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2巻
2-2
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「……よし、僕達も行くか」
「何か食べるの?」
そんなムルの問いに、ウィルザードは少し考える。
今日は一日外出しているとアーニャに伝えてある。
城に戻らないとアーニャには少しばかり寂しい思いをさせてしまうかもしれないが、後日埋め合わせをすればいいだろう。
……となると、ちょうどお昼時であるし、この辺りで腹ごしらえしてもいいかもしれない。
「そうだな、僕達も何か食べることにしようか。何がいい?」
「牛串」
「……食べ盛りだしな」
あまり女の子の好む食事ではないような気もするのだが、それには理由がある。
何しろ、獣人族であるムルは、多感な時期に優人族によって山へ追われ、逃亡生活を送らざるを得なかった身なのだ。
牛は基本的に平地で育てるものだし、優人の町がロウグリアに組み込まれて初めて、この国の食生活に入ってきたのである。
これまで牛を食べたことのなかったムルの好物として固定されてしまっても、仕方ないと言えよう。
「牛串……か」
ウィルザードは周囲を見回すが、昼時ということもあって、店はどこも混雑していた。
いくつか露店もあるものの、それらは旅商人がやっているので、商品が日替わりや週替わりになっている。
串焼き……特に牛串を出す露店となると、なかなか見つからないかもしれない。
「匂う。あっち」
「おっと」
ムルに手を引かれて、ウィルザードは走り出す。
脆弱な体を補うべく体力をつけようとはしているのだが、全力を出してもムルと競争して負けるのが現在のウィルザードだ。
運動能力の低さに関しては、神らしきもののお墨付きである。
ともかく、そうしてムルに手を引かれて走った先には、確かに串焼きの露店があった。
「……なあ、アルダン」
「ん?」
「獣人には何かそういう……なんというのかな。五感が特に発達している的なことは……」
「いや、ありゃあ食べ盛り特有の能力だろ。というか、君が食に興味なさすぎなのもあるけど」
苦笑混じりのアルダンに、ウィルザードは〝そんなものか……〟と呟く。
確かにウィルザードは食べ物にほとんど興味がない。好物と言われてもピンとこないし、嫌いなものも特にない。
「ウィルせんせ。早く」
「ああ、すまないな。行こうか」
グイグイと手を引っ張るムルにされるがまま、ウィルザードは串焼きの屋台へと近づいていく。
「へい、いらっしゃいませ! 何にしましょう!」
「牛串はあるかい?」
「もちろんでさあ! 二本でよろしいですか?」
優人の店主に聞かれ、ウィルザードは目を輝かせているムルを見下ろす。
「ムルは何本いけそうだ?」
「牛串なら、たぶん無限に食べられる」
「……あー、この子の分は三本で、僕が一本だ」
無限は大袈裟にしても、ムルなら十本くらい食べてしまいそうだが、それで夕食を食べられなくなったとなれば、アーニャに怒られる。いつだったか、似たようなことで説教された経験がウィルザードにはある。
「ヘイ、少々お待ちを!」
手際良く肉を焼き始める店主の動きをムルは楽しそうに見ていたが、やがてウィルザードの裾をクイクイと引っ張った。
「ん? ああ、見たいのか」
肉を焼いているところを見たいのだと気付いたウィルザードがムルを抱きかかえると、ムルは嬉しそうに屋台の鉄板を眺めた。
そこではちょうど注文された串がジュウジュウと音を立てて焼かれている。
二人の様子をチラリと見た店主が、〝そういや、余計な話かもしれませんが〟と切り出した。
「ん?」
「お二人はそのー……親子だったりするんで?」
意外すぎる店主の言葉にウィルザードとムルは顔を見合わせたが、直後にムルは嬉しそうにウィルザードの胸に顔を埋めた。
それは店主の言葉を肯定したように見え、ウィルザードはなんとも表現しがたい笑みを浮かべる。
「あー……そう見えるかい?」
「いやあ。ひょっとしたらそうなのかもって感じですかねえ」
言いながら、店主は肉をクルリとひっくり返した。
ジュウジュウという美味しそうな音と匂いの中、店主は塩か何かの調味料をパラパラと振りかけていく。
「去年だったら、そんなことは考えられませんでしたがね。まあ、わたしゃ神様の教えとやらにゃ無関心だったんでアレなんですが……ほら、あー……」
「確かに、去年だとそうだっただろうな。特にこの辺りは」
言い淀む店主にウィルザードが相槌を打つと、店主は〝そうなんですよ〟と続ける。
「だからこの辺りを獣人の王様が治めて、人類全ての平等を掲げてらっしゃるって話を聞いて嬉しくてねえ……元の店を畳んで、こっち来ちゃいましたよ」
