宴会クローク、菱野でございます!

智月 千恵実

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第二章 空虚な人格者

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 十一月に入っても、麗奈のインチャージ用デスクに置かれたカレンダーは十月のままだった。
 麗奈はここ数日、体調が芳しくないという理由で休んでいる。

 舞香は、クローク係のリストを私物ロッカーの前のホワイトボードに貼り出した。
 「休み希望は10日まで受付中」と赤字で大きく書いておいた用紙には、続々と斜線が増えていく。

(麗奈は何か予感があってシフト作りを教えたのかな……)

 麗奈の体調不良とシフト作り。あまりにもタイミングが合いすぎている。
 まるで麗奈は自分が体調を崩すのが分かっていたかのようだ。舞香は、浮かんできたそんな考えを急いで振り払うと小さく身震いした。

 麗奈は数日どころか数週間経っても回復する様子はなく、原因不明と診断されたようで今だに休みを取ったままだ。

(あの強い香りは、このことだった? 私の失敗の予兆じゃなくて、何か良くないことが起こるってこと?)

 少し前に、クローク裏にかかってきた電話で麗奈と話したばかりだ。

「熱があって倦怠感もあって風邪みたいなんだけど……。ずいぶん昔のことなんだけど……バリ島行ったときに湖があって、すごく濁って汚かったんだけど、友達と泳いじゃおうって、湖で泳いだんだよ、でその後、調子悪くなって……髄膜炎になっちゃって……なんか、そのときの症状と似てるんだよ」

 麗奈の弱々しい声に、舞香は「クロークは大丈夫だから、ゆっくり休んで」と言うのが精一杯だった。

 舞香にはいつのまにか、自分が麗奈に変わってクロークを支えているという自覚が備わっていた。麗奈が不在という困難な状況がそうさせているのかもしれない。
 舞香は自分の中にある空っぽの容器が澄んだ水で満たされていくような感覚に浸った。それは貸していたものが返ってくるような不思議な感覚。

 その感覚とともに、舞香の脳裏には、十二月の複雑な宴席スケジュールと、書き込まれた休み希望の斜線、クローク係の仕事レベルに合わせた出勤メンバーの編成が、三次元的な配置図のようにクリアに組み上がった。

「……舞香はスキル『仲間を導く知恵』を手に入れました、正しい判断を下す力を発動できるようになりましたっと……」

 舞香はRPGの画面に表示される文字に倣って、ぶつぶつと唱えるように呟いた。午前中は宴会がない日ということもあり、クロークの空間はしんと静まり返っている。シフトはほぼ完成していた。

 舞香は最終確認するために、十二月のオーダーシートの束に手を伸ばす。たった一日で完璧に作り上げることに満足していた。
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