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あぁ、来てしまった
しおりを挟む「あぁ、来てしまった」
きらびやかな装飾の王宮。なんて豪華な造りだと、あんぐりして周りを見渡した。
来たくはなかったけど、ここまで来たら逃げられない。
「シャル、どうしたの?」
私の顔が強張っていたのか、お母様が心配して話しかけてきた。両親は、私とクロヴィスがデビューすることを楽しみしていた。そんなお母様に心配させたくなくて、私は無理やり笑った。
「友達できるかなって不安になっただけです」
「できるわよ。さぁ、2人とも行ってらっしゃい」
「はい、行ってきます」
「行って参ります」
お母様に背中を押され、同世代の子達がいる会場の中心へ向かった。
公爵息子と令嬢なだけあって、あっという間に周りには挨拶をしようとする子達に囲まれた。クロヴィスは私の半歩前に立って相手をしてくれている。私はただ微笑んでいるだけていいので、クロヴィスに感謝だ。
そうしているとランベール殿下が入城するアナウンスがされると、素敵な演奏とともにランベール殿下が入ってきた。
殿下の隣には、ヘーゼルナッツの髪と瞳の色の少女がいる。名前はリリアン・クラルティ様、公爵令嬢。殿下の従兄弟にあたる方で、殿下の婚約者候補に最有力といわれている。
殿下の隣を歩く少女は、頬を赤らめて殿下に恋をしている顔。私がなるはずだった悪役令嬢役に、もしかすると彼女が成り代わるかもしれない。
…私が断罪されたくないからと、リリアン様を身代わりにしてしまったような罪悪感に胸が痛んだ。
ファーストダンスは皇族が踊る決まりがある。殿下とリリアン様を中心に人が集まって2人に注目している。
中心から少し離れ、人集りの少ないところからダンスを見ていると、クロヴィスが心配そうに顔を覗き込んできた。
「本当ならば、あそこにいたのは姉さんです。お辛いですか?」
「いいえ、全く。記憶がないから何も感じていないわ」
私があっけらかんと言うと、クロヴィスは私の手を力強く握った。それ以上は追求しないで側にいてくれることに、居心地のよさを感じた。
「あ、ごめん…」
「大丈夫ですよ、焦らないでください」
「あっ、また…」
「痛くないので平気です」
ヒールで足を踏みつけているから、絶対痛いに決まってるにクロヴィスは平気なふりをしてくれる。
この日のためにダンスの猛練習をしたけど、間に合わなかった…。クロヴィスがリードしてくれるので、私はほぼ何もしなくていいのにも関わらず足を踏んだり、よろけてしまう。恥ずかしすぎて顔は真っ赤になっているだろう…
クロヴィスとダンスを終えて、誘ってくれた男の子と踊る。私に踏みつけられて目に涙を溜めているのに、大丈夫だという痛々しい姿を見て申し訳なく思った。
2.3回踊り、私はダンスの輪から外れた。
…ペアになった子、みんな泣きそうになっていた
これ以上被害を出さないために踊るのはやめた
空腹を満たすため食事をしていると、クロヴィスもやってきた。美しい笑顔で“相手にするのが面倒になったので”と言うクロヴィスは本当に6歳なの?
「お前なんかがここに来ていいと思ってるのかよ」
急に近寄ってきた小太りの男の子が、挨拶もなしにクロヴィスにつっかかってきた。誰か知らないけど、公爵家より階級が低いのは明確。
不快なあまり文句を言ってやろうと前にでると、クロヴィスに止められてしまった。
「お久しぶりです、兄さん」
…兄さん?
クロヴィスと小太りの男の子を交互に見比べても、信じられなかった。天と地ほどの差がある容姿…どう見ても兄弟には見えなかった。
「お前に兄さんと言われる筋合いはない!俺が公爵家にいく予定だったのに、お前のせいで…今からでもいい、俺と代われば許してやる」
「それはできません」
「お前、平民の子のくせに調子にのるなよ!」
…はぁ?
苛立ちのあまり小デブを睨みつけると、何を勘違いしたのか小デブがペラペラと話かけてきた。
「こいつの母親は平民なんです。母親に似て媚を売るのが得意なんですよ。しかし、私は高潔な血筋です。シャルロット様、どうか賢明な判断を」
…貴族思想の強い、私の嫌いなタイプの人だ
クロヴィスは強く拳を握りしめて、怒りを耐えている。パーティの場で揉めるのはよくないと、母親をバカにされても耐えようとしている。
その姿を見てしまったからには、黙ってはいられなかった。
「あなたの家の階級は?」
「侯爵でございます」
「そう、侯爵家はろくにマナーの教育をしていないのかしら?」
「…はい?」
「階級の下の者が、上の者に話しかけるのはマナー違反ですよ?ご存知ないのですか?」
悪役顔の私が睨みつけると、威圧感に萎縮した小デブが怯えたように後退りする。
「クロヴィスは公爵家の一員です。クロヴィスに対してそのような無礼な態度は許しません、謝りなさい」
「いや…その…こいつは平民の子で…」
「まだ無礼を働く気ですか。このことは侯爵家に抗議させていただきます」
「ま、待ってください!」
「謝るチャンスは差し上げました。あなたが視界に入ると不快なので、私達の前に二度と現れないでください」
後ろで謝罪する声が聞こえてきたけど、私はクロヴィスの手を引いて振り返らなかった。あれでもパーティだから怒鳴りつけたいのを我慢したんだ。
何も言わないで俯き、私についてくるクロヴィス。…クロヴィスが我慢していたのに、余計なことをしてしまったかな。人気のない場所に移動して私が謝ると、クロヴィスは俯いていた顔を上げて首を振った。
「嬉しかったです、公爵家の一員と言っていただいて。でも、母が平民だったのは事実で…」
「母親が平民だからなに?クロヴィスはクロヴィスじゃない。クロヴィスは実力で公爵家に来たのよ、もっと自信を持ちなさい!」
大きく見開いた目には溢れそうなほど涙が溜まっている。綺麗な涙だ。
ハンカチで溢れてしまいそうな涙を拭こうとすると、その手を引かれ私はクロヴィスの腕の中に収まった。
耳元でクロヴィスの鼻をすする音が聞こえ、私は落ち着かせるように背中を撫でつつ、人からクロヴィスが見えなように壁の役目をした。
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