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その先に光はあるか14

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 正門が近づくと、行商人の馬車らしきものがアウロック達を横切っていく光景も珍しくなくなってくる。
 人通りも自然と多くなり、アウロックとマーロゥへと向けられる視線も多くなり始める。

「……やっぱり、おかしいな」

 正門へと続く道を歩きながら、アウロックがぽつりと呟く。
 その視線は、辺りの光景へと向けられていて……アウロックの足が止まったことで、周囲を注意深く探していたマーロゥが背中にぼふんとぶつかって止まる。

「わぷっ!? ご、ごめんなさい!?」

 ぶつかった後で慌てて離れたマーロゥは、アウロックが何事かを考えているのを見て不思議そうにその顔を見上げる。

「ど、どうしたんですか?」
「いや……なんかおかしくねえか?」
「へ? あ、はい」

 言われて、マーロゥも自分の報告した事について思い返す。
 行商人の少なさと、エルアーク守備騎士団のいつも通りな様子。
 行商人についてはそういうこともあるかもしれないが、エルアーク守備騎士団についてはおかしい。
 そこまで考えて……マーロゥもあれ、と呟く。
 その横を、屋根に穴の空いた行商人の馬車がガラガラと車輪の音を立てながら通り過ぎる。
 それを見送って……マーロゥは再びあれ、と呟く。

「行商人の馬車……ですよね」
「だな。こんな時間に来るもんだったか?」

 今は、昼過ぎ。
 大体朝一番か夜に街に入ってくる事が多い行商人としては珍しいともいえる。
 何しろ、日の昇っているうちは稼ぎ時だ。
 この時間はどの行商人も商業区画にいるのが普通であり、たとえ出遅れても急いで店を広げるのが基本だ。
 
「……ちょっと走るか」
「あ、はい!」

 走り出すアウロックを追うようにマーロゥも慌てて走り……転びそうになったところを、振り返り立ち止まったアウロックに手を掴まれ引き寄せられる。

「あわわっ……ひゃあー!」
「ったく、そそっかしいなオイ。ほれ、行くぞ!」
「ご、ごめんなさ……わわわー!」

 アウロックに手を掴まれたまま、マーロゥは足をもつれさせながらも走る。

「あ、アウロックさん! ちょっとま……ああー!」
「うおっとお!」
「ぎゃー!」

 転びそうになった瞬間、アウロックが繋いだ手からマーロゥを思い切り引き上げ、その腕の中にすっぽりと収める。
 両腕で抱えられ……騎士物語での救出された姫のような格好になったマーロゥは自分の状態に気付くと、慌てたようにバタバタと手足を動かす。

「お前、素質はあるんだから運動に慣れとけ。何にでも必要だぞ?」
「は、はい! 分かりましたからおろしてください!」
「ダメだ」
「ひゃあああ……」

 手で顔を隠してしまったマーロゥはしかし、それからすぐにアウロックの腕から下ろされる。

「ほへ?」
「着いたぞ」

 言われてマーロゥがキョロキョロと辺りを見回すと……そこは、人で溢れた正門付近の光景であった。
 未だに壊れたままの正門付近にはエルアーク守備騎士達が並び、行商人の馬車達を整列させている。
 忙しそうなその光景を見て、マーロゥは感心したようにはぁと呟く。

「どうやら、ただ遅れてただけみたいですねえ」

 キャナル王国は様々な物品について、輸入に頼る部分が大きい。
 それはキャナル王国が突出した産業を持たないという部分にも起因するのだが、自国で何も生産していないというわけでもない。
 ただ、聖銀製の品や各種の美術品や細工品であれば聖アルトリス王国、強靭な武具や金属製品であればサイラス帝国、農作物であればジオル森王国……といったような確固たるブランドを確立できていないのもまた事実である。
 しかしながら、その「全ての人類は平等である」という公平性から各種の取引の中継点とされてきたのも事実であった。
 四大国の中では一番新しい国でありながらも一角となるまでに成長したのは、そうした事情もあったと言われている。
 キャナル王国側としてもそれは充分に理解している為、内戦中の現在も何処に向かう行商人でも襲わず守るという不文律が出来上がっていた。
 それであるが故に、行商人側としても理屈も言葉も通じないゴブリンやビスティア、その他の魔物を撃退できるだけの護衛さえ揃えば気軽にキャナル王国へとやってくる。
 血と暴力に狂った革命ならばともかく、正統なる王権を主張する内戦は先に理を失った方が負ける。
 故に、一般市民が殺害されるような愚はどちらも避けており……そうした事情もあってか、未だに両軍は本格的な衝突をしていない。
 セリス王女に従う騎士団の損耗もゴブリンやビスティア、そしてアルヴァとの戦闘によるものが大きい。
 そうした事情もあり消耗度でいえばセリス王女の配下の方が大きく、そろそろナリカ王女が本格攻勢に出るのではないかと言われてはいたのだが、それはともかく。
 今正門付近に行商人達がいるのも、少しばかり時間的にずれていることを除けばおかしいことではない。

「……しかし、マジでいねえな」

 アウロックが辺りをウロウロとしながら、ノルム達の姿を探す。
 行商人に護衛の冒険者、エルアーク守備騎士。
 こんな正門が壊れた状況でも商売に精を出す店の店員。
 壊れた正門の瓦礫の側に座り込み、じっと行商人達を見つめている黒騎士クロの姿。
 何処にも、ノルム達の姿は無い。

「困ったな……闇雲に探しても意味ねえしなあ……」

 実は壊れた正門に上ったりしてるんじゃないかとアウロックが目を細めて正門付近を眺め……もう少し近くで見ようと歩き始めた、その時。

「きゃっ!」

 何かがぶつかる音と共に、マーロゥの短い悲鳴がその耳に届いた。
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