「へえ、そりゃ大冒険だ」
流浪の旅商人にとって店を持つことは最終目標のはずだが、それを閉めて旅暮らしに戻ったというのは、本当に冒険だ。また店を持てるかどうかなど、分からないのだから。
「ハハハ、やっぱりそう思われますか? 従業員は誰もついてきちゃくれませんでしたがね。でもわたしゃ、これから世界はもっと変わっていくと思ってます。後悔はしませんぜ!」
「……そうかい」
「ええ……と、良し。いい焼き上がりですな。すぐお召し上がりで?」
「ああ」
「では、軽く葉に包むんで、お待ちを……っと」
店主が大きな葉の皿に載せて差し出した串を、ウィルザードはムルを下ろして受け取る。すると、すぐさま横からムルの手が伸びてきた。
「ほら、火傷しないようにな」
ウィルザードは串を一本取って皿をそのままムルに渡し、店主へ向き直る。
「……君はなかなか面白いな」
「ははは、面白い……ですか。よく人にゃ変な奴って言われるんですが」
「なに、気にすることはない。変かマトモかなんて、その場の雰囲気で変わるものさ」
言いながらウィルザードは牛串を齧り、その美味さに〝へえ〟と声を上げる。
「この肉もなかなかじゃないか」
「うん、おいしい」
ムルからも称賛の言葉が出て、店主は破顔する。
「いやいや、その言葉が一番嬉しいですねえ! 店を出してる甲斐があるってもんです」
「……ところで君は、この町は今日が初めてだったりするのかい?」
「ええ、まあ。この町で露店を出すのも大変ですからねえ」
確かに、カムロット城下町では露店一つ出すのにも申請がいる。
最初は好きにさせていたのだが、妙な店……具体的にはボッタクリや偽物を堂々と売る露店が出はじめたせいで、急遽それらを規制し、統括管理する部署を作らざるを得なくなったのだ。
本当は自治組織であるのが望ましいのだが、カムロット城下町の住人は商売とは縁遠い者ばかりであったため、自治組織を作るとなるとどうしても新しい者が中心になってしまう。それでは、旧来の住民の利益を守れる保証はない。
やがては自治に移行するとしても、最初にウィルザード達が管理してやらなければならなかったのは、そのためだった。
結果として、露店一つ出すだけでも七面倒臭い申請や調査が必要となっている。
食べ物を売る露店は商品の足が早いのを考慮してその日のうちに許可が出るのだが、今後まだまだ改善が必要だろう。
「なるほどなあ」
そうした過程で、ウィルザード……つまるところ、国王アーニャのお気に入りの人物の顔を覚える商人も多いのだが、この店主にはウィルザードを知っている様子が微塵もない。
下心のない本当に誠実な人物なのか、演技が物凄く上手いかのどちらかなのだろうが……前者であると信じたいところではある。
「ごちそうさま」
「お、食べ終わったか」
串の載った皿を回収用の箱に入れたムルに見上げられ、ウィルザードはその視線の先を追い……ほとんど食べないままの自分の牛串に気付く。
試しに動かしてみると、ムルの視線も牛串と一緒に動いた。そしてムルの目の前に持っていくと、牛串とウィルザードを交互に何度も見つめる。
「食べてもいいぞ。僕は今、お腹一杯だからな」
「なら仕方ない。ムルが食べる」
即座に串を受け取って食べはじめたムルに笑みを浮かべた後、ウィルザードは再び店主へと向き直る。
「まあ、なんだ。君のような商人が増えるのは歓迎だ。是非頑張ってくれ」
「なんだか買い被られちまった気もしますねえ」
「ははは、商人ってのは実際より大きく見られてこそだろ?」
「違いないですな」
牛串を食べ終えたムルに裾を引っ張られ、ウィルザードは店主に軽く手を振り別れを告げる。
「ウィルせんせ、嬉しそう」
「ん? まあね」
意識改革とは関係なく、ああいう人間もいる。それを再確認できただけでも、今回の巡回には意味があったとウィルザードは思う。彼みたいな人間が増えていけば、やがては商売関連を自治組織に任せていけるだろう。
「あ、ウィルザード様!」
「ん?」
ガシャガシャと鎧を鳴らしながら走ってくる兵士に気付き、ウィルザードとムルは足を止めた。
どうにも、ただごとではなさそうだが……まさかアーニャに何かあったというわけでもないだろう。そうであれば『王の意思』の魔法で、アーニャが直接に何かを伝えてきてもいいはずだ。
となると、それ以外の何かか。思案しながら、ウィルザードは兵士へと向き直る。
「どうした? わざわざ僕を探して伝えようとするとは」
実際、何かの報告があればウィルザードではなく、騎士団へ報告が上がるはずなのだ。
アーニャからの呼び出しであればやはり『王の意思』で伝わる。
兵士がウィルザードを探してまで報告するということは、アーニャの用件以外で、余程のことが起こったのだろう。
