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その先に光はあるか19

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アウロックが久々に気持ち悪いです。
あらかじめ、ごめんなさい。
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 ニノは恋人なのか。
 その質問に、アウロックの顔は歓喜で赤く染まる。
 その瞬間にマーロゥの顔が少し青くなるが、その間にも普段動かないアウロックの思考は全力稼動を始める。

 心情としては、ここで「その通り」と答えたい。
 自分こそがニノの恋人であると全世界に宣言したい。
 しかしながら、それは事実ではない。
 無論宣言して外堀を埋め既成事実にしてしまうという手もある。
 しかし、そんなことをすれば物理的に埋まるのは自分であることも分かっている。
 ここでマーロゥにだけそれを言うという手もあるにはあるが、何処に目があるか分からない。
 何かの拍子にマーロゥがポロっと漏らしでもしたら、アウロックの命が割と本気で危ない。
 ただでさえ最近、ジオル森王国でネファスとかいうクソガキがニノにしつこくアプローチをかけているという情報もある。
 とんでもないガキである。
 ニノの番……もとい伴侶となって未来に強い子孫を作るのはすでにビスティアという枠を飛び越えて魔獣となった自分以外にはありえない。
 それは勿論、ラクターのような理不尽極まりない強さを持った相手と比べれば弱いという自覚はアウロックにもある。
 鍛えてやるとか寝言を言いながら喜んで襲ってくるので口が裂けても言わないが、やがて超えてやろうという意思はある。
 そうなればもう、ニノとて自分に惚れるだろうという自信もある。
 勿論根拠は無い。
 こんなことを考えていると知れた時点でニノにウザいとボコられそうでもある。
 その未来が簡単に見えてアウロックの顔がすっと青くなると、マーロゥがオロオロとし始める。

「あ、あの……何か変なこと聞いちゃいましたか?」

 変なこと。
 何も変なことではない。
 アウロックのニノに対する気持ちは純粋である。
 純粋に強いニノに惚れただけである。
 あのグディオンとかいうデカブツみたいにボコられて踏まれる度に何か嬉しそうな変態とはワケが違う。
 思い出したらちょっと寒気がしてきたが、それがニノなりの好意の示し方だとしたらどうだろう。

「……なあ。好きな人のことって、踏みたくなるものかな」
「え、ええっ!?」

 真面目な顔で聞かれてマーロゥのウサギ耳がピーンと立つ。
 全く意味が分からなかった。
 分からないが、分からないなりに考えて。
 顔を赤くしたり青くしたりしながら、マーロゥはぐっと拳を握る。

「そ、そういうのはよく分からないですけど……私、頑張ります!」
「ん、そうか」

 どうやら理解されがたい方向性らしい。
 マーロゥが何を頑張るのかは分からないが、頑張るのはいいことだろうとアウロックは勝手に納得する。
 となると、いくら思考の読みにくいニノでも「そういう嗜好」という可能性は低いだろう。
 ならば、グディオンに可能性は無いな……ざまあみろ、とアウロックはニヤリと笑う。自分の可能性もゼロであることは考慮していない。
 その笑みを見てマーロゥが顔を赤く染めているが、アウロックの視界には入っていない。
 アウロックの頭の中にあるのは、この場でするべき最高の回答についてである。

「……」
「あ、アウロックさん……」

 何処か遠い目……勿論遠くのニノを想う目だが、それが偶然マーロゥの視線と合う。
 自分の奥底を見通すような目にマーロゥの胸が慌しく鳴り、しかし目を逸らせずマーロゥはアウロックの瞳を見つめ返す。
 まさか、自分が全く視界に入っていないとは思いもしないだろう。
 しばらく無言の時間が続き……ようやく台詞を思いついたアウロックは、カッコつけるようにその台詞を口にする。

「想像に任せ……ん?」

 気付けば、視界にマーロゥがいない。
 気配はあるのだからいるはず……と考えてキョロキョロと辺りを見回したアウロックは、壁に手をついてぷるぷる震えているマーロゥを見つける。

「……どうした? 具合でも悪いのか?」
「だ、大丈夫でひゅっ。ちょ、ちょっとだけ待ってくださいっ!」
「お、おう。それはいいけどよ、キツいようなら」

 アウロックがマーロゥの肩に触れると、マーロゥはひゃあーと叫んで壁にぺったりと張り付いてしまう。

「……うーん。えい」
「ぴゃあああっ!」

 少し考えたアウロックはマーロゥをべりっと壁から剥がすと、その腕に抱え込む。

「よく分からんが、大分時間もくってるし……運ぶぞ」
「ま、待ってくだひゃいっ」
「待ちたいけどなあ。あんまし時間かけて何処かに連中が行っても面倒だ」

 そう言うと、アウロックは走り出そうとし……マーロゥはキャーと叫んでアウロックの腕の中から慌てて降りる。

「らいひょうぶふぇすひゃら! 大丈夫でしゅから!」
「……あんまり大丈夫でもなさそうなんだが」
「大丈夫です!」

 顔を真っ赤にして力説するマーロゥに、アウロックはそうかと頷く。
 ついでに、今日は早めに休ませようとも考える。

「んじゃ、裏門行くか」
「はい!」
 
 色々思考がズレたら元に戻ったアウロックと、思考がグルグル回ってテンションも上がったマーロゥは、裏門に向けて急ぎ足で向かっていく。
 そんな二人の近くを、行商人の馬車がガラガラと音を立てて通り過ぎていく。
 お昼時を大分過ぎた街の喧騒は少しだけ静かになり……しかし、街の人々の一日はまだまだこれからである。
 
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「思考における可能性の自己呈示」というものは、あくまで私見ですが「ありえない可能性」は意図しなければ無意識に排除している気もします。
何を言いたいかというとまあ、今回のアウロックの気持ち悪さはそういうことです。
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