勇者に滅ぼされるだけの簡単なお仕事です

天野ハザマ

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黒翼は蒼天に羽ばたく11

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 騎士選考会、決勝戦。
 その始まりは、それまでと比べると随分と寂しいものであった。
 カシナート近くの、名前もない山。
 大きな街道から外れ、近くに小さな村がある程度の……そんな場所で行われるゴブリン退治は、所謂早い者勝ちである。
 山にいるゴブリンを倒し、その証拠となる身体部位を切り取り持ち帰る。
 その数で順位が決まるという、ただそれだけのものである。
 それぞれ違う方向から参加者達が山へと入る事になったのは、ゴブリンの討ちもらしがないようにする為。
 そして同時に、出来るだけ参加者同士の妨害が無いようにという配慮でもあるらしかった。
 
「……山、かあ」

 背の高い草の生えた山の中を、カインは進む。
 ザクザクと剣で草を斬り進む姿は中々堂に入ったものだが、これはこうした技術が冒険者の必須技能だからである。
 というのも、基本的に「山」というものは未開の地であるからだ。
 そのルートを通らなければ不便であるといういう場合でもなければ、山の中に街道は造られない。
 これは様々な理由があるが、一番の問題としては安全性である。
 山道は平地の道と比べて危険な事は常識であり、更に言えば視界も悪い。
 視界が悪いというのは何らかの悪しき意思を持つ襲撃者にとっては絶好の環境であるということであり、実際に襲われる確率が高い場所は山道でもあった。
 それであるが故に、各国が責任をもって整備する大街道には山道は選ばれない。
 そうではない街道などには山道がある場合もあるが、好き好んで襲われやすい道を造る者も使う者も中々いない。
 そうであるが故に山は林業や狩りを営む者で無ければ入らない地となっているのだが……人の手が入らないということは当然、盗賊やゴブリンなどの根城になる可能性が大きいという事でもある。
 それの駆除は冒険者の重要な仕事になるわけだが、つまりはそうした理由で「山での活動技能」は冒険者の必須技能となるわけだ。

「よっ……と!」

 道を塞ぐ枝を斬り落とし、カインは進む。
 こうした山道を進む場合は専用の道具を使うこともあるが、カインは気にした様子も無く自身の剣……硬剣ティルノークを振るっている。
 この辺りは、自分の剣がこの程度ではなんとも無いと分かっているが故である。
 ザクザクと地面を踏みしめながら歩くカインはしかし、戸惑ったような顔をしていた。

「おかしい、な……」

 やがてカインは、その一言をポツリと呟く。
 立ち止まり、今まで来た道と……自分がこれから進む場所を見る。
 正面には背の高い草や木の枝。
 背後には、カインが切り開き踏み固めてきた道。
 それから周りをゆっくりと見回して、さわさわと揺れる木々や草を眺める。
 一見、普通にも思える山の光景。
 だからこそカインは、それをおかしいと評した。

「この山、本当にゴブリンがいるのか?」

 そう呟いて、カインは自分の行く手にある枝を見る。
 カインの目線よりももう少し下のほうにある枝は、カインの行く先を遮るかのように揺れる。
 その様子は、未開の地には相応しい。
 そうであるが故に、ゴブリンの住む地には相応しくない。
 ゴブリンが住むというのであれば、もっと……と、そこまで考えて。
 ガサガサ、バキバキという音がカインの右方から聞こえ始める。
 一瞬ゴブリンかと思って身構えたカインの視界にはしかし、ゴブリンでは有り得ない巨体が映る。

「……んあ?」
「あ……ど、どうも」

 肉体自慢の冒険者でも土下座を敢行しそうな程に立派に鍛え上げられた身体に金属とは違う質感の鎧を纏い、背中に大剣を背負ったその姿。
 下手な男の冒険者よりも余程男らしいその女に、カインは見覚えがあった。
 その女……ロゼッタはカインを見下ろすと、ああと頷く。

「えーっと……そうそう、確か一番若い癖に一番慣れた動きしてやがったクソガキだ。名前なんだっけ、アンタ」
「カインです。こんにちは、ロゼッタさん」
「おう、よろしくな」

