毒婦と呼ばれた令嬢は、謎と恋を嗅ぎ分ける

赤紫

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エピローグ:花は香りを遺し、風に舞う

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 初夏の風が、庭の草花を優しく揺らしていた。香草の鉢に水をやるクラリスは、額に汗を浮かべながら、そっと葉を撫でる。

「あ……香りが変わったわ。“醒香草”、ようやく根付いたのね」

 背後から、ルークがそっと歩み寄る。

「毒を嗅ぎ分ける令嬢が、今は香草を育ててるとはな」
「ふふ……毒も草も、“香り”の本質は同じよ。嗅ぐ者の心が、どう受け取るか」
 
 二人の会話は、どこまでも穏やかで、静かだった。王都の混乱は収束し、〈蛇の尾〉の残党も解体された。
 王宮から正式に依頼されることもなくなった今、クラリスは王都郊外の静かな屋敷で、自らの調合所を営んでいた。
  名刺に書かれた肩書きは――
 「解毒士」
 
「今度の旅は、もう“毒”のためじゃないわ。私たちのため。ね、ルーク?」
「当然だ。次の目的地は、香料市場だな。君の嗅覚を鍛え直すには、ちょうどいい」
「……ええ。もう少し、“香りの良い旅”がしたいもの」
 
 笑い合う二人の背に、風が吹く。
  過去の毒と涙を越えて、これから先は――
 自分たちの足で、自由に進むだけだ。
 
 毒を識る者として。
  人を愛する者として。
 
 そしてなにより、
 “共に生きる”者として。
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