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12. 紛らわしい距離感
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「……そんなに僕を引き止めたいのか? 彼女より大事だ? じゃあ、今すぐ彼女と別れろよ。それができたら許してやるよ」
こんなことをしても、彼が樹生のものになることは決してない。樹生だって分かっている。翔琉や彼女を傷付けるだけだ。何の役にも立たない、ただの意地悪をする嫌な奴に成り下がっている自分は、ますます翔琉に相応しくない。血が噴き出た胸をわざわざ自分で抉るかのような言葉を、もはや樹生は止められない。背後で翔琉が一瞬息を呑んだのが聞こえた。するっと腕を解き、殆ど表情も変えずポケットからスマホを取り出し、翔琉は電話をかけ始めた。
「ちょ、ちょっと! やめろよ!!」
慌てて彼の手からスマホを取り上げ、通話終了ボタンをタップする。翔琉の表情を窺うと、怖いくらい真剣な面持ちだ。瞳が光って見えるのは、薄っすら涙を浮かべているからだろうか。なぜ、自分の一言で恋人と別れようとしたのか。樹生を恨んでいるのではないか。だが、彼がどんな感情を抱いているのか、試合中のような無表情からは窺えない。
「これで分かってもらえました? 俺がどれだけ樹生さんを大事に思ってて、さっきの態度をものすごく反省してるってこと」
その訴えるような声と眼差しからは、ひたすら赦しを乞う反省の念と、大切な人を失いそうになった彼の焦りが伝わってきた。
「試すようなことを言ったのは、僕が悪かった。それと、こんなに感情的になったのは恥ずかしいから、できれば今日のことは忘れて欲しい」
「……じゃあ、許してくれます? 俺のこと」
無理やり涙を拭ったせいで赤く腫れた瞼を見られるのはバツが悪く、ムスッとした表情で樹生は頷いた。仏頂面ではあるものの、樹生の許しを得た翔琉は、大きく息をつき肩を撫で下ろした。
「はぁあああ…………。樹生さんに見捨てられたら、どうしようかと思った……。
あの。本当にごめんなさい。『スポーツ得意な友達が羨ましかった』って聞きましたけど、樹生さんが理学療法士になった理由にも深く結びついてたなんて、俺、鈍いから気づかなくて。さっきの暴言は、樹生さんに対する俺の甘えです。怪我への不安とか焦りとか、誰にも言えないから……。樹生さんは、自分のことを傷付けないでください」
彼は再び樹生を抱き締める。今度は向かい合わせで、切羽詰まった調子ではなく、柔らかくて頼りない子犬を優しく抱っこするようにふんわりと。恋愛ではないかもしれないが、確かに感じられる親愛の情が気恥ずかしく、樹生は照れ隠しに彼の胸を拳で叩いた。
「何だよ、これ」
「え? ごめんねのハグ」
彼は自分の頬を樹生の頭に擦り付けてくる。ペットか子どもを可愛がるかのような仕草に、樹生の鼓動は速くなる。
「……おかしいだろ。男同士なのに」
「良いじゃないスか。男同士でも、ハグくらいするでしょ? 別にちゅーしたわけじゃないんだし」
「アスリートって、距離感バグってるよ。絶対」
「樹生さんもアスリートの仕事仲間だから、慣れましょうよ。何だったら、ちゅーもしときましょうか?」
「断る!」
「ブフッ。返事早っ」
笑い出した翔琉の胸は揺れている。耳元に彼の優しい声や温かい吐息を感じ、どきどきする。胸の高鳴りが伝わったら恥ずかしいから、腕から抜け出したいけれど、泣いた跡が残る顔を見られるのも恥ずかしい。翔琉が樹生を離さないのを良いことに、樹生は彼の胸に顔を埋めた。
こんなことをしても、彼が樹生のものになることは決してない。樹生だって分かっている。翔琉や彼女を傷付けるだけだ。何の役にも立たない、ただの意地悪をする嫌な奴に成り下がっている自分は、ますます翔琉に相応しくない。血が噴き出た胸をわざわざ自分で抉るかのような言葉を、もはや樹生は止められない。背後で翔琉が一瞬息を呑んだのが聞こえた。するっと腕を解き、殆ど表情も変えずポケットからスマホを取り出し、翔琉は電話をかけ始めた。
「ちょ、ちょっと! やめろよ!!」
慌てて彼の手からスマホを取り上げ、通話終了ボタンをタップする。翔琉の表情を窺うと、怖いくらい真剣な面持ちだ。瞳が光って見えるのは、薄っすら涙を浮かべているからだろうか。なぜ、自分の一言で恋人と別れようとしたのか。樹生を恨んでいるのではないか。だが、彼がどんな感情を抱いているのか、試合中のような無表情からは窺えない。
「これで分かってもらえました? 俺がどれだけ樹生さんを大事に思ってて、さっきの態度をものすごく反省してるってこと」
その訴えるような声と眼差しからは、ひたすら赦しを乞う反省の念と、大切な人を失いそうになった彼の焦りが伝わってきた。
「試すようなことを言ったのは、僕が悪かった。それと、こんなに感情的になったのは恥ずかしいから、できれば今日のことは忘れて欲しい」
「……じゃあ、許してくれます? 俺のこと」
無理やり涙を拭ったせいで赤く腫れた瞼を見られるのはバツが悪く、ムスッとした表情で樹生は頷いた。仏頂面ではあるものの、樹生の許しを得た翔琉は、大きく息をつき肩を撫で下ろした。
「はぁあああ…………。樹生さんに見捨てられたら、どうしようかと思った……。
あの。本当にごめんなさい。『スポーツ得意な友達が羨ましかった』って聞きましたけど、樹生さんが理学療法士になった理由にも深く結びついてたなんて、俺、鈍いから気づかなくて。さっきの暴言は、樹生さんに対する俺の甘えです。怪我への不安とか焦りとか、誰にも言えないから……。樹生さんは、自分のことを傷付けないでください」
彼は再び樹生を抱き締める。今度は向かい合わせで、切羽詰まった調子ではなく、柔らかくて頼りない子犬を優しく抱っこするようにふんわりと。恋愛ではないかもしれないが、確かに感じられる親愛の情が気恥ずかしく、樹生は照れ隠しに彼の胸を拳で叩いた。
「何だよ、これ」
「え? ごめんねのハグ」
彼は自分の頬を樹生の頭に擦り付けてくる。ペットか子どもを可愛がるかのような仕草に、樹生の鼓動は速くなる。
「……おかしいだろ。男同士なのに」
「良いじゃないスか。男同士でも、ハグくらいするでしょ? 別にちゅーしたわけじゃないんだし」
「アスリートって、距離感バグってるよ。絶対」
「樹生さんもアスリートの仕事仲間だから、慣れましょうよ。何だったら、ちゅーもしときましょうか?」
「断る!」
「ブフッ。返事早っ」
笑い出した翔琉の胸は揺れている。耳元に彼の優しい声や温かい吐息を感じ、どきどきする。胸の高鳴りが伝わったら恥ずかしいから、腕から抜け出したいけれど、泣いた跡が残る顔を見られるのも恥ずかしい。翔琉が樹生を離さないのを良いことに、樹生は彼の胸に顔を埋めた。
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