僕の患者に迫られています 年下バスケ選手のファストブレイク(速攻)

羽多奈緒

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「樹生さんに対する不満だと思わないでくださいね。……俺、今、めちゃくちゃ不安っス。ホントに怪我する前みたいなプレイがもう一度できるようになるのかって。幾ら周りの筋肉鍛えても、移植腱の回復スピードは早くならないし、負荷掛け過ぎたら、せっかくの腱を傷めちゃうのも分かってるんですけど……。樹生さんは、俺の気持ち分かってるから『術後何か月目だと、腱の回復度は何割』とか色んな論文で調べてくれて、経過悪くないよって安心させてくれますよね。
 ……だけど、今は前みたいに身体が動かないから怖い。このまま元に戻らなかったらどうしようって、夜中に目が覚めるんです」
「なんで、もっと早く言わないんだ! 何のためにPTがいると思ってる⁉ リハビリの効果が頭打ちになって気持ちが弱った時も、二人三脚で歩み続ける。そのために僕たちがいるんだ。復帰までは時間が掛かるし、結果が見えづらいから孤独だよね……。特にトップレベルの競技選手ほど不安になるのは当然だよ。
 ……ごめん。自分の力不足に腹が立って、声が大きくなった。岡田さんには責任ないからね」
 若干食い気味に樹生は声を荒らげたが、すぐに自分自身に対する憤りより、患者である翔琉への思いやりを慮った優しい口調に戻る。
「そっか。俺の不安って『あるある』なんスね。樹生さんたちは対処した経験もあるし、やり方も知ってるんだ」
「なんでもっと早く言わないのかなぁ……。今日だって、昼に会ってたのにさぁ」
 ブツブツ小声で呟き続ける樹生に、翔琉は少し気が楽になったのか、葛藤に満ちた内面を吐露するかのように苦しげな声で言い募った。
「だって……。こんな情けないこと、樹生さんに面と向かっては言えないっスよ」
「情けなくなんかない。初めて行く道を不安に思わないのは、真剣に目的地を目指す気がない奴か、ただのバカだ」
 静かに言い切ると、翔琉がふっと笑った。
「すげぇ。樹生さん、かっこいい。戦う男って感じ。……俺、樹生さんがトレーナーで良かった。これから不安な時は遠慮なく相談します」
「多少は遠慮しろ」
「はぁーい。ところで樹生さん、今、どこで電話してます?」
「どこって、リビングだけど」
「窓の外、見てください。今夜の月、すごい綺麗ですよ。十六夜いざよいの月です」
「ホントだ。『いざよい』って?」
「満月の次の日です。満月より、月が出てくるタイミングが遅いから、月がためらってるようだって」
「へぇ。意外と風流だね、岡田選手」
「ちょ、俺のこと、脳筋だってバカにしてません?」
「バレた?」
「ひでぇなー」
 いつものように軽口で笑い合いながらも、競技に復帰できるか不安と共に孤独な戦いを続ける翔琉。自分は、彼の良き伴走者であろう。樹生は改めて心に誓った。
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