「そ、それが……旧王国の騎士を名乗る方々がいらっしゃいまして。その、どうしたものかと」
「なに……?」
旧王国。そう呼ばれるものは一つしかなく、具体的には蛮王と呼ばれていた頃のベイガンに滅ぼされた獣人の国、ウーファ王国のことを指す。
その国の騎士の生き残りなど、今まで確認されていなかったが……もし現れたとなれば、確かに獣人である目の前の兵士が慌てるのも当然だ。
彼にとってみれば、旧王国の騎士といえば天上の存在に等しい連中である。
今は〝元騎士〟といえども、その影響力は大きいだろう。無視するわけにもいかず、かといって捨て置くこともできず。どの程度の問題なのかも判断できずに、ウィルザードに話を持ってきたというわけである。
兵士であれば、この時間にウィルザードが高い確率で町を巡回していることを知っているから、急いで探そうと思ったのだろう。
「旧王国の騎士……か」
なんとも扱いにくい連中が出てきてしまったものだとウィルザードは思う。
すでに国の体制は固まってはいるが、優秀な人材はいつだって不足している。その騎士連中が優秀であればいいのだが、プライドばかり高い連中であれば始末が悪い。
「とにかく、会ってみなければいけないな」
ウィルザードはそう呟くと、ムルを連れて兵士と共に歩き出した。
◆
カムロット城に帰還したウィルザードとムルを待っていたのは、困り果てた顔の猪獣人の男、ルーガンだった。彼は今、ロウグリア騎士団長として軍務を取り仕切る立場だ。
城の入り口から繋がるホールに立っていたルーガンは、ウィルザードを見つけるなり、慌てた様子で近づいてくる。
「ん? どうした? てっきり君が元騎士殿の相手をしているものと思ったんだが」
元騎士とやらが来たのであれば、騎士団長が相手をするのが自然なのだが……ここにそのルーガンがいるということは、他の誰かが相手をしているということだ。
しかし、そうなると……
「まさか、ベイガンが相手してるんじゃないだろうな……」
ウィルザードはわずかに眉をひそめる。
「流血沙汰……」
続いてムルが呟いた言葉は、あながち冗談とも言いがたいものである。
何しろ、ベイガンに滅ぼされた旧王国の騎士なのだ。仇敵の顔を知らないはずがないし、いざ鉢合わせしたことで感情の抑えが利かなくなり、斬りかかってしまってもおかしくはない。
「ああ……いや、幸いにもそうなってはいないんだが……」
ピリピリした空気に堪えかねたのか、ルーガンはそっと視線を逸らす。
「俺だって客が来ると分かっていれば直接相手をしたかったんだが……城に常駐しているわけじゃないのは知ってるだろう?」
「……まあ、な」
ロウグリアは新しい国だ。
騎士団長などという肩書きの者でも、自然と城から出てどこかに行く機会は多い。
そもそも、ロウグリアの騎士団は常に人員不足だ。戦闘に魔法を駆使することもあって、何も考えずに大量採用するわけにもいかない。まずは兵士として雇い入れ、そこから素質のある者を騎士見習いとして採用し、更に見極めて騎士として登用……というプロセスを経ているのだが、ルーガンは今、責任者としてその審査に大忙しなのだ。
それに比べて、ベイガンは城にいることが多い。
なぜならば、ロウグリアには未だベイガンを怖がる者が多いためだ。
かつて蛮王と呼ばれ、暴君のイメージが強かったベイガンが、今やアーニャの臣下であり、ロウグリアの騎士であると言われても、易々と受け入れられないのである。
この辺りは長い時間をかけて改善していくべき課題なので、ウィルザードもわざわざベイガンを外回りに出して、いたずらに人々の恐怖を煽るようなことはしなかった。
……そんなわけで、今のベイガンは城の中でできる業務を多くやっている。
そうなると、騎士団長不在の際の来客にベイガンが対応するということも、当然起こりうる。
「しかし、戻ってきたなら君も同席すればいいだろう?」
ウィルザードの問いに、ルーガンは苦笑で応じる。
「そりゃできるがな……俺だって元は一兵卒にすぎん。正直言って、ベイガンを抑える自信がない。まして、そんな無様を先方に見られるのはいかんだろう」
ベイガンの肩書は、アーニャ直属の護衛騎士ということになっている。すなわち、命令系統的にはルーガンの下にいるわけではないし、扱いとしてはほぼ同格だ。
しかしながら、外から見れば騎士団長がベイガンを抑えられていないと映ってしまうのである。
何しろ、あの蛮王ベイガンだ。
新しい王を傀儡にして、好き勝手やっているのだと見られては問題がある。
もちろんアーニャが同席していれば、そんなことはないと一目瞭然なのだが、王である彼女が急な来客に気軽に面会するわけにはいかない。
つまり、ベイガンが対応を始めた時点で、ルーガンとしては静観するしか手がなくなってしまったのだ。
「……なるほどな」
