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英雄会談15
しおりを挟むそれは、ビリビリと部屋の中の空気を震わせるような怒り。
剣こそ抜いていないものの、いつ抜いていてもおかしくないような殺気。
それはイチカから……そして、ファイネルからも同様に発せられていた。
「ファ、ファイネル……?」
「……よく今のを耐えたもんだ」
「え?」
かつて敵であった時のような獰猛な笑みを浮かべるファイネルの台詞に、ルーティは思わず聞き返す。
「今のと同じのを言われたなら……私なら、もう殺しにかかってるところだ」
それは、比喩でも誇張でもない。
全くの本心であり、ただ事実を述べただけだ。
ここで戦闘になっていないのは、イチカの自制心が尋常でなく強固であったという、ただそれだけの話だ。
「お、なんだよ。怒ったのか? でもよお、実際」
「黙りなさい」
「あ?」
「それ以上その話を続けるならば、私と殺しあう覚悟をなさい」
しかし、剣魔はその怒りを正面から受けて尚涼しい顔である。
「何をそんなに怒ってんだよ?」
「私だけならともかく、ヴェルムドール様を侮辱しましたね。ここが配慮の必要な場所で無ければ、貴方を斬り捨てていたところです」
「ん? んん? 侮辱?」
剣魔としては、勿論そんなつもりはない。
単純に思ったことを口にしただけだし、「それが出来るくらい美人」という意味も込めたつもりでもあった。
いわば其処に侮辱の意図など一切ないのだが……これは単純に、互いの認識の差によるものである。
イチカにとってみれば、「ヴェルムドールは女の色香に迷って狂う男だ」と言われたも同然だ。
たとえばこの場に居たのがニノであれば、剣を抜くどころか斬りかかっていた場面であろう。
「そんなつもりはねえんだがなあ……」
頬を掻く剣魔は、困ったような顔で呟く。
「まあ、いいや。俺にゃ関係ない話だからな。おう、悪かったな」
軽く手を上げて謝罪の様子を見せる剣魔。
その様子に、消えたわけでは無いもののイチカとファイネルは「とりあえず」殺気を収める。
その姿に、ルーティは自身の中の剣魔のイメージから乖離しているのを再確認する。
剣魔とは、そんな事が出来る魔族ではなかった。
会話が出来ているのに話にならない。
そんな魔族であったはずだった。
相変わらず他人を怒らせるのが得意のようだし、今のも下手をすれば戦闘に発展していてもおかしくはなかった。
だが、確かに「何か」が違う。
「悪いと思うなら、こちらの質問に答えなさい」
「モノによっちゃ答えてもいいけどよ、何が聞きてえんだよ」
意外にも素直に言う剣魔に、イチカは最初の質問を口にする。
「まず最初に、次元の狭間に潜む戦力について」
「ああ、無理。そういうのは全部ダメだ。不義理だしな」
指でバツを作る剣魔に、イチカはイラッとした様子を見せる。
「剣魔。貴方は」
ルーティが剣魔に何かを言おうとした、その時。
遠慮がちに、部屋の扉が叩かれた。
タイミングの悪さに舌打ちしそうになるのを抑えると、ルーティは「どうしましたか」と扉の外へと声をかける。
するとルーティの屋敷の使用人が扉を開け、一礼しながら本当に申し訳無さそうな声を出す。
「お、お邪魔して申し訳ありません。お客様が見えておられまして」
「断ってください」
ルーティが即座にそう返すと、使用人は顔をあげて慌てたような声をあげる。
「そ、それがですね。先ほど屋敷に乱入した者の保護者だと名乗る者が現れまして」
「……保護者?」
今日は無理矢理入ってくるような者が現れても対処するから何もしなくていい、と使用人や護衛達に言っておいたのはルーティだ。
それはザダーク王国関連の乱入者を想定していたのだが……その結果剣魔を招き入れる結果になり、この状況がある。
しかし、その剣魔の「保護者」を名乗る者が現れるのは更に想定外だ。
「そ、その。レナティアと名乗っておられまして。ルーテリスが中にいるはずだ、と」
「ルーテリス……?」
そんな者は知らない、と言うと使用人は一礼して去っていく。
経験豊富な彼であれば相手に上手く退散してもらえるだろう。
そんなことをルーティが考えていると剣魔がああ、と声をあげる。
「弓魔だな、それ。なんだよアイツ、こっち来たのかよ」
「弓魔……!? よりにもよって貴方、なんて奴……を……」
言いかけて、ルーティは目の前の剣魔が本来は一番危ない相手だったことを思い出す。
「弓魔? 私は知らんがイチカ、知ってるか?」
「出回っている情報でなら。勇者伝説によれば、遠距離からの一方的な嬲り殺しを好む快楽殺人鬼だったとか」
「大体あっています」
ルーティは肯定してみせ……ハッとした顔をする。
「しまった! 早くさっきの彼を止めないと! 弓魔相手では……!」
「僕相手ならなんだってのさ」
扉へ駆け寄ろうとしたルーティが、聞こえてきたそんな声に振り向く。
声が聞こえてきたのは、先ほど剣魔が飛び込んできた窓の外。
壊れた窓の縁に手をかけ、ひょっこりとショートヘアの可愛らしい顔つきの少女が顔を出す。
「なんか待たされたから勝手に来たよ。僕を待たすとか殺されても文句言えない所業なのに我慢した僕って、超偉くない?」
「……誰ですか、貴女」
見知らぬ少女に呆気に取られた顔でルーティはそう呟き……しかし、その少女の背中にある見覚えのある赤銅色の弓に目を見開く。
それは、かつて何度も見た弓魔の弓そのものであったからだ。
「誰って。レナティアだけど。あ、この姿の時に弓魔って呼んだらブッ殺すからよろしくね?」
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今回のまとめ:レナティアがやってきた。
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