勇者に滅ぼされるだけの簡単なお仕事です

天野ハザマ

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光を探して

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 セリスの即位宣言はエルアーク中に広がり、それに続くように出された終戦宣言は人々に更なる歓喜を与えた。
 これでようやく、元の暮らしになる。
 そう考えた者が多かったのだろう。
 この内戦は騎士団同士のぶつかり合いであった為、基本的に一般国民にとっては雲の上の戦いであったような印象がある。
 それでいて色々なものに影響があるものだから、「早く自分の望む形で終わって欲しい」などと身勝手な望みを抱く者もいた。
 たとえば他の街にいるナリカ王女派や、あるいはエルトリンデ王女派だった者の中には後日不満を抱く者もいるであろうことは充分に予測され……それ故に、「セリスクラウン」の存在は実に効果的であるだろうと思われた。
 それらの問題は今後、山のように噴出してくるであろうが……それはさておき、「終戦」と「新王即位」を喜ばない者は今はエルアークには居ない。
 ……だからこそ、時間がたてばたつほど王城前に集まる人々は多くなり……いい加減不機嫌になり始めたイクスラースを背負ってヴェルムドールが適当な窓を見つけ潜入した頃には、城の中は新王即位に関わる諸々で文官達があちこち走り回っている最中であった。
 ヴェルムドール達の入った場所は何処かの廊下であり……丁度、人の居ない区域でもあった。
 ようやく建物の中に入れたイクスラースは、髪を手櫛でときながら溜息をつく。

「……まったく、酷い目にあったわ」
「そう言うな。久々に何もせずゆっくり出来たと思えばいいだろう?」

 ヴェルムドールがなだめると、イクスラースは呆れたような目でヴェルムドールを睨む。

「あれは無為に過ごした、って言うのよ。でもまあ……貴方は放っておくと何かやってるから、たまにはああしたほうがいいのかもしれないわね?」

 あとでイチカにも提案しておきましょうか、などと恐ろしい事を呟いているイクスラースの肩にヴェルムドールは手を置くと、そのままくるりと回転させて自分のほうへと向かせる。

「まあ、待て。俺が忙しそうに見えるのかもしれんが、それにはしっかりとした理由があるんだ」
「理由も何も貴方を最上位で最終意思決定者に据えた国家形式だってだけでしょうが。貴方が居なくてもある程度回るようにしてるくせに、活用しないからそうなるのよ」

 ザダーク王国の国家形態はいわゆる絶対王政に似ている。
 魔王ヴェルムドールという絶対的な王をトップに置き、その下の四方将と四方軍に権限を分割し「貸し与える」と定義しているのである。
 こうした政治形態は珍しいものではなく、キャナル王国も「王」をトップとして、その下に大臣などの文官を置き「王の意思」を遂行する為の権限が与えられる。
 これはつまり王は最低限の意思表示をすれば済むようにしているからであり、「全体の流れ」のさわりの部分を把握して「よきにはからえ」とする為のものである。
 モノによっては王の目にすら届かない「瑣末な」案件もあるのだが……ザダーク王国ではこの辺りの分別をせずに、とりあえずヴェルムドールの元へ届くようになっている為に時間がかかっているのだ。
 これは所謂、大臣といった存在の有無が関わってくるのだが……ヴェルムドールの不在時にはイチカやゴーディ、あるいはロクナがその役目を果たす為、これまでどうでもいいとしていた経緯もある。

「もういっそ、ロクナかイチカあたりを大臣にしておきなさいよ」
「いや、しかしなあ……。イチカは今でも充分忙しいし……ロクナはこれ以上仕事を押し付ける気かって怒りそうだぞ?」
「ならゴーディでいいじゃない。どうせ苔むしてるんだから、中央将を大臣に位置づけて仕事回しなさいな」

 アレは意外に上手く部下使って仕事してるわよと言われて、ヴェルムドールは考える。
 そういえば、確かにゴーディは裏庭で苔むしていることが多いが……一応中央軍を纏める中央将という立場であったはずだ。
 他の将と比べ範囲が狭いとはいえアークヴェルムや魔王城内の警備の管理等、日々の仕事は雑多にあるはずだ。
 決して苔むしている暇はないはずなのだが……実はそういうことだったのだろうか。
 
「部下を上手く使うのも仕事のうちよ。貴方の危惧するところは理解するけれど、王は悠然としている姿を見せるのも大事なことよ?」
「……考えておこう」

 そうしなさいな、と言うイクスラースの頭にポンと手を置いて叩かれると、ヴェルムドールはそういえば、と考える。
 そういえば、キャナル王国の政治形態では「文官」の存在が何より重要となる。
 今回の内乱においては文官も当然セリス王女派とナリカ王女派に分かれたはずだが、その辺りはどうなっているのだろうか。
 前にこの城に来た時には文官達は恐れて部屋に篭っているとかで、ロクに会っても居ないことを思い出したのだ。
 決して無能だと断定するつもりは無いが……それでも前王の暴走を許し、今回の内乱でも役に立っていたのかどうかすら不明な者達でもある。
 
「……文官、か」

 折角内乱が終わっても、その文官によってセリスの治世が混乱したのでは意味は無い。
 出来れば会っておきたいが、あまり内政干渉し過ぎるのも如何なものか。
 ジオル森王国の時のように派手に動ける時期は、とうに過ぎている。

「……まあ、いい。セリス殿に挨拶をしたら、復興計画本部に行くとしようか」
「あら、帰らないの?」
「向こうに顔を出してからだな。それに……そうだな、どうせ数日は外交で忙しくなる。中央将兼、国王補佐役の真の実力を見極めるいい機会でもある」

 楽しそうに笑いながら廊下を歩き始めるヴェルムドールの服の裾を、イクスラースは慌てたようにぐいと引っ張る。

「待ちなさい。その役職名は再考なさい」
「何故だ?」

 不思議そうに問うヴェルムドールに、イクスラースは至極真面目な顔で答える。

「自分こそ魔王ヴェルムドールを一番補佐できているって自負する連中がどれだけいると思ってるのよ。命がけの最強決定戦を見たいんじゃなければ、もっとぼやっとした役職名を考えなさい」
「……そうだな。向こうに戻るまでには考えておこう」

 その光景が鮮明に想像できたヴェルムドールもまた、真面目な顔で頷いた。
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