本当に面倒な相手が来たものだとウィルザードは嘆息した。
外交官のような高級文官の類はすぐに育つものではないため、ウィルザードやアーニャが直接対応することでどうにか回している状況だ。
さすがに旧王国の関係者にベイガンを面会させてしまったのは人選ミスだった。
「……まあ、まだ破壊音は聞こえてこないしな」
そう口に出して自分を納得させようとするウィルザードに、浮遊する水晶玉に映し出されたアルダンがニヤニヤと笑いかける。
「もうやっちゃったのかもよ?」
「不吉なことを言うんじゃない……アルダン。ちょっと引っ込んでいてくれ」
「ほいほい」
アルダンの姿が消えたのを確認すると、ウィルザードは水晶を引き寄せて短い呪文を唱える。
すると、映像はカムロット城の部屋の中と思しき光景に切り替わった。
「これは……会議室か」
ルーガンが覗き込む。
「ああ。使うならあの部屋だろうと思って繋げてみたんだが……正解だな」
俯瞰視点の映像には、向き合って座る三人の男の姿が映し出されている。
一人は赤い髪の犬獣人と思われる若い男。恐らくは二十代中盤か後半といったところだろうか。
ウィルザードが水晶を撫でると視点が変わり、人当たりの良さそうな顔であることが分かる。
もう一人は金の髪の……恐らくは猫獣人と思われる男。こちらは少し年上で三十代前半。気難しそうな顔をしており、真ん中分けにした長い髪が実に印象的だ。
その二人と向き合っているのは、相変わらず凶暴そのものといった顔つきのベイガン。
「ウィルせんせ、声、聞こえないの……?」
ムルは待ちきれないとばかりに耳に手を当ててせがむ。
「んー、待て待て。この魔法は最近創ったばっかりだからな……えーと」
ウィルザードが水晶玉に再度手を触れると、男達の声が漏れ出るように聞こえはじめた。
どうやら今のところ話し合いは穏便に進んでいるらしく、破壊音はもちろん、怒鳴り声なども聞こえてこない。
「……一応、理由を聞いておこうか?」
ベイガンが重々しく問いかける。
少しばかり不穏な響きではあるが、今までの会話の流れが分からないので、ウィルザード達にはなんとも判断できなかった。
「ですから、王への謁見をお願いしたいのです、ベイガン殿」
どうも赤髪獣人がアーニャに会わせろと要求しているらしい。しかし、彼はベイガンの問いには答えていなかった。
「俺が聞いているのは要求内容ではなく〝理由〟だ、元騎士殿。我らが王にどんな話があって謁見を要求している?」
「その話については貴方には申し上げられません。明かすことができるのは王の御前のみ。ご理解ください」
「……理解できるはずがないだろう。どんな話か言えないがトップと話をさせろとは、愚の骨頂。それでは、自ら不審者だと名乗っているようなものだぞ。自分がどれだけ非常識なことを言っているか、分かっているのか?」
ベイガンが言うまでもなく、公人に面会の約束を取り付けるからには目的や素性を明らかにするのは当然である。まして王という国の核への謁見ともなれば、害ある者を警戒するのはもちろん、王の時間を無駄に使わせるような案件は、事前に精査して弾くのが普通である。
ベイガンの対応は、至ってまともと言える。
「……ウィルせんせ。なんかこの人達、変」
ムルもこの来客の不自然さを敏感に感じ取り、首を傾げる。
「そうだな。ルーガン、アレは本当に元騎士なのか?」
「そう名乗ったと聞くが……。いや待て、考えてみれば……なんで充分に確認もせずに城内に通したんだ?」
後から到着したルーガンはその辺りの報告を受けていなかったが、改めて考えてみると、応対に当たった兵達がそこに全く疑問を抱かなかったのがおかしく思えた。
本来なら、もう少し具体的な報告があって然るべきなのだ。
一方、水晶玉に映る赤髪獣人は一歩も譲らないベイガンに〝困った奴だ〟とでも言わんばかりに苦笑してみせると、懐から金属製のペンダントらしき物を取り出した。
「……ならば、これでいかがですか?」
それは、一見ありきたりなペンダントに見えた。
盾を模した銀色の型に、獅子のようなシルエットの描かれたそれを見て、ウィルザードとムルは首を傾げるが、映像の中のベイガンは違った。
椅子から腰を浮かせて、目を大きく見開いた。
「それは……! なぜそれを持っている! いや……まさか、お前は!」
ルーガンにも何か心当たりがあるらしく、食い入るように水晶を見つめている。
「〝事情〟については、ご理解いただけたかと思います」
赤髪の獣人は悠然とした動作でペンダントを仕舞う。
ベイガンはその様子を一瞥してからゆっくりと椅子に座り直し、腕を組む。
しかし映像を見ているウィルザードとムルは何がなんだか分からず、反応を示したルーガンへと視線を向ける。
その間に、ベイガンは話を締めくくった。
