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光、見えなくても3
しおりを挟む指揮役の騎士は、自分の足元の床がバキリと音を立てたのを感じた。
同時に気付いたのは、自分の足に絡みつく何かの感触。
まさか、今の女の魔法か……と。
そう考え見下ろした先にあったものは、白い手。
無数の白い手が、指揮役の騎士を捕らえているのだ。
「う、お……!?」
なんだか分からないが、拙い。
このままでは、動くことが出来ない。
いや、違う。
この白い手だ。
これは何なのか。
焦りのままに、指揮役の騎士は自分と対峙していた青いメイドを見る。
だが、何時の間にだろうか。
青いメイドは攻撃の手をやめ、指揮役の騎士を虚ろな目で見ているだけだ。
いや、青いメイドだけではない。
その背後のほうにいる黄色いメイドも……戦っていたはずの他の騎士達もまた、虚ろな目でだらんと手を下げている。
全ての音は無音となり、響くのは指揮役の騎士の声だけだ。
「お、おい……?」
その不気味さに、思わず指揮役の騎士は手を伸ばす。
その手が青いメイドに触れようとした刹那、青いメイドは指揮役の騎士の手をガシリと掴みゲラゲラと笑い出す。
笑い出した青いメイドは、口から闇色の泥のような何かを吐き出しながら笑い続ける。
「な、あ……?」
一体何が起こったのか。
理解できない騎士の耳に響くのは、連鎖する笑い声。
黄色いメイドが、他の騎士達が……闇色の泥を吐き出しながらゲラゲラと笑う。
目から。
耳から。
口から。
どろどろと流れ出るそれは、部屋の中に闇の池を作る。
「なんだ、なんなんだ!? 貴様、一体何を……ひいっ!?」
先程階段から降りてきた少女。
この中にあって唯一変わらぬ笑顔を浮かべていた少女の姿が、どろりと溶ける。
溶けて、闇の池の中へと消えていく。
どぷん、どぷんと音が響く度に、闇の池はその深さを増していく。
逃げなくてはならない。
此処にいてはいけない。
だが、どうすれば。
「そうだ、扉……!」
自分達が蹴破った扉へと振り返り、走り出そうとして……未だ自分を掴んだままの白い手を強制的に思い出し、指揮役の騎士は叫ぶ。
「離せ、離せぇ!」
剣を振るい、白い手の一本を傷つけると……白い手達は、恐れたように手を離す。
その瞬間に指揮役の騎士は駆け出し、闇の池の中をざぶざぶと走って入り口へと向かう。
「くそ、なんだ……何が起こったというんだ!」
悪態をつきながら、指揮役の騎士は入り口へと走る。
ざぶざぶと音を立てながら、入り口へと向かう。
「あの入り口……あそこまで行けば!」
今までと変わらぬ光景の見える入り口へ向かって指揮役の騎士は走る。
ざぶり、と闇の池から指揮役の騎士は抜けて……無事に、入り口を通り抜ける。
「は、ははっ! なんだか分からんがざまあみろ! 怪しげな魔法など私に……は?」
入り口を通り抜けた、その瞬間。
指揮役の騎士は、その足元の真っ暗な闇の中に落下する。
「ぬ、あああっ!?」
それでも、指揮役の騎士は驚異的な反応を見せて穴の端を掴む。
そのまま何とか上に上がろうと、そう考えて。
しかし、その瞬間に建物の中から流れ出てきた闇の泥が穴の中に流れ込む。
穴の全てを埋め尽くさんという勢いで流れ込む闇の泥は指揮役の騎士の穴という穴に流れ込み、無数の嘲笑と哄笑をその頭の中に響かせる。
空を見上げていたはずの視界も、いつの間にか闇色に染まる。
やがて、自分が縦なのか横なのかも理解できなくなって。
指揮役の騎士は、掴んでいた手を離す。
ごぼり、と。溺れるように闇の泥の中を指揮役の騎士は沈んでいく。
沈んで、沈んで……少しずつ、溶けていく。
どろり、どろりと。
意識すらも闇の泥の中へと拡散していき……やがて、何もかもが霧散する。
そうして目覚めた先にあったのは、最初の広間の光景。
こちらに向けて大盾を振るう青いメイドの攻撃を反射的に弾き、そのまま踏み込み切り裂く。
悲鳴すらあげずに倒れる青いメイドの姿を見ながら、指揮役の騎士は今までのものが幻であったのだと気付く。
「……は、ははっ。そういうことか! くだらぬ技を使いおって! だが見よ! 結果はこうだ!」
そう言って、指揮役の騎士は床に倒れた自分を踏みにじる。
「……は?」
その不思議を理解できる暇すら与えられぬうちに天井を突き破って降ってきた巨大な剣が、指揮役の騎士を真っ二つに切り裂いて。
再び、騎士は最初の光景に戻る。
真っ二つに裂かれた感触もリアルなままに、指揮役の騎士は階段の前に立つ女を睨み付ける。
「お前だ! お前さえ倒せば!」
剣を握り、指揮役の騎士は突撃する。
イメージするのは矢。
どんな遠い距離であろうと敵を貫く鋭き矢をイメージする。
そして次の瞬間、指揮役の騎士の身体はぎゅるりと捩れる。
全身鎧が幸いしたか、その姿はイメージした通りに正しく金属矢であるだろう。
……まあ、放つ者の居ない矢になど意味は無いのだが。
ごとんと音を立てて、指揮役の騎士だったものは床に転がって。
再び、騎士は最初の光景に戻る。
そして繰り返すのは、無限のような死。
およそ人間の死に方ではない死に方を幾度と無く繰り返す。
その全てが幻だと気付きながら、その痛みに呻いて。
現実の定義すら曖昧になりながら、幻の中で指揮役の騎士は死に続ける。
本当の「現実」では、彼を含む建物内に踏み込んだ騎士全てが、幻に苦しみ倒れたままであるということに気付かないままに。
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