勇者に滅ぼされるだけの簡単なお仕事です

天野ハザマ

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誰が為の英雄譚

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 ジオル森王国の首都ロウムレルスには、ルーティの家が存在する。
 元を辿れば離宮であり、英雄であるルーティに与えられた屋敷……というより、宮殿である。
 こんなものを貰っても広すぎて困ると渋ったのを半ば押し付けられた形だが、あくまで貸与されていたはずがいつの間にか「授与」になっていたのを知ったのがつい最近。
 慌てて王たるサリガンに抗議するも、何処吹く風。
 もう其処が離宮だなんて覚えてる者もいないし、大体其方は地位も金も「重い」とか言って受け取らぬではないか。特別扱いの一つや二つくらい甘んじて受けるが良い……ああ、そういえば丁度良い。聖アルトリス王国から先程緊急の使者が来てな。何やら其方に引き合わせたい者がいるらしいから会ってやってくれ。明日か明後日あたりには来るであろう……などと更なる爆弾を落とされたのが、つい今の話。

「……ちょっと、よろしいですか」
「うむ、申すが良い」

 ロウムレルスの王城に存在する、王の私的な部屋。
 豪奢なソファにゆったりと腰掛けてお茶を飲むサリガンに、ルーティは眉間を揉みながら問いかける。

「……今、明日か明後日と仰いましたか?」
「うむ。そう言ったし、そう言っておった」
「私の記憶が確かなら、普通そういう使者はもっと早くに来るのが礼儀では」
「その通りだが、どうにも来る本人というのが変な風に律儀らしくてな。自分の事は自分でやるべきとか主張して出発してしまったのを足止めしつつ、全速力で使者を出したらしい」

 あんなに疲れた顔をした使者を見たのはいつぐらいぶりだったか、と笑うサリガンに、ルーティは溜息をつく。

「……そういうことをするっていうのは、少なくとも向こうの中央の貴族ではないですね。それでいて、近いくらいの権力を持っている。何者なんですか?」
「知らん」
「は?」

 あっけにとられた顔をするルーティに、サリガンは肩をすくめてみせる。

「人間の男で、トールという名前だ。ルイステイル家の庇護下にあるらしいな」
「ルイステイル家……というと、アルトリス大神殿と関わりの深い家でしたね」
「うむ。そこの娘も付き添いで来ると聞いている。護衛は王宮から出しているらしいがな」

 ルイステイル家の娘というと、クゥエリア・ルイステイルの事を指す。
 学園での理知的でしとやかな印象を思い返し、ルーティは頷く。
 

「クゥエリアさんですか。しかし、地位だけで見れば神官長の娘を付き添いにつけ、更には王宮から護衛までつけられる男性、ということになりますね。そのトールとかいう……えー……」
「一応人間でいえば青年期に差し掛かろうかという年齢ではあるらしいな」
「……曖昧ですね」
「人間の年齢的感覚はよく分からんから仕方なかろう。10だろうと40だろうと等しく子供にしか思えんのだから」

 それもそうですが、とルーティは仕方無さそうに頷く。
 ルーティとて、それは同じだ。
 まあ、子供は子供なのだからそこは別にいいだろう。

「それで、そのトールという男は何者なのです? 家名がないということは……」
「王族か、功績をあげておらぬ庶民か……まあ、そんなところであろう」

 人類社会では、「家名」とは特別なものである。
 たとえばルーティの「リガス」という家名は風の神ウィルムと出会い試練を突破した際にサリガンより授かったものだ。
 商人なども領主などから家名を授かることがあるが、それは大抵商会名からとられる。
 たとえば聖アルトリス王国のシャロンの「ティアノート」という家名もそれにあたり、たとえば家名が無い場合は「ティアノート商会のシャロン」であったりする。
 しかしながら「特別」とはいってもそこまでたいしたものでもなく、実際には記念品レベルで授与されるようなものだ。
 たとえば村を襲った熊を打ち倒した男に「キルベア」だの「ベアキラー」だのといった家名が授与されることもあり、「最も多い家名」として知られているくらいである。
 そうした意味では商人は大抵家名をもっているわけだ。
 ……ちなみに当然ではあるが、「つけてはいけない家名」なども存在する。
 その辺りは別の話となるのでさておいて、とにかく「家名」が存在しないというのは「王族」「功績をあげていない庶民」のどちらかとなるのだが……。

「ただの庶民に、そんな大仰な随行がつきますか?」
「ないであろうな。とはいえ、トールなどという王族がいるとは聞いた事が無いが。庶子だとしても、継承権の絡む男子を長年放置出来るほど向こうの貴族も暢気ではなかろう」

 しかし、トールなる男が「ただの庶民」だというよりは説得力がある。

「……神殿が隠していた庶子だとするならば、大きくなるまで見つからなかったのにも理屈が通りますが」
「ハハッ、神殿が王権に絡むか。勇者の功績があるとはいえ、そうなると手には負えんな」
「所詮想像に過ぎませんけどね」

 ふうと溜息をつくルーティに、サリガンはお茶のカップを置いてニヤリと笑う。

「しかし、だとすると面白いかもしれんな。王の庶子が未婚の英雄に会いに来る。しかも王宮の出した護衛付きでだ。未婚の英雄にだぞ?」
「未婚を強調しないでくださいますか?」
「事実ではないか。とにかく、面白いことになりそうだ」

 サリガンの頭の中でどんなストーリーが描かれたかは知らないが、もし本当に「トール」なる青年が会いに来るというのなら、「英雄」たる自分に何かを期待されているのは疑いようもないだろう。
 一体、どんな用件で会いに来るのか。
 一体、その男の正体はなんなのか。
 それを考えると、ルーティは実に憂鬱であった。
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