「掛け合ってみよう。今日のところは宿にでも泊まって返事を待つがいい」
「何か食べるの?」
そんなムルの問いに、ウィルザードは少し考える。
今日は一日外出しているとアーニャに伝えてある。
城に戻らないとアーニャには少しばかり寂しい思いをさせてしまうかもしれないが、後日埋め合わせをすればいいだろう。
……となると、ちょうどお昼時であるし、この辺りで腹ごしらえしてもいいかもしれない。
「そうだな、僕達も何か食べることにしようか。何がいい?」
「牛串」
「……食べ盛りだしな」
あまり女の子の好む食事ではないような気もするのだが、それには理由がある。
何しろ、獣人族であるムルは、多感な時期に優人族によって山へ追われ、逃亡生活を送らざるを得なかった身なのだ。
牛は基本的に平地で育てるものだし、優人の町がロウグリアに組み込まれて初めて、この国の食生活に入ってきたのである。
これまで牛を食べたことのなかったムルの好物として固定されてしまっても、仕方ないと言えよう。
「牛串……か」
ウィルザードは周囲を見回すが、昼時ということもあって、店はどこも混雑していた。
いくつか露店もあるものの、それらは旅商人がやっているので、商品が日替わりや週替わりになっている。
串焼き……特に牛串を出す露店となると、なかなか見つからないかもしれない。
「匂う。あっち」
「おっと」
ムルに手を引かれて、ウィルザードは走り出す。
脆弱な体を補うべく体力をつけようとはしているのだが、全力を出してもムルと競争して負けるのが現在のウィルザードだ。
運動能力の低さに関しては、神らしきもののお墨付きである。
ともかく、そうしてムルに手を引かれて走った先には、確かに串焼きの露店があった。
「……なあ、アルダン」
「ん?」
「獣人には何かそういう……なんというのかな。五感が特に発達している的なことは……」
「いや、ありゃあ食べ盛り特有の能力だろ。というか、君が食に興味なさすぎなのもあるけど」
苦笑混じりのアルダンに、ウィルザードは〝そんなものか……〟と呟く。
確かにウィルザードは食べ物にほとんど興味がない。好物と言われてもピンとこないし、嫌いなものも特にない。
「ウィルせんせ。早く」
「ああ、すまないな。行こうか」
グイグイと手を引っ張るムルにされるがまま、ウィルザードは串焼きの屋台へと近づいていく。
「へい、いらっしゃいませ! 何にしましょう!」
「牛串はあるかい?」
「もちろんでさあ! 二本でよろしいですか?」
優人の店主に聞かれ、ウィルザードは目を輝かせているムルを見下ろす。
「ムルは何本いけそうだ?」
「牛串なら、たぶん無限に食べられる」
「……あー、この子の分は三本で、僕が一本だ」
無限は大袈裟にしても、ムルなら十本くらい食べてしまいそうだが、それで夕食を食べられなくなったとなれば、アーニャに怒られる。いつだったか、似たようなことで説教された経験がウィルザードにはある。
「ヘイ、少々お待ちを!」
手際良く肉を焼き始める店主の動きをムルは楽しそうに見ていたが、やがてウィルザードの裾をクイクイと引っ張った。
「ん? ああ、見たいのか」
肉を焼いているところを見たいのだと気付いたウィルザードがムルを抱きかかえると、ムルは嬉しそうに屋台の鉄板を眺めた。
そこではちょうど注文された串がジュウジュウと音を立てて焼かれている。
二人の様子をチラリと見た店主が、〝そういや、余計な話かもしれませんが〟と切り出した。
「ん?」
「お二人はそのー……親子だったりするんで?」
意外すぎる店主の言葉にウィルザードとムルは顔を見合わせたが、直後にムルは嬉しそうにウィルザードの胸に顔を埋めた。
それは店主の言葉を肯定したように見え、ウィルザードはなんとも表現しがたい笑みを浮かべる。
「あー……そう見えるかい?」
「いやあ。ひょっとしたらそうなのかもって感じですかねえ」
言いながら、店主は肉をクルリとひっくり返した。
ジュウジュウという美味しそうな音と匂いの中、店主は塩か何かの調味料をパラパラと振りかけていく。
「去年だったら、そんなことは考えられませんでしたがね。まあ、わたしゃ神様の教えとやらにゃ無関心だったんでアレなんですが……ほら、あー……」
「確かに、去年だとそうだっただろうな。特にこの辺りは」
言い淀む店主にウィルザードが相槌を打つと、店主は〝そうなんですよ〟と続ける。
「だからこの辺りを獣人の王様が治めて、人類全ての平等を掲げてらっしゃるって話を聞いて嬉しくてねえ……元の店を畳んで、こっち来ちゃいましたよ」
「へえ、そりゃ大冒険だ」
流浪の旅商人にとって店を持つことは最終目標のはずだが、それを閉めて旅暮らしに戻ったというのは、本当に冒険だ。また店を持てるかどうかなど、分からないのだから。
