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異界の国のアリス
事件の始まり
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王都廃棄街。現魔族領の王都の端に存在する、遺棄された区域である。
その理由としては「勇者災害」が挙げられる。
過去の魔王が人類領で召喚された「勇者」に殺された際に出た被害の大きさを忘れない為の史跡であり、同時にスラムでもある。
言ってみれば、王都に来たものの、住む金が無い者達が路地裏に溜まらないようにする為に意図的に残された場所であり……時折、地代がかからないからと住む物好きが居たりする場所でもある。
しかしながら、それは同時に「廃棄街」での治安の保証はされていないということでもあり、怪しげな連中の本拠地であったり……あるいは、そうした連中が出入りするには適した場所であるということでもあった。
「仕事……? お前等が、俺にか?」
「はい、その通りです」
「どうして俺に? 困ってる人間なんか、その辺にたくさん居るだろう」
たとえば、今人間の男に話しかけているのは、同じく1人の人間。
綺麗な服を着ているところから見て、それなりの財産のある立場であるか、しっかりとした仕事についているのだろうと見て取れる。
「たいした話ではありませんよ。魔族領に住む人間の救済……ただそれだけを私の主人は考えておいでです」
「……」
魔族と人間の友好。
表面上は成っているそれではあるが、これ程空虚な言葉はない。
人間と魔族の間の溝は未だ深く、魔族領に人間の商人なども出入りしているが、彼等は「魔族領に住む人間」を多く相手にしているのだ。
それ故に、「人間の救済」なんて言葉が生まれてくる。
そしてそれは、魔族領に住む人間にとっては非常に甘美な言葉でもあった。
だからこそ、男もその言葉に大きく心を揺らされる。
「そ、そうか。なら、世話になろうかな」
「ええ、是非。主人も喜ぶでしょう」
その気になった男を連れて、勧誘の男は笑う。
その顔に浮かんでいる笑みは、非常に親切そうなものだ。
「では、まずはこの廃棄街に作った拠点に行きましょう」
「廃棄街に? そんなものがあるなんて聞いた事も」
「いいえ、あるはずですよ。炊き出しをしていますからね」
「え、まさかあんた等……」
「ええ、そのまさかです」
勧誘の男が肯定すると、男は一気に安心したように息を吐く。
「……なんだ。そうなら最初っからそう言ってくれりゃあいいんだ! そうすりゃ俺だって余計な心配せずにすんだのに!」
「ははは、申し訳ありません。これから働いて頂く関係上、あまり慈善事業の面は押し出すなと言われているもので」
「コレだって慈善事業みたいなもんだろ? 俺みたいなの拾うんだからよ」
「かもしれませんね」
談笑しながら2人は歩いていく。
男の言う通り、男自身には然程優先して救うような特徴があるようには思えない。
程々に健康そうで、程々に働けそうな……まあ、強いて言えばその程度。
人間領に行けば何処にでもいそうな、その程度の人間でしかないのだ。
「でも、良かったよ。俺みたいなのは魔族領じゃ中々上手くやっていけないからな……」
「こちらの生まれなのですか?」
「ああ、両親の顔も知りゃしねえ。この年まで何とか生きてこれたが、その程度だ」
「なるほど」
そういう人間は少なくはない。
何らかの事情で魔族領の王都まで来た人間同士の子供。
捨てられたり、あるいは元々両親も廃棄街の出であったり……その辺りの事情は様々なのだが。
「まあ、問題はありませんよ。むしろ主人は、そういう方を好んでおられます」
「どういう意味だ?」
「救い甲斐があるということですよ」
疑問符を浮かべながらも、男はこれからの生活に思いを馳せる。
これまでの人生はどうしようもなかったが、ようやく運が向いてきた……そう思ったのだ。
そして、男がそう考えていたとしても無理はない。
ただ、言える事は……男のその後の行方を誰も知らないし、気にする事もなかった。
廃棄街とは、そういう場所である。
その理由としては「勇者災害」が挙げられる。
過去の魔王が人類領で召喚された「勇者」に殺された際に出た被害の大きさを忘れない為の史跡であり、同時にスラムでもある。
言ってみれば、王都に来たものの、住む金が無い者達が路地裏に溜まらないようにする為に意図的に残された場所であり……時折、地代がかからないからと住む物好きが居たりする場所でもある。
しかしながら、それは同時に「廃棄街」での治安の保証はされていないということでもあり、怪しげな連中の本拠地であったり……あるいは、そうした連中が出入りするには適した場所であるということでもあった。
「仕事……? お前等が、俺にか?」
「はい、その通りです」
「どうして俺に? 困ってる人間なんか、その辺にたくさん居るだろう」
たとえば、今人間の男に話しかけているのは、同じく1人の人間。
綺麗な服を着ているところから見て、それなりの財産のある立場であるか、しっかりとした仕事についているのだろうと見て取れる。
「たいした話ではありませんよ。魔族領に住む人間の救済……ただそれだけを私の主人は考えておいでです」
「……」
魔族と人間の友好。
表面上は成っているそれではあるが、これ程空虚な言葉はない。
人間と魔族の間の溝は未だ深く、魔族領に人間の商人なども出入りしているが、彼等は「魔族領に住む人間」を多く相手にしているのだ。
それ故に、「人間の救済」なんて言葉が生まれてくる。
そしてそれは、魔族領に住む人間にとっては非常に甘美な言葉でもあった。
だからこそ、男もその言葉に大きく心を揺らされる。
「そ、そうか。なら、世話になろうかな」
「ええ、是非。主人も喜ぶでしょう」
その気になった男を連れて、勧誘の男は笑う。
その顔に浮かんでいる笑みは、非常に親切そうなものだ。
「では、まずはこの廃棄街に作った拠点に行きましょう」
「廃棄街に? そんなものがあるなんて聞いた事も」
「いいえ、あるはずですよ。炊き出しをしていますからね」
「え、まさかあんた等……」
「ええ、そのまさかです」
勧誘の男が肯定すると、男は一気に安心したように息を吐く。
「……なんだ。そうなら最初っからそう言ってくれりゃあいいんだ! そうすりゃ俺だって余計な心配せずにすんだのに!」
「ははは、申し訳ありません。これから働いて頂く関係上、あまり慈善事業の面は押し出すなと言われているもので」
「コレだって慈善事業みたいなもんだろ? 俺みたいなの拾うんだからよ」
「かもしれませんね」
談笑しながら2人は歩いていく。
男の言う通り、男自身には然程優先して救うような特徴があるようには思えない。
程々に健康そうで、程々に働けそうな……まあ、強いて言えばその程度。
人間領に行けば何処にでもいそうな、その程度の人間でしかないのだ。
「でも、良かったよ。俺みたいなのは魔族領じゃ中々上手くやっていけないからな……」
「こちらの生まれなのですか?」
「ああ、両親の顔も知りゃしねえ。この年まで何とか生きてこれたが、その程度だ」
「なるほど」
そういう人間は少なくはない。
何らかの事情で魔族領の王都まで来た人間同士の子供。
捨てられたり、あるいは元々両親も廃棄街の出であったり……その辺りの事情は様々なのだが。
「まあ、問題はありませんよ。むしろ主人は、そういう方を好んでおられます」
「どういう意味だ?」
「救い甲斐があるということですよ」
疑問符を浮かべながらも、男はこれからの生活に思いを馳せる。
これまでの人生はどうしようもなかったが、ようやく運が向いてきた……そう思ったのだ。
そして、男がそう考えていたとしても無理はない。
ただ、言える事は……男のその後の行方を誰も知らないし、気にする事もなかった。
廃棄街とは、そういう場所である。
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