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20. 決着
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樹生が自分自身の内面と向き合った時、ボールを持つ三芳と翔琉が一対一になった。一瞬、翔琉の視線が樹生のいるコートサイドに動く。三芳も意味のない動きだと頭では理解していただろうが、本能的に翔琉の視線を追った。手許から意識が離れた一瞬の隙をついて、翔琉は三芳のボールを奪い、スリーポイントラインで足を揃えてシュートを放った。
(……入れ‼)
思わず息を詰め、両手を握りしめた。
美しい放物線を描くボールがフープに届くまで、スローモーションのように感じた。視界の隅で、三芳が既に悔しそうに俯いている。
かつて付き合っていた時、彼は言っていた。
「シュートが入ったかどうかは、打った瞬間に分かる。自分のだけでなく人のも」と。
翔琉の放ったボールが鋭くフープを突き刺すと同時に、試合終了のブザーが鳴り響く。サンダーズ、一点差の逆転勝利だ。劇的な幕切れに樹生が呆然と立ち尽くす横で、スコア係を務める控え選手が内緒話をしている。
「翔琉と三芳の個人スコアはどうよ?」
「んー。翔琉のが二点足りねえなぁ」
ハッと樹生が振り向くと、彼らは頬を赤らめて目を逸らし口をつぐんだ。続々とベンチに引き上げてくる選手たちも三芳と翔琉の個人得点を尋ね、一様に落胆した。
「すまん、翔琉」
「何言ってんだ。俺たち勝ったんだぜ?」
申し訳なさそうなチームメイトの肩を抱き、翔琉はみんなを慰めている。
数秒間、翔琉と視線が合った。彼は小さく肩を竦めた。微笑もうとしたようだが、口元が悔しそうに歪んでいる。コーチから呼び止められ、彼は樹生に背中を向けた。
会場の裏口から翔琉が現れた時、彼の表情は暗く、足どりは重かった。ふと顔を上げ、そこに樹生が待っていたことに気付くと、彼は軽く目を見張った。
「お疲れ様。良い試合だったよ。最後のスリーポイントも。見事なブザービーターだった」
「あざっす。……けど偉そうに、三芳さんより得点する宣言しましたけど、ダメでした」
ねぎらいながら渡したダイエットコーラは翔琉の好物だ。受け取りながら、彼は素直に悔しさをあらわにした。
「そうだね。ところで、覚えてる? 『付き合うかどうか決めるのは僕だ』って言ったの。
……僕も翔琉が好きだよ。戦ってる翔琉、すごく格好良かった。僕のために勝つって言ってくれて、嬉しかった」
穴が開くのではないかと思うほど、翔琉はまじまじと樹生を見ている。
(何だよ、この沈黙。恥ずかしいから、早くなんか言えよ)
頰を赤らめ、上目遣いに軽く翔琉を睨む。背後から他の選手たちがワイワイと喋りながら近付いてくるのに気づいた翔琉は、自分たちの置かれた状況を思い出したようだ。彼は軽く樹生の背を押す。体育館と、その隣にある倉庫だろうか、小ぶりな建物との隙間に誘導された。彼に触れられる予感で、樹生は小さく身震いする。翔琉は俯く樹生の頬を両手で包み、持ち上げる。
「……ヤバい。嬉しすぎて」
少し掠れて上擦った声が、翔琉の興奮を物語る。彼は、じっと樹生の瞳を覗き込む。恥じらいと期待を見て取ったか、優しく微笑みかけると、ゆっくり樹生に口付けた。そっと互いの唇の感触を確かめるだけで、深くはならない。
初めての時より親しみがこもっていて、
二回目よりも落ち着いている。
互いに心の柔らかい場所までもさらけ出せる。自分が大切にしている心の一部分を受け取ってほしいくらい信頼でき、愛おしい人だ。そして相手の心も受け取りたい。そんな互いの気持ちが反映された素朴なキスだった。まるで技巧的ではない。でも、心を優しく満たしてくれる。唇を離し、照れ臭そうに微笑みを交わすと、翔琉は抑えた声で囁いた。
「……これから樹生さんち行って良い?」
樹生はコクリと首を縦に振った。
その数十分後。『身体を寄せ合って軽くイチャイチャするくらいだろう』と思っていた自分が甘かったことを樹生は思い知らされる。
玄関のドアが閉まった途端、野に放たれた猟犬が獲物を仕留めるかのごとく、彼は強く樹生を抱き寄せ、荒い呼吸を隠しもせず忙しなく口付ける。それどころか、躊躇なく樹生の身体をまさぐり始めるではないか。
「ちょ、さっきまで、くたびれきってたのに!」
翔琉の手を懸命に退け、顔を背けて彼の貪欲な唇から逃れようとする。
「あのくらいの運動量、おやつみたいなモンすよ。俺、こっから丼飯三杯イケますよ」
事もなげに言い放つ翔琉の中心は猛っている。背中に張り付かれたことで分かった。その旺盛な体力に一抹の不安を覚えつつ、樹生は腹を括った。『受け入れてくれた』と理解した翔琉は、再び服の下に手を潜り込ませる。
「そんなにがっつくなよ……。待って」
「もう待てない」
「シャワー浴びさせて」
「俺、気にしないよ? 樹生さん、すごい良い匂いだし」
「最後までするなら、準備が必要なんだよ!」
「えっ! しても良いの?」
「だって、丼飯三杯イケるんでしょ?」
呆れたように聞くと、翔琉はコクコクと頷き、樹生の顔や首筋のあちこちに口付ける。時折、舐めてすらいる。ちぎれんばかりに振られる尻尾が見えないのが不思議なくらいだ。
(犬かよっ!)