「ハハハ、やっぱりそう思われますか? 従業員は誰もついてきちゃくれませんでしたがね。でもわたしゃ、これから世界はもっと変わっていくと思ってます。後悔はしませんぜ!」
「……そうかい」
「ええ……と、良し。いい焼き上がりですな。すぐお召し上がりで?」
「ああ」
「では、軽く葉に包むんで、お待ちを……っと」
店主が大きな葉の皿に載せて差し出した串を、ウィルザードはムルを下ろして受け取る。すると、すぐさま横からムルの手が伸びてきた。
「ほら、火傷しないようにな」
ウィルザードは串を一本取って皿をそのままムルに渡し、店主へ向き直る。
「……君はなかなか面白いな」
「ははは、面白い……ですか。よく人にゃ変な奴って言われるんですが」
「なに、気にすることはない。変かマトモかなんて、その場の雰囲気で変わるものさ」
言いながらウィルザードは牛串を齧り、その美味さに〝へえ〟と声を上げる。
「この肉もなかなかじゃないか」
「うん、おいしい」
ムルからも称賛の言葉が出て、店主は破顔する。
「いやいや、その言葉が一番嬉しいですねえ! 店を出してる甲斐があるってもんです」
「……ところで君は、この町は今日が初めてだったりするのかい?」
「ええ、まあ。この町で露店を出すのも大変ですからねえ」
確かに、カムロット城下町では露店一つ出すのにも申請がいる。
最初は好きにさせていたのだが、妙な店……具体的にはボッタクリや偽物を堂々と売る露店が出はじめたせいで、急遽それらを規制し、統括管理する部署を作らざるを得なくなったのだ。
本当は自治組織であるのが望ましいのだが、カムロット城下町の住人は商売とは縁遠い者ばかりであったため、自治組織を作るとなるとどうしても新しい者が中心になってしまう。それでは、旧来の住民の利益を守れる保証はない。
やがては自治に移行するとしても、最初にウィルザード達が管理してやらなければならなかったのは、そのためだった。
結果として、露店一つ出すだけでも七面倒臭い申請や調査が必要となっている。
食べ物を売る露店は商品の足が早いのを考慮してその日のうちに許可が出るのだが、今後まだまだ改善が必要だろう。
「なるほどなあ」
そうした過程で、ウィルザード……つまるところ、国王アーニャのお気に入りの人物の顔を覚える商人も多いのだが、この店主にはウィルザードを知っている様子が微塵もない。
下心のない本当に誠実な人物なのか、演技が物凄く上手いかのどちらかなのだろうが……前者であると信じたいところではある。
「ごちそうさま」
「お、食べ終わったか」
串の載った皿を回収用の箱に入れたムルに見上げられ、ウィルザードはその視線の先を追い……ほとんど食べないままの自分の牛串に気付く。
試しに動かしてみると、ムルの視線も牛串と一緒に動いた。そしてムルの目の前に持っていくと、牛串とウィルザードを交互に何度も見つめる。
「食べてもいいぞ。僕は今、お腹一杯だからな」
「なら仕方ない。ムルが食べる」
即座に串を受け取って食べはじめたムルに笑みを浮かべた後、ウィルザードは再び店主へと向き直る。
「まあ、なんだ。君のような商人が増えるのは歓迎だ。是非頑張ってくれ」
「なんだか買い被られちまった気もしますねえ」
「ははは、商人ってのは実際より大きく見られてこそだろ?」
「違いないですな」
牛串を食べ終えたムルに裾を引っ張られ、ウィルザードは店主に軽く手を振り別れを告げる。
「ウィルせんせ、嬉しそう」
「ん? まあね」
意識改革とは関係なく、ああいう人間もいる。それを再確認できただけでも、今回の巡回には意味があったとウィルザードは思う。彼みたいな人間が増えていけば、やがては商売関連を自治組織に任せていけるだろう。
「あ、ウィルザード様!」
「ん?」
ガシャガシャと鎧を鳴らしながら走ってくる兵士に気付き、ウィルザードとムルは足を止めた。
どうにも、ただごとではなさそうだが……まさかアーニャに何かあったというわけでもないだろう。そうであれば『王の意思』の魔法で、アーニャが直接に何かを伝えてきてもいいはずだ。
となると、それ以外の何かか。思案しながら、ウィルザードは兵士へと向き直る。
「どうした? わざわざ僕を探して伝えようとするとは」
実際、何かの報告があればウィルザードではなく、騎士団へ報告が上がるはずなのだ。
アーニャからの呼び出しであればやはり『王の意思』で伝わる。
兵士がウィルザードを探してまで報告するということは、アーニャの用件以外で、余程のことが起こったのだろう。
「そ、それが……旧王国の騎士を名乗る方々がいらっしゃいまして。その、どうしたものかと」
「なに……?」
旧王国。そう呼ばれるものは一つしかなく、具体的には蛮王と呼ばれていた頃のベイガンに滅ぼされた獣人の国、ウーファ王国のことを指す。
