ、待ちな。今度来るときは、お土産と――そうさね、シスター・イザベラのことでも聞かせてやるといい」
「イザベラって、この修道院でかくまっていたっていう……」
「さて? 私達は誰も匿ってなんていないさ。
でも、急にいなくなったんで、皆、心配してるのさ。
アンタなら、修道院のシスターが書いた手紙を届けるくらい、出来るだろう?」
やれやれ、さっきの寒気の原因はこれか。
フラネイルは苦笑で返して、修復中の修道院から出て、一緒に来ていた官吏へ声をかけた。
「おい、視察は終わりだ! 戻るぞ!
代わりに、調査を――」
# # # #
「ふう、今日はこのくらいかしら?」
「お疲れ様です、イザラ様!」
辺境伯領臨時キメラ生物研究所。
イザラは、薬品をいじっていた手を止めた。
声をかけてくれるのは、相変わらず護衛を務めてくれる女騎士。
差し出されるタオルを、ありがとう、と言って受け取る。
「研究は、順調ですか?」
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あの事件の後、この研究所に戻ったイザラは、解毒剤の改善を続けていた。
ナイアは逮捕されたとはいえ、まだ「神の種」の犠牲者は残っているのだ。
まだ、研究は続けなければならない。
「イザラ、手紙だ」
そこへ、タイタスが入ってきた。
すかさず、女騎士が突っこむ。
「タイタス様。仮にも女性のいる部屋にノックもしないとは何事ですか。
もう少しマナーというものを身に下さい」
「いや、ノックはしたのだがな」
「イザラ様は研究に夢中で、私は護衛に集中していましたからね、聞こえなかったのでしょう。そして、聞こえないノックに意味はありません」
「そう思って、タイミングを待ったのだが」
「それでは、タイミングを掴んだ時にノックをしてください」
「分かった、すまない」
面倒になったのか、イザラの方へ謝るタイタス。
イザラは苦笑しながら、手紙を受け取った。
「相変わらず仲がよろしいのですね?」
「そういうわけではないのだがな。
それで、その手紙は?
部下から至急、といわれたので、部屋ではなくこちらへ持ってきたのだが」
事件を警戒しているのだろう、タイタスは雰囲気を変えて、問いかけてきた。
少しの緊張とともに、手紙を開くイザラ。
しかし、すぐに、笑みを浮かべた。
「問題ありませんわ。少し前にお世話になった、修道院からです」
「そうか。それは――よかったな」
言葉は少ないが、優しくうなずくタイタス。
イザラはそのまま手紙を読み進め、
――おウ! 素晴らしイ! 新たなサンプルが届きましタ!
――おい! うかつに近寄るな! セインツ流忍術!
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部屋の外からの声で、すぐに手を止めた。
無言で部屋の外へ向かう女騎士。
数秒後に、戦闘音。
タイタスはため息をつくと、イザラへ問いかけた。
「修道院、視察にでも行ってみるか?」
「よろしいのですか?」
「ああ、休暇は必要だろう? それに」
そんな顔をされてはな。
静かに笑うタイタスに、
「では、一緒に行きませんか、タイタス様」
イザラも、小さく笑い返した。
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目覚めると、そこは処刑の二年前。 再び「仕事」を押し付けようとする厚顔無恥な家族に対し、エルゼは優雅に微笑んだ。
「ええ、承知いたしました。ただし、これからは**『代金』**をいただきますわ」
隠し金庫の鍵、領地の権利書、優秀な人材、そして莫大な隠し資産――。 エルゼは公爵家のすべてを自分名義に書き換え、着々と「もぬけの殻」にしていく。
そんな彼女の前に、隣国の冷徹な皇太子シオンが現れ、驚くべき提案を持ちかけてきて……?
「君のような恐ろしい女性を、独り占めしたくなった」
資産を奪い尽くして亡命した令嬢と、彼女を溺愛する皇太子。 一方、すべてを失った公爵家が泣きついてくるが、もう遅い。 あなたの家の金庫も、土地も、働く人間も――すべて私のものですから。
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