「もちろん気持ち確かめ合ったから、身体も全部欲しいよ。今すぐにでも。でも、樹生さんの気持ちを一番大事にしたい。だから、最後までするかどうかには拘ってない」
言い訳をするように軽く口を尖らせているが、表情や口調は甘えるようだ。彼女が途切れたことがないとサラッと言うほどモテる翔琉だ、女性経験はそれなりにあるだろう。しかし自分の身体には、女性のようなまろやかな曲線も柔らかな肉付きもない。内側から自然に潤って男を受け入れる場所も。樹生が男の身体を持っていることは、着替え中に見たりハグしたりで、彼も頭では理解しているだろうが、いざという時に萎えてしまわないか。樹生は少し不安だった。
「そこで待ってて。あ、ベッドに行ってくれても良いよ」
内心の不安を隠すかのような冷静な声で、立てた掌を見せる仕草で翔琉を制止する。
(これじゃ、まるで『待て』みたいだな)
一人苦笑し、脱衣所で服を脱ぎ始める。ふと鏡を見ると、後ろに全裸の翔琉が立っているではないか。
(……入れ‼)
思わず息を詰め、両手を握りしめた。
美しい放物線を描くボールがフープに届くまで、スローモーションのように感じた。視界の隅で、三芳が既に悔しそうに俯いている。
かつて付き合っていた時、彼は言っていた。
「シュートが入ったかどうかは、打った瞬間に分かる。自分のだけでなく人のも」と。
翔琉の放ったボールが鋭くフープを突き刺すと同時に、試合終了のブザーが鳴り響く。サンダーズ、一点差の逆転勝利だ。劇的な幕切れに樹生が呆然と立ち尽くす横で、スコア係を務める控え選手が内緒話をしている。
「翔琉と三芳の個人スコアはどうよ?」
「んー。翔琉のが二点足りねえなぁ」
ハッと樹生が振り向くと、彼らは頬を赤らめて目を逸らし口をつぐんだ。続々とベンチに引き上げてくる選手たちも三芳と翔琉の個人得点を尋ね、一様に落胆した。
「すまん、翔琉」
「何言ってんだ。俺たち勝ったんだぜ?」
申し訳なさそうなチームメイトの肩を抱き、翔琉はみんなを慰めている。
数秒間、翔琉と視線が合った。彼は小さく肩を竦めた。微笑もうとしたようだが、口元が悔しそうに歪んでいる。コーチから呼び止められ、彼は樹生に背中を向けた。
会場の裏口から翔琉が現れた時、彼の表情は暗く、足どりは重かった。ふと顔を上げ、そこに樹生が待っていたことに気付くと、彼は軽く目を見張った。
「お疲れ様。良い試合だったよ。最後のスリーポイントも。見事なブザービーターだった」
「あざっす。……けど偉そうに、三芳さんより得点する宣言しましたけど、ダメでした」
ねぎらいながら渡したダイエットコーラは翔琉の好物だ。受け取りながら、彼は素直に悔しさをあらわにした。
「そうだね。ところで、覚えてる? 『付き合うかどうか決めるのは僕だ』って言ったの。
……僕も翔琉が好きだよ。戦ってる翔琉、すごく格好良かった。僕のために勝つって言ってくれて、嬉しかった」
穴が開くのではないかと思うほど、翔琉はまじまじと樹生を見ている。
(何だよ、この沈黙。恥ずかしいから、早くなんか言えよ)
頰を赤らめ、上目遣いに軽く翔琉を睨む。背後から他の選手たちがワイワイと喋りながら近付いてくるのに気づいた翔琉は、自分たちの置かれた状況を思い出したようだ。彼は軽く樹生の背を押す。体育館と、その隣にある倉庫だろうか、小ぶりな建物との隙間に誘導された。彼に触れられる予感で、樹生は小さく身震いする。翔琉は俯く樹生の頬を両手で包み、持ち上げる。