その国の騎士の生き残りなど、今まで確認されていなかったが……もし現れたとなれば、確かに獣人である目の前の兵士が慌てるのも当然だ。
彼にとってみれば、旧王国の騎士といえば天上の存在に等しい連中である。
今は〝元騎士〟といえども、その影響力は大きいだろう。無視するわけにもいかず、かといって捨て置くこともできず。どの程度の問題なのかも判断できずに、ウィルザードに話を持ってきたというわけである。
兵士であれば、この時間にウィルザードが高い確率で町を巡回していることを知っているから、急いで探そうと思ったのだろう。
「旧王国の騎士……か」
なんとも扱いにくい連中が出てきてしまったものだとウィルザードは思う。
すでに国の体制は固まってはいるが、優秀な人材はいつだって不足している。その騎士連中が優秀であればいいのだが、プライドばかり高い連中であれば始末が悪い。
「とにかく、会ってみなければいけないな」
ウィルザードはそう呟くと、ムルを連れて兵士と共に歩き出した。
◆
カムロット城に帰還したウィルザードとムルを待っていたのは、困り果てた顔の猪獣人の男、ルーガンだった。彼は今、ロウグリア騎士団長として軍務を取り仕切る立場だ。
城の入り口から繋がるホールに立っていたルーガンは、ウィルザードを見つけるなり、慌てた様子で近づいてくる。
「ん? どうした? てっきり君が元騎士殿の相手をしているものと思ったんだが」
元騎士とやらが来たのであれば、騎士団長が相手をするのが自然なのだが……ここにそのルーガンがいるということは、他の誰かが相手をしているということだ。
しかし、そうなると……
「まさか、ベイガンが相手してるんじゃないだろうな……」
ウィルザードはわずかに眉をひそめる。
「流血沙汰……」
続いてムルが呟いた言葉は、あながち冗談とも言いがたいものである。
何しろ、ベイガンに滅ぼされた旧王国の騎士なのだ。仇敵の顔を知らないはずがないし、いざ鉢合わせしたことで感情の抑えが利かなくなり、斬りかかってしまってもおかしくはない。
「ああ……いや、幸いにもそうなってはいないんだが……」
ピリピリした空気に堪えかねたのか、ルーガンはそっと視線を逸らす。
「俺だって客が来ると分かっていれば直接相手をしたかったんだが……城に常駐しているわけじゃないのは知ってるだろう?」
「……まあ、な」
ロウグリアは新しい国だ。
騎士団長などという肩書きの者でも、自然と城から出てどこかに行く機会は多い。
そもそも、ロウグリアの騎士団は常に人員不足だ。戦闘に魔法を駆使することもあって、何も考えずに大量採用するわけにもいかない。まずは兵士として雇い入れ、そこから素質のある者を騎士見習いとして採用し、更に見極めて騎士として登用……というプロセスを経ているのだが、ルーガンは今、責任者としてその審査に大忙しなのだ。
それに比べて、ベイガンは城にいることが多い。
なぜならば、ロウグリアには未だベイガンを怖がる者が多いためだ。
かつて蛮王と呼ばれ、暴君のイメージが強かったベイガンが、今やアーニャの臣下であり、ロウグリアの騎士であると言われても、易々と受け入れられないのである。
この辺りは長い時間をかけて改善していくべき課題なので、ウィルザードもわざわざベイガンを外回りに出して、いたずらに人々の恐怖を煽るようなことはしなかった。
……そんなわけで、今のベイガンは城の中でできる業務を多くやっている。
そうなると、騎士団長不在の際の来客にベイガンが対応するということも、当然起こりうる。
「しかし、戻ってきたなら君も同席すればいいだろう?」
ウィルザードの問いに、ルーガンは苦笑で応じる。
「そりゃできるがな……俺だって元は一兵卒にすぎん。正直言って、ベイガンを抑える自信がない。まして、そんな無様を先方に見られるのはいかんだろう」
ベイガンの肩書は、アーニャ直属の護衛騎士ということになっている。すなわち、命令系統的にはルーガンの下にいるわけではないし、扱いとしてはほぼ同格だ。
しかしながら、外から見れば騎士団長がベイガンを抑えられていないと映ってしまうのである。
何しろ、あの蛮王ベイガンだ。
新しい王を傀儡にして、好き勝手やっているのだと見られては問題がある。
もちろんアーニャが同席していれば、そんなことはないと一目瞭然なのだが、王である彼女が急な来客に気軽に面会するわけにはいかない。
つまり、ベイガンが対応を始めた時点で、ルーガンとしては静観するしか手がなくなってしまったのだ。
「……なるほどな」
本当に面倒な相手が来たものだとウィルザードは嘆息した。
外交官のような高級文官の類はすぐに育つものではないため、ウィルザードやアーニャが直接対応することでどうにか回している状況だ。
