俺が魔法使いかよ!

清笑 句呂人 

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サイトウの苦悩

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一匹狼サイトウ。
ここら一帯で不良をするなら知らない奴はいない男の名前。

そんなサイトウだが、好きで不良をしているのではなく口数が少ないことで誤解から喧嘩を売られてしまい、身体も大きい為に勝ち続けこんな生活になってしまっていた。

ボロボロの身体で家に向かう途中、女の子が古い自販機の前で泣いているのが目に入った。
周りに大人はいない。

幼少期の頃自分が泣いてても大人は助けてくれなかった。と気まぐれで思い出し当時の大人への当てつけのように女の子に声をかけた。

「どした?大丈夫か?」
だがこれが精一杯の声かけ。
泣き続ける女の子に1度声をかけた手前「ここで引いたら無視されて負けた気がする」と思ったかは分からないが
腰を落とし同じ目線になり
「どーしたよ?なにが悲しい?」
まだツッパリ感が残るが子供も声をかけられたことで落ち着いて来たようで
「下に入っちゃった…」と自販機の下を指差し見つめてきた。

どれ?と覗いてみると犬のキーホルダーがチラリと見えた。
どうやら鍵を持ってキーホルダーを振り回してたようだ。

よく入ったなと感心するほどの隙間で、腕では全く届かない。
手頃な長い物がある訳でもなく座り込み考えてみたが答えはシンプルに1つ。
「自販機持ち上げるからその間に取っちゃえよ」

女の子はポカーンとし
「持ち上がるの?」
と当たり前の質問をできるぐらいには落ち着いたようだ。

ま、やるしか無いわな。とサイトウは思っており自販機に手を掛けた。
むんっ。と力を入れ、イケると確信。
ガガガガガ…
と徐々に傾いていく自販機。

「取れたー!」
女の子が喜んではしゃいでいる。
サイトウも手を離し落ち着いてきたので「
良かったな」と一言。
その時
「優子!!」
買い物袋を積んだ自転車に乗った母親らしき女性が女の子を呼んだようだ。

優子ってのか…。などと考えていると、
なにやってるの。早くきなさい。知らない人とダメでしょ。
などと囃し立てるように怒っている。

女の子が「キーホルダー…」と説明しようにも聞くに聞かない母親。
さすがに見かねて説明しようと立ち上がると、母親は驚いたように謝りだした。

「あぁ、いつものだ…」とサイトウは思う。
容姿で判断され結果は全てマイナスとなってしまう。

母親はそそくさと女の子を乗せ「また買ってあげるからそんな汚れたの捨てちゃいな」とキーホルダーを横のゴミ箱に入れた。
女の子は悲しそうに振り向いて手を振っていた。

サイトウはゴミ箱からキーホルダーを取り出して汚れた犬の顔を拭いてからポケットに入れた。


帰宅してベッドで横になりキーホルダーを見つめ「このままじゃダメだろ…」と呟く。
好きで大きくなった訳でもない、強くなった訳でもない。自分が変わったのではなく周りの見る目が変わったのが辛い。

全ての人を好きになり優しくするという綺麗事ではなく、手の届く範囲で自分と触れ合える人を大切にしたいと揺らいでいた。

「あん?」
キーホルダーの身体の部分が気になった。
なにやらボタンがついてるようだ。
何気なく押してみると、ピョンと犬の頭にトンガリ帽子が出てきた。

「今のキーホルダーはこんな機能もあるんだな」と感心する。
トンガリ帽子は青に星柄という魔法使いのようなデザインだった。

鼻で笑いながら「魔法使いだったら悩まないだろうな」と呟く。
そして女の子の帰り際の顔が頭をよぎり、どうすれば良かったんだ、何が正解だったんだと悩む。

サイトウの心の中は「このキーホルダーを渡してあげたい」の1つに絞られていく。
その裏で帽子のデザインが強く印象に残り「魔法使い」というワードが頭から離れなかった。

「魔法を使えばヒューンっと届けてくれるってか」と呆れながら話す。

一度考えた空想話は止まらなくなることが多いのは皆同じなのでしょう。

「そしたらキーホルダーも綺麗になって」
「ついでに自販機も綺麗にして」
「俺も小さくなって優しい人間に…」
と言いかけて止まった。
その目には涙が溜まっていた。

「変わりたいんだ…魔法使いにでもしてくれよ。」









「ホントに!?」
いきなり、窓枠に座って話しかけてきた1人の男。
コートを羽織り、ホウキの形に似たガチャガチャしたものを持っている。

そして帽子はない。
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