 目の前の邪魔な枝を折って捨てると、ロゼッタはカインのすぐ側までやってくる。

「突然だけどよ。お前、どう思う?」
「どう思う……っていいますと?」
「どう思うじゃねーだろ。気付かねえ程ボンクラってわけでもねえだろ?」

 ロゼッタの言葉に、カインは視線を鋭くする。
 カインと同じ疑問をロゼッタが抱いていると分かったからだ。
 だからこそ、カインは誤魔化さずに……一言だけを告げる。

「おかしいです。それだけは確実に言えます」
「そうだな。この山にゴブリンなんざいねえだろ」

 駆け引きをするわけでもなく、いきなり結論から入るロゼッタにカインは目を丸くする。
 冒険者であればこういう場合は自分の情報は小出しにするのが基本だが、そうした技法を好まないのか……あるいは、カインと同様の可能性を考えているが故なのか。

「そうですね、僕もそう思います。ですが問題は、主催者側がこれを把握してたかどうかです」
「……ふん、やっぱりそっちの疑いにいくか」
「ロゼッタさんもそれを疑ってるから、僕を……いや、他の参加者を探しに来たんでしょう?」
「まあな。そういう意味ではアンタだったのは幸運だよ。あの中じゃ、アンタと重装備野郎が一番マシだった」

 重装備野郎……と聞いて、全身鎧の重剣士ゼギウスをカインは思い浮かべる。
 あの装備では山の中では大変だろうが……。

「一応、考えられるパターンはいくつかある。一つ目はあたい達がゴブリンのドブくせえ匂いにも気付かない鼻づまり野郎だって可能性か、あるいはたまたま運が悪くて連中の痕跡の無い場所からスタートしたって可能性だ」

 その場合は、残念ながら他の参加者に上位は譲る事になるだろう。
 しかし、問題の無いパターンである。
 カインは頷くと、指を二本立ててロゼッタの言葉に続ける。

「二つ目は、ここにゴブリンがいるというのが勘違いである場合、ですね」

 その場合は、ゴブリンがいなくてよかったね……で終わりである。
 決勝戦は日を改めることになるだろうが、一番平和なパターンである。

「三つ目は……こいつが一番最悪だが、知っててあたい達を此処に送り込んだ場合だ。だがまあ……そうする理由が読めねえ。警戒はしなきゃいけねえが、可能性は低いな」

 カインはその言葉に曖昧に頷くが……有り得ない事だとまでは思えなかった。
 何しろカインとアインはこのカシナートの主であるナリカ王女の政敵であるセリス王女の手の者であるし、マゼンダに向けて放たれた刺客でもある。
 消される理由については、それこそ山のようにあるのだ。

「……そうですね。でも、それを前提とした上でどうされるつもりだったんですか?」
「あ? そうだな……居ないと断言するのは簡単だけどな。だが、万が一居た場合の言い訳がつかねえ」
「と、いうと?」
「察しの悪い野郎だな。一匹でもいりゃあ、それはゴブリンがいたことになるんだよ。その場合、あたい達は案山子より役にたたねえ木偶野郎ってことになるんだ」

 ロゼッタの言葉の意味を、カインは考える。
 それは、つまり。

「……一応全域を探してみようってことですか?」
「まあな。三つ目の可能性が捨てきれない以上、単独でごちゃごちゃ歩き回るのも避けてぇしな。アンタと会ったのは幸運だったぜ」

 頷くロゼッタに、カインは苦笑して。
 その瞬間……パキン、という何かが割れるような音が響く。

「……あ? うおっ!?」
「ロゼッタさ……!」

 それは、ロゼッタの背後。
 ひび割れた空間の奥の極彩色の空間から広がる黒い手。
 ロゼッタの顔面を掴みぐいと引きずり込むソレを断ち切るべく、カインは剣を構えて。

「……あら、ダメよカイン。貴方の招待状は、此処にちゃあんとあるわ?」

 そんな聞き覚えのある声が響き……カインの体を、幾本もの黒い手が背後から掴む。

「く……あっ!?」

 バランスを崩した身体は、まともな抵抗をカインに許さず……カインはそのまま、背後の極彩色の空間に引きずりこまれる。
 そうして誰も居なくなったその場所で、赤いドレスのような服を纏った純白の髪の女は笑う。

「……かくして、お客様達はパーティ会場へ。ふふふっ、ふふっ! ごめんね、マゼンダ! ちょっと借りていくわ! でも大丈夫、大丈夫よ! 私がもっと楽しく……美味しくしてあげる! ええ、私……そういうの得意だもの!」

 女がノックでもするかのように空中を叩くと、何かの冗談のようにひび割れて極彩色の空間が顔を出す。
 その中に躊躇いもなく女が身を躍らせると、ひび割れていた空間は元の姿を取り戻す。
 ……そして。
 その場にはただ、静寂だけが戻る。
 山の中に居た参加者の全てが、こうして……麓の騎士達に気付かれる事すらも無く、山から消えたのである。
 
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