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光、見えなくても9

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「な、なんですかあれ……」

 マーロゥが、答えを求めるようにアウロックを見上げる。
 しかし、問われたアウロックも明確な答えなど持ってはいない。
 それは、外見だけで言うならば不気味な鎧を纏う白骨死体だ。
 だが、明らかに「ただの白骨死体」ではない。
 それは崩れる事もなく直立し、しかし動かぬまま佇んでいる……ようにも見える。
 あまりにも不気味で、あまりにも異質なその姿。
 それに何か言えることがあるとすれば……あれは確実に人間などではない、ということだ。
 その鎧纏う骸骨は、カタリと動き……その両手に、落ちていた剣が引き寄せられるように収まる。
 兜を被ったドクロはカタカタと笑い、強い魔力を放出し始める。

「アルテジオ様……お下がりを!」

 大盾を構えたマリンが前に出ると同時に、落ちていた剣が一斉に浮き上がりアルテジオ達へと向けて飛来する。

物理障壁アタックガード!」

 マリンを起点として広がった物理障壁アタックガードがその場の面々を包み、飛来する無数の剣の雨を弾き返す。

「これは……!」

 それは、ただ投擲しただけとは違っていた。
 無数の剣の雨はその実、無数の剣による斬撃であったのだ。
 マリンの物理障壁アタックガードに弾かれて尚四方八方から斬りかかる剣の群れは、対抗する術無くば簡単に相手を無惨な姿に変えるであろう威力を秘めている。
 ギン、ギン、ガンと響く音は激しく、その凄まじさにマーロゥは顔を青くしてすらいる。

「剣を操る魔法……? いや、それにしてもこれ程の数を……」

 斬撃と物理障壁アタックガードのぶつかり合う甲高い音が絶え間なく響く光景を、冷静な表情でアルテジオは分析する。
 そもそもの話になるが、魔法で物体を動かすというのは言うほど簡単ではない。
 精緻な動きをさせようとすればするほど難度は高まり、それがこれ程の数となればどれ程になるだろうか。
 視界を覆わん勢いで暴れまわり弾かれる剣は、あの骸骨剣士の実力をも示しているとも考えられるが……あまりにも、常軌を逸している。
 そんなものが、あの騎士達から出来上がった事実の示すものを考え……そこでアルテジオは、何かに気付いたようにハッとしたように顔をあげる。

「レモン、許可します。吹き飛ばしなさい!」
「え!?」
「はい。爆炎弾ボルカノンショット

 クリムの驚きの声とレモンの詠唱が重なり、剣の群れが吹き飛ばされる。
 それと同時に、他の無事な剣もガシャリ、ガシャリと音を立てて地面に落ちる。

「え、いませんよ……!」
「これが狙いですか……!?」

 クリムの驚愕の声と同時に叫び、アルテジオは走り出す。
 そう、其処にはすでに骸骨剣士は居ない。
 先程、アルテジオが気付いたのは骸骨剣士が身を翻し走る気配。
 あの無数の剣による斬撃は、単なる魅せ技に過ぎなかったのだ。
 その凄まじさに誤魔化されてはいたが、よくよく見れば動きも規則的に過ぎない。
 それでも相当に高度な技ではあるのだが……その全ては、囮であったのだ。
 
「う、うわあー! 魔族の襲撃だあ!」
「ちいっ!」

 アルテジオが壊れた入り口から出て行くと、クリムが疑問符を浮かべながらおろおろする。

「え? え? ど、どういうこと?」
「……魔王様から一部の者のみ聞かされていることですが」

 大盾を下ろしたマリンが、声を潜めるようにしてそう呟く。

「恐らくは命の神の手による、敵対勢力の魔族が存在します。確認されているのは魔王シュクロウスの配下、剣魔。他にも杖魔、槍魔、弓魔といった魔族の存在が予想されています。アレも恐らくは……人間に化けていた、のでしょうか?」
「それって、イクスラースさんみたいな……」
「未確定情報でしたが、ね」

 恐らく与えられた任務は、ヴェルムドールの目的の妨害。
 そんな事をして何の利があるのかはサッパリ分からないが、そうであると考えなければ説明がつかない。
 そしてあの骸骨剣士もまた、それの手先であるのだろう。
 色々と奇妙な点はあるにはあるが、あの骸骨剣士はその存在を裏付けるものだといえるだろう。
 あの骸骨剣士はよりにもよって、この復興計画本部から飛び出して行ったのだ。
 場合によっては面倒な事になるし……あるいは、それを狙っていたとも考えられる。
 あの不気味な姿は、「凶暴で凶悪で醜悪な魔族」をイメージ付けるにはうってつけでもある。

「え、ええっ!? それって、追いかけないと危ないんじゃ」

 マーロゥが言いかけた時、外から歓声のようなものが聞こえてくる。

「……アレが何者であろうとアルテジオ様から逃げ切れるわけがありません。我々が心配すべきはむしろ」

 マリンの台詞の途中で、ドカドカと荒々しい音を立てて敷地内に踏み込んでくる音が聞こえてくる。
 明らかにアルテジオの足音ではなく……たとえるなら、襲撃者のそれに似ている。
 
「ついに正体を現したな、魔族め! 混乱に乗じて街を襲うお前等の企み、しかと見たぞ!」
「……こういうバカの対処です」

 壊れた入り口前に颯爽と現れた一団に、マリンは露骨な舌打ちをしてみせた。
 
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