宴会クローク、菱野でございます!

智月 千恵実

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第一章 曇った向上心

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 ー季節外れの寒気が入ってくるため、夕方以降は西日本を中心に気温の落差があり、急に寒く感じられそうです……

 家を出る前に流れていた天気予報の声が、舞香の頭の中で再生される。
 階段の下から吹き上がってくる外気が混じったそよ風も寒さを含んでいた。その寒さは、エレベーターの横にいる舞香の元にも届いていた。

 舞香はアテンドに徹していた。エレベーターが到着すると、ゲストに対してにこやかに優雅な手つきで会場を指し示して案内する。次のエレベーターが開くとさっと身をこなして、また同じようにする。

(アテンドしてる私、カッコいいな……)

 本当にカッコいいと思っているわけじゃないということくらい、自分が一番知っている。
 舞香は番号札を触ることが怖くなってしまったことを隠すために、そう思うことにしているだけだった。

 案の定コートを着てくるゲストが多い。
 カウンターが混み合ってきた頃に、支配人の西村が階段を上がってきた。西村はエレベーター横に立ち、舞香にカウンターに入るように目で合図する。

 カウンターの後ろ側には、あらかじめテーブルクロスを敷いた小角しょうかくが置かれている。小角とは細長いテーブルのことで、セミナーテーブルとも呼ばれる。
 そしてゲストから荷物とコートを預かり小角に置く人、それを裏のハンガーラックに運ぶ人と流れ作業のようにしっかりと役割を分担していた。
 舞香がカウンターに入ると、麗奈がこちらを振り返り小声で言った。

「舞香は『掛け』をお願い」

 「掛け」というのは預かったコート類をハンガーに掛けたり、荷物類の取っ手には紐付きの番号札を結んだりすることだ。
 一つのハンガーラックに掛け終わると、隣のハンガーラックに取り掛かる。その間にもカウンターからは預かり物が次々と運び込まれた。
 麗奈も茉紀も裏に来て「掛け」を始めたということは、INインが終わり宴会が始まったのだろう。

 「掛け」が終わった舞香は、「前からチェックしまーす」という声と共にチェックを始めた。すると奥から「後ろからチェックしまーす」という声が聞こえた。
 番号札と同じ番号のハンガーにしっかりコート類がかかっているか、番号不明の荷物がハンガーラックに残っていないかなどを確認していく。
 女性のほうが多い宴会ということもあり、コーディネート展示会のような状態になっていた。

(次買うときはこの色のコートにしよう。あ、このコートの色とこの色のマフラーの組み合わせ、とってもおしゃれだな……)

 そんなことを思いながら、舞香はチェックを進めていた。中でもひときわ目を引いたのは、オフホワイトのコートにパステルブルーのマフラーだった。
 チェックが終わると、舞香は真剣な眼差しですべてのハンガーラックを見て回った。点数を数えるという名目で、ほかにもおしゃれな組み合わせはないかと探していた。

(これだ……!)

 その瞬間に舞香の頭の奥でフラッシュが焚かれたかのように一つの答えが降りてきた。
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