勇者に滅ぼされるだけの簡単なお仕事です

天野ハザマ

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魔剣技3

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 冒険者ギルド仮本部。
「仮」というと微妙にも聞こえるが、これには事情がある。
 キャナル王国の内乱に伴い他国へと移動していた冒険者ギルドの本部だが、内乱の終結を受けて再び本部をキャナル王国の首都、エルアークに戻そうという決定がなされ「仮本部」が出来たというわけだ。
「元に戻す」というだけであればそもそも本部は聖アルトリス王国にあったのだが、平等を謳う冒険者ギルドが今の聖アルトリス王国に戻るという選択肢はなく、「平等」を取り戻したキャナル王国が一番良いという結論なのであるが……それはさておき。
 かくもフットワークの軽い冒険者ギルド仮本部であるが、元々この国で用意していた「本部」の建物をキャナル王国側が無償提供している為に、あとは人員自体の移動が済めば完了といったところである。

 ……まあ、そもそも馬車でガタゴトと揺られながら来る職員の到着にはしばらくかかるし、護衛がてらに本拠地を移そうかと移動してくる冒険者達が集合するのにも時間がかかる。
 しかし平和になったとなれば様々な活動は活発になるもので、凶暴な獣や何処にでも増えるゴブリンなどはそれを阻害する主たる要因である。
 騎士団は内乱で再編成中で期待できない。
 ……となれば、当然人々が頼るのは冒険者であり冒険者ギルドである。
 冒険者ギルドには自然と依頼が集まり、しかし現状では依頼が溜まる一方という現実がある。
 勿論ギルド側としては手が回らないので断りたいのだが、「そこをなんとか」とか「期限は無しでいいから」とか「報酬を上乗せするから」とか、更に泣き落としまで加わっては断るわけにもいかなくなる。
 その為、今日も増える依頼が貼られていく掲示板と手元の依頼書の束を見ながら溜息をつく犬の獣人のギルド職員は、ギイと鳴る扉の音に反応して笑顔を浮かべる。

「ようこそ、冒険者ギルドへ!」

 どのようなご用件ですか、などとは言わないのが基本である。
 過剰な声かけは客を萎縮させるだけであり、「自由」を阻害する要因でもあるからだ。
 なので、そのまま声をかけられるまで放置しようと考え……しかし、現れた二人の姿にギルド職員は驚きのあまり椅子からガタンと音を立てて立ち上がってしまう。
 その二人は、今エルアークではかなりの有名人だ。
 人間の魔法剣士、カイン。
 幼さを残した容貌と、分け隔てなく優しい性格。
 しかもセリス王の助けとなって戦ったらしいという経歴をも持つ凄腕だ。
 それでいて聖アルトリス王国のエディウス冒険者学校で学ぶ「卵」だというのだから、まさに驚きという他は無い。
 そしてもう片方は、魔族の魔法剣士サンクリード。
 こちらはカインとは対照的に凛とした美形で、「魔族」という言葉から連想されるゴブリン達のようなイメージとは違う……人間だと言われても納得してしまうような姿であった。
 そんな二人が最近一緒に行動しているらしいという噂は聞いていたが、実際に見たのは初めてであった。
 人間と魔族。
 相容れないというのが常識であった二人が仲良く……かどうかは分からないが、とにかく二人で冒険者ギルドに来るという事態に、ギルド職員の頭は混乱していた。
 一体、何をしに来たのか。
 カイン一人ならばともかく、サンクリードは冒険者登録などしていないはずだ。
 友好条約を早くから結んでいたジオル森王国ならば分からないが、しかし知る限りではそのような報告など無かったはずだ。
 
「……」

 ギルド職員はゴクリと喉を鳴らすと、獣人の耳の良さを駆使して聞き耳をたてる。
 本来はあまり良いことではない。
 プライバシーは重要視されるべきものであり、ギルド職員といえどあまり立ち入るべきものではない。
 しかし、と思う。
 しかし、しかしだ。
 何しろ相手は今一番有名な二人だ。
 注目すべき二人が何を目的に冒険者ギルドに来たかというのは、非常に重要な事だ。
 そう、これは個人的な興味では断じてない。
 そう自分を納得させて、聞き耳をたてていると……二人の会話が聞こえてくる。

「やっぱりゴブリンじゃないですか?」
「そうだな。その辺りが妥当だろう。この大陸のゴブリンはどうしようもないが、数だけはいるからな……」
「ていうか、いいんですか?」
「元より仲間などと考えた事は無いな。殲滅するのに何のためらいも無い」

 ヒイ、と叫びたくなるのを抑えてギルド職員はプルプルと震えだす。
 一体何の話だというのか。
 何に対してゴブリンが妥当で、何を殲滅するのにためらいが無いのか。
 思わず頭を抱えそうになる職員の前のカウンターに手が置かれ、顔をあげると……そこには、サンクリードの姿がある。
 カインは何処に行ったのかと見回せば、どっさりと依頼の貼られた掲示板を興味深そうに見ているのが見える。

「な、なにか御用でひょうか?」
「ああ、聞きたいことがある」

 噛みそうになりながらも笑顔で応対するギルド職員に、サンクリードは世間話でもするかのように答える。

「そこのカインを主体に依頼をこなそうと思うんだが、この場合は冒険者登録とやらをしていない俺が関わったら問題があるか?」
「え? えーっと……え?」

 普通の初心者みたいなことを聞かれたギルド職員は思わず首を傾げる。

「やはり問題があるのか? すまないが、あまり詳しくないんだ」
「ん、え、えーっと……」

 混乱していたギルド職員は、サンクリードの台詞を頭の中で反芻し、その意味を考える。
 
「……ん、っと……」
「ハッキリ言ってくれていい。ああ、解決方法があるなら提示してくれれば助かるんだが」

 少しの沈黙の、その後に。

「申し訳……ありませんでしたあっ!」

 ギルド職員は、カウンターに打ち付ける勢いで頭を下げたのだった。 
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