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第二章 空虚な人格者
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「出勤時間はね、INの時間だけ見るんじゃなくて、ランチの時間も考えないと、ここ、14時INだから十三時半の出勤でもいいんだけど……私なら、十三時にして先ランチにするかなあ」
麗奈がひとりごとのように呟く。
クロークは会議や宴会の時間に合わせてのシフトなので、毎日出勤時間が変わる。合わせて、従業員食堂のランチタイムとディナータイムの時間も組み込まなければならない。
普段は作られているシフトに沿って動いているだけなので、一連の流れもしっかり身についていると舞香は思っていた。それを実際に作る側に回ると、見えなくなるものもある。
舞香が作ったものが明らかにずれているときには、麗奈は遠慮がちに口を開き「私だったら、こうする」というような言葉を添える。それに対して舞香は「ああ、そうですね」というような相槌を交えながら、作り変えていく。
クロークの仕事は段階があり、最初に覚えるのは荷物やコートの預かりやアテンドといった基本中の基本。
それができるようになると、宴会や会議で使う備品の処理や後日引き取りに来る個人用の荷物の処理、宴会の後に出る宅配便のやり方など荷物に関わること全般を覚えるのは中級レベル。
そこまで行くとあとは、結婚披露宴の祝電処理やゲストと直接やり取りする電話対応で、それは上級レベルとなる。
そして今舞香が覚えているのは、さらにその上のインチャージの仕事だ。
二週間経った頃には、舞香はシフト作りに慣れてきた。麗奈も口を挟まなくなってきた。
「ちょうど今、月末だから、ついでに月のシフトも覚えちゃおう」
十二月のシフトは舞香が作ることになった。毎日のシフトはその日の出勤メンバーを時間に当てはめていくだけだが、月のシフトはメンバーの休みの日を設定しなければならないので、責任重大だ。
あの香水の悪い予兆のような強い香りが気になりびくびくしていた舞香は、むしろ順調すぎて拍子抜けしていた。
(何か失敗するときに強く香ると思っていたけど、違うのかな……もしかして、この後? 月のシフト作りで失敗するってこと……?)
不安な気持ちを抱えながらも舞香の表情は水を得た魚のように生き生きとしていた。それに対して麗奈は、日に日に物思いに沈んだような眠気を帯びた目つきに変わっていった。
舞香はプリントアウトしてきたばかりの十二月分のオーダーシートの束をデスクに置いた。それはいつか博物館で見た古代エジプトのパピルスの束を思い起こさせるものだった。
舞香は十二月のシフトを作るための準備に取り掛かった。その手つきは、まるで神殿で聖なる香油を調合する儀式のように、真剣で厳かなものだった。
麗奈がひとりごとのように呟く。
クロークは会議や宴会の時間に合わせてのシフトなので、毎日出勤時間が変わる。合わせて、従業員食堂のランチタイムとディナータイムの時間も組み込まなければならない。
普段は作られているシフトに沿って動いているだけなので、一連の流れもしっかり身についていると舞香は思っていた。それを実際に作る側に回ると、見えなくなるものもある。
舞香が作ったものが明らかにずれているときには、麗奈は遠慮がちに口を開き「私だったら、こうする」というような言葉を添える。それに対して舞香は「ああ、そうですね」というような相槌を交えながら、作り変えていく。
クロークの仕事は段階があり、最初に覚えるのは荷物やコートの預かりやアテンドといった基本中の基本。
それができるようになると、宴会や会議で使う備品の処理や後日引き取りに来る個人用の荷物の処理、宴会の後に出る宅配便のやり方など荷物に関わること全般を覚えるのは中級レベル。
そこまで行くとあとは、結婚披露宴の祝電処理やゲストと直接やり取りする電話対応で、それは上級レベルとなる。
そして今舞香が覚えているのは、さらにその上のインチャージの仕事だ。
二週間経った頃には、舞香はシフト作りに慣れてきた。麗奈も口を挟まなくなってきた。
「ちょうど今、月末だから、ついでに月のシフトも覚えちゃおう」
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あの香水の悪い予兆のような強い香りが気になりびくびくしていた舞香は、むしろ順調すぎて拍子抜けしていた。
(何か失敗するときに強く香ると思っていたけど、違うのかな……もしかして、この後? 月のシフト作りで失敗するってこと……?)
不安な気持ちを抱えながらも舞香の表情は水を得た魚のように生き生きとしていた。それに対して麗奈は、日に日に物思いに沈んだような眠気を帯びた目つきに変わっていった。
舞香はプリントアウトしてきたばかりの十二月分のオーダーシートの束をデスクに置いた。それはいつか博物館で見た古代エジプトのパピルスの束を思い起こさせるものだった。
舞香は十二月のシフトを作るための準備に取り掛かった。その手つきは、まるで神殿で聖なる香油を調合する儀式のように、真剣で厳かなものだった。
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