303 / 681
連載
魔剣技3
しおりを挟む冒険者ギルド仮本部。
「仮」というと微妙にも聞こえるが、これには事情がある。
キャナル王国の内乱に伴い他国へと移動していた冒険者ギルドの本部だが、内乱の終結を受けて再び本部をキャナル王国の首都、エルアークに戻そうという決定がなされ「仮本部」が出来たというわけだ。
「元に戻す」というだけであればそもそも本部は聖アルトリス王国にあったのだが、平等を謳う冒険者ギルドが今の聖アルトリス王国に戻るという選択肢はなく、「平等」を取り戻したキャナル王国が一番良いという結論なのであるが……それはさておき。
かくもフットワークの軽い冒険者ギルド仮本部であるが、元々この国で用意していた「本部」の建物をキャナル王国側が無償提供している為に、あとは人員自体の移動が済めば完了といったところである。
……まあ、そもそも馬車でガタゴトと揺られながら来る職員の到着にはしばらくかかるし、護衛がてらに本拠地を移そうかと移動してくる冒険者達が集合するのにも時間がかかる。
しかし平和になったとなれば様々な活動は活発になるもので、凶暴な獣や何処にでも増えるゴブリンなどはそれを阻害する主たる要因である。
騎士団は内乱で再編成中で期待できない。
……となれば、当然人々が頼るのは冒険者であり冒険者ギルドである。
冒険者ギルドには自然と依頼が集まり、しかし現状では依頼が溜まる一方という現実がある。
勿論ギルド側としては手が回らないので断りたいのだが、「そこをなんとか」とか「期限は無しでいいから」とか「報酬を上乗せするから」とか、更に泣き落としまで加わっては断るわけにもいかなくなる。
その為、今日も増える依頼が貼られていく掲示板と手元の依頼書の束を見ながら溜息をつく犬の獣人のギルド職員は、ギイと鳴る扉の音に反応して笑顔を浮かべる。
「ようこそ、冒険者ギルドへ!」
どのようなご用件ですか、などとは言わないのが基本である。
過剰な声かけは客を萎縮させるだけであり、「自由」を阻害する要因でもあるからだ。
なので、そのまま声をかけられるまで放置しようと考え……しかし、現れた二人の姿にギルド職員は驚きのあまり椅子からガタンと音を立てて立ち上がってしまう。
その二人は、今エルアークではかなりの有名人だ。
人間の魔法剣士、カイン。
幼さを残した容貌と、分け隔てなく優しい性格。
しかもセリス王の助けとなって戦ったらしいという経歴をも持つ凄腕だ。
それでいて聖アルトリス王国のエディウス冒険者学校で学ぶ「卵」だというのだから、まさに驚きという他は無い。
そしてもう片方は、魔族の魔法剣士サンクリード。
こちらはカインとは対照的に凛とした美形で、「魔族」という言葉から連想されるゴブリン達のようなイメージとは違う……人間だと言われても納得してしまうような姿であった。
そんな二人が最近一緒に行動しているらしいという噂は聞いていたが、実際に見たのは初めてであった。
人間と魔族。
相容れないというのが常識であった二人が仲良く……かどうかは分からないが、とにかく二人で冒険者ギルドに来るという事態に、ギルド職員の頭は混乱していた。
一体、何をしに来たのか。
カイン一人ならばともかく、サンクリードは冒険者登録などしていないはずだ。
友好条約を早くから結んでいたジオル森王国ならば分からないが、しかし知る限りではそのような報告など無かったはずだ。
「……」
ギルド職員はゴクリと喉を鳴らすと、獣人の耳の良さを駆使して聞き耳をたてる。
本来はあまり良いことではない。
プライバシーは重要視されるべきものであり、ギルド職員といえどあまり立ち入るべきものではない。
しかし、と思う。
しかし、しかしだ。
何しろ相手は今一番有名な二人だ。
注目すべき二人が何を目的に冒険者ギルドに来たかというのは、非常に重要な事だ。
そう、これは個人的な興味では断じてない。
そう自分を納得させて、聞き耳をたてていると……二人の会話が聞こえてくる。
「やっぱりゴブリンじゃないですか?」
「そうだな。その辺りが妥当だろう。この大陸のゴブリンはどうしようもないが、数だけはいるからな……」
「ていうか、いいんですか?」
「元より仲間などと考えた事は無いな。殲滅するのに何のためらいも無い」
ヒイ、と叫びたくなるのを抑えてギルド職員はプルプルと震えだす。
一体何の話だというのか。
何に対してゴブリンが妥当で、何を殲滅するのにためらいが無いのか。
思わず頭を抱えそうになる職員の前のカウンターに手が置かれ、顔をあげると……そこには、サンクリードの姿がある。
カインは何処に行ったのかと見回せば、どっさりと依頼の貼られた掲示板を興味深そうに見ているのが見える。
「な、なにか御用でひょうか?」
「ああ、聞きたいことがある」
噛みそうになりながらも笑顔で応対するギルド職員に、サンクリードは世間話でもするかのように答える。
「そこのカインを主体に依頼をこなそうと思うんだが、この場合は冒険者登録とやらをしていない俺が関わったら問題があるか?」
「え? えーっと……え?」
普通の初心者みたいなことを聞かれたギルド職員は思わず首を傾げる。
「やはり問題があるのか? すまないが、あまり詳しくないんだ」
「ん、え、えーっと……」
混乱していたギルド職員は、サンクリードの台詞を頭の中で反芻し、その意味を考える。
「……ん、っと……」
「ハッキリ言ってくれていい。ああ、解決方法があるなら提示してくれれば助かるんだが」
少しの沈黙の、その後に。
「申し訳……ありませんでしたあっ!」
ギルド職員は、カウンターに打ち付ける勢いで頭を下げたのだった。
2
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな
七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」
「そうそう」
茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。
無理だと思うけど。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。