さすがに旧王国の関係者にベイガンを面会させてしまったのは人選ミスだった。
「……まあ、まだ破壊音は聞こえてこないしな」
そう口に出して自分を納得させようとするウィルザードに、浮遊する水晶玉に映し出されたアルダンがニヤニヤと笑いかける。
「もうやっちゃったのかもよ?」
「不吉なことを言うんじゃない……アルダン。ちょっと引っ込んでいてくれ」
「ほいほい」
アルダンの姿が消えたのを確認すると、ウィルザードは水晶を引き寄せて短い呪文を唱える。
すると、映像はカムロット城の部屋の中と思しき光景に切り替わった。
「これは……会議室か」
ルーガンが覗き込む。
「ああ。使うならあの部屋だろうと思って繋げてみたんだが……正解だな」
俯瞰視点の映像には、向き合って座る三人の男の姿が映し出されている。
一人は赤い髪の犬獣人と思われる若い男。恐らくは二十代中盤か後半といったところだろうか。
ウィルザードが水晶を撫でると視点が変わり、人当たりの良さそうな顔であることが分かる。
もう一人は金の髪の……恐らくは猫獣人と思われる男。こちらは少し年上で三十代前半。気難しそうな顔をしており、真ん中分けにした長い髪が実に印象的だ。
その二人と向き合っているのは、相変わらず凶暴そのものといった顔つきのベイガン。
「ウィルせんせ、声、聞こえないの……?」
ムルは待ちきれないとばかりに耳に手を当ててせがむ。
「んー、待て待て。この魔法は最近創ったばっかりだからな……えーと」
ウィルザードが水晶玉に再度手を触れると、男達の声が漏れ出るように聞こえはじめた。
どうやら今のところ話し合いは穏便に進んでいるらしく、破壊音はもちろん、怒鳴り声なども聞こえてこない。
「……一応、理由を聞いておこうか?」
ベイガンが重々しく問いかける。
少しばかり不穏な響きではあるが、今までの会話の流れが分からないので、ウィルザード達にはなんとも判断できなかった。
「ですから、王への謁見をお願いしたいのです、ベイガン殿」
どうも赤髪獣人がアーニャに会わせろと要求しているらしい。しかし、彼はベイガンの問いには答えていなかった。
「俺が聞いているのは要求内容ではなく〝理由〟だ、元騎士殿。我らが王にどんな話があって謁見を要求している?」
「その話については貴方には申し上げられません。明かすことができるのは王の御前のみ。ご理解ください」
「……理解できるはずがないだろう。どんな話か言えないがトップと話をさせろとは、愚の骨頂。それでは、自ら不審者だと名乗っているようなものだぞ。自分がどれだけ非常識なことを言っているか、分かっているのか?」
ベイガンが言うまでもなく、公人に面会の約束を取り付けるからには目的や素性を明らかにするのは当然である。まして王という国の核への謁見ともなれば、害ある者を警戒するのはもちろん、王の時間を無駄に使わせるような案件は、事前に精査して弾くのが普通である。
ベイガンの対応は、至ってまともと言える。
「……ウィルせんせ。なんかこの人達、変」
ムルもこの来客の不自然さを敏感に感じ取り、首を傾げる。
「そうだな。ルーガン、アレは本当に元騎士なのか?」
「そう名乗ったと聞くが……。いや待て、考えてみれば……なんで充分に確認もせずに城内に通したんだ?」
後から到着したルーガンはその辺りの報告を受けていなかったが、改めて考えてみると、応対に当たった兵達がそこに全く疑問を抱かなかったのがおかしく思えた。
本来なら、もう少し具体的な報告があって然るべきなのだ。
一方、水晶玉に映る赤髪獣人は一歩も譲らないベイガンに〝困った奴だ〟とでも言わんばかりに苦笑してみせると、懐から金属製のペンダントらしき物を取り出した。
「……ならば、これでいかがですか?」
それは、一見ありきたりなペンダントに見えた。
盾を模した銀色の型に、獅子のようなシルエットの描かれたそれを見て、ウィルザードとムルは首を傾げるが、映像の中のベイガンは違った。
椅子から腰を浮かせて、目を大きく見開いた。
「それは……! なぜそれを持っている! いや……まさか、お前は!」
ルーガンにも何か心当たりがあるらしく、食い入るように水晶を見つめている。
「〝事情〟については、ご理解いただけたかと思います」
赤髪の獣人は悠然とした動作でペンダントを仕舞う。
ベイガンはその様子を一瞥してからゆっくりと椅子に座り直し、腕を組む。
しかし映像を見ているウィルザードとムルは何がなんだか分からず、反応を示したルーガンへと視線を向ける。
その間に、ベイガンは話を締めくくった。
「掛け合ってみよう。今日のところは宿にでも泊まって返事を待つがいい」
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