「……ヤバい。嬉しすぎて」
少し掠れて上擦った声が、翔琉の興奮を物語る。彼は、じっと樹生の瞳を覗き込む。恥じらいと期待を見て取ったか、優しく微笑みかけると、ゆっくり樹生に口付けた。そっと互いの唇の感触を確かめるだけで、深くはならない。
初めての時より親しみがこもっていて、
二回目よりも落ち着いている。
互いに心の柔らかい場所までもさらけ出せる。自分が大切にしている心の一部分を受け取ってほしいくらい信頼でき、愛おしい人だ。そして相手の心も受け取りたい。そんな互いの気持ちが反映された素朴なキスだった。まるで技巧的ではない。でも、心を優しく満たしてくれる。唇を離し、照れ臭そうに微笑みを交わすと、翔琉は抑えた声で囁いた。
「……これから樹生さんち行って良い?」
樹生はコクリと首を縦に振った。
その数十分後。『身体を寄せ合って軽くイチャイチャするくらいだろう』と思っていた自分が甘かったことを樹生は思い知らされる。
玄関のドアが閉まった途端、野に放たれた猟犬が獲物を仕留めるかのごとく、彼は強く樹生を抱き寄せ、荒い呼吸を隠しもせず忙しなく口付ける。それどころか、躊躇なく樹生の身体をまさぐり始めるではないか。
「ちょ、さっきまで、くたびれきってたのに!」
翔琉の手を懸命に退け、顔を背けて彼の貪欲な唇から逃れようとする。
「あのくらいの運動量、おやつみたいなモンすよ。俺、こっから丼飯三杯イケますよ」
事もなげに言い放つ翔琉の中心は猛っている。背中に張り付かれたことで分かった。その旺盛な体力に一抹の不安を覚えつつ、樹生は腹を括った。『受け入れてくれた』と理解した翔琉は、再び服の下に手を潜り込ませる。
「そんなにがっつくなよ……。待って」
「もう待てない」
「シャワー浴びさせて」
「俺、気にしないよ? 樹生さん、すごい良い匂いだし」
「最後までするなら、準備が必要なんだよ!」
「えっ! しても良いの?」
「だって、丼飯三杯イケるんでしょ?」
呆れたように聞くと、翔琉はコクコクと頷き、樹生の顔や首筋のあちこちに口付ける。時折、舐めてすらいる。ちぎれんばかりに振られる尻尾が見えないのが不思議なくらいだ。
(犬かよっ!)
「もちろん気持ち確かめ合ったから、身体も全部欲しいよ。今すぐにでも。でも、樹生さんの気持ちを一番大事にしたい。だから、最後までするかどうかには拘ってない」
言い訳をするように軽く口を尖らせているが、表情や口調は甘えるようだ。彼女が途切れたことがないとサラッと言うほどモテる翔琉だ、女性経験はそれなりにあるだろう。しかし自分の身体には、女性のようなまろやかな曲線も柔らかな肉付きもない。内側から自然に潤って男を受け入れる場所も。樹生が男の身体を持っていることは、着替え中に見たりハグしたりで、彼も頭では理解しているだろうが、いざという時に萎えてしまわないか。樹生は少し不安だった。
「そこで待ってて。あ、ベッドに行ってくれても良いよ」
内心の不安を隠すかのような冷静な声で、立てた掌を見せる仕草で翔琉を制止する。
(これじゃ、まるで『待て』みたいだな)
一人苦笑し、脱衣所で服を脱ぎ始める。ふと鏡を見ると、後ろに全裸の翔琉が立っているではないか。
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