勇者に滅ぼされるだけの簡単なお仕事です

天野ハザマ

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連載

その先に光はあるか16

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「マーロゥ? おーい?」
「ふぇ!? は、はい! だいじょぶです、はい!」

 アウロックが振り返ろうとすると、マーロゥはささっと素早い動きでアウロックの視界の外に逃れて背中にぺたっと張り付く。

「ちょ、ちょちょっと、事情というものがありましてですねっ。すぐになんとかなりますから、どうかこのままでっ」
「別にいいけどよ。んじゃ行くぞ」
「は……はひ」

 背中にマーロゥをぺたりとくっつけたアウロックはそのまま前に進み、マーロゥはその背後からアウロックにくっついたり離れたりしてみながら続く。
 時折動きが躊躇いがちにはなるが、それでも手だけはしっかりとアウロックの服の裾を離さない。
 その理由としては単純なもので、マーロゥの顔が赤くなったり青くなったりしているからである。
 赤くなっている理由としては、どうしようもないくらいの「嬉しさ」に似たような、それでいて違うような何か……とにかく今まで感じた事がないような何かをアウロックに対してマーロゥが抱いているからである。
 ひょっとすると、これが家族というものの嬉しさなのかもしれない。
 マーロゥはそう考えると同時に、悟られて否定されたくないという思いが湧き上がるのも感じていた。
 それは自分如きが、という極めてネガティブな感情であり、知られる事は嫌われる事だという方程式で構成されていた。
 更に今の切迫した状況で浮かれていることを知られれば「不謹慎な奴」と罵られるかもしれないという恐れもあった。
 そしてそれは「このままだと嫌われてしまう」という感情に集約し、マーロゥの中から浮いた思考を全部奥底に沈めきることに成功した。
 結果として出来上がった「少しだけ顔の青いマーロゥ」は、全く気にせずスタスタ歩いているアウロックから離れて……それでも服の裾だけは離さずに後ろをちょこちょこと歩く。
 しかしながら、その後すぐに止まったアウロックの背中にぶつかって、わぷっという声をマーロゥはあげる。

「よう」
「……ああ。悪いが、ここ最近知り合いが急に増えてな。何処の誰だったかな。いや、見覚えはあるんだ」

 正門の瓦礫に背中を預けていたクロは、声をかけてきたアウロックにそう答える。
 気だるそうなその様子にはおよそ覇気というものが感じられず、住み込みの用心棒としてあちこちから誘われているとは思えない程である。

「おう、復興計画本部のアウロックだ。話しかけるのはこれが最初だと思うぜ」
「そうか。私はクロだ。復興計画本部というのはあれだろう、此処を直すとかいう……おかげで私の気ままな生活は終わってしまいそうだ」

 少しばかり不満そうな目を向けられて、アウロックは肩をすくめる。

「別に此処で仕事してるわけでもないだろうに、門を守るのは騎士に任せとけよ」
「門を守る?」

 そう言われたクロは、わけがわからないと首を傾げてみせる。

「それを言われる度に言っているんだが、私は門を守っているつもりは無いぞ。連中が私に殺気を向けてくるから排除しているだけだ。まあ、それが門を守っているということに繋がるのであれば……それはよかったな、という程度か」
「ほー。まあ、んなことはどうでもいいんだよ」
「そうだな」
「ええっ!?」

 どうでもいいと切り捨てたアウロックと、あっさり話を打ち切ったクロにマーロゥが驚き……しかし、すぐに口を手で覆って黙り込む。

「お前の連れか」
「マーロゥって名前だ。で、だ。普段此処にメタリオみたいな連中が居ると思うんだが」
「ああ、知っている。騒がしい連中だ」
「ど、何処にいるかご存知ですか!?」

 アウロックの背後からマーロゥが声をあげると、クロはうーんと呟きながら行商人の列へと視線を戻す。

「確か、裏門のデザインがどうのこうのと言っていたように思うが」

 それを聞いて、アウロックとマーロゥは同じ考えに達する。
 恐らくは、デザインの話でまたひと悶着あったのだろう。
 何しろ毎日暇なのだ。
 すでに終えた設計をどう改良できるか日々研究した果てに、他の門を何らかのサンプルとして再確認しに行ったのだろう。
 確か数日前にも「門が複数存在する意味と正門という存在の成すべき役割について」とかいう議論で数日費やしていたはずだ。

「あー……そうかい。分かった、そっちに行ってみるよ」
「そうか」

 それきりアウロックに興味をなくしたように行商人達に視線を向けるクロをじっと見た後、アウロックもまた行商人達に視線を向ける。
 その視線の先には順番待ちをする行商人とその馬車、そして護衛の冒険者達の姿がある。

「……今日は遅いよな、連中」
「ああ。それにどうやら何処かでいつもより激しい襲撃も受けているな」

 自分の興味ある話題のせいか、クロはそうしてアウロックへとちらりと視線を向ける。
 勿論、すぐに視線は馬車へと戻ってしまうが……アウロックは気にせずに会話を続け、マーロゥはちらちらとアウロックとクロを見比べる。

「しゅ、襲撃って……盗賊とかです、よね」

 あえてゴブリンとかビスティアと言わない辺り「魔族は仲間」と認識し始めたマーロゥの配慮がみてとれるが、アウロックもクロもそうした細かいことは一切気にしては居ない。

「そうだな。しかも大規模な襲撃だったのは確定だ」
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