勇者に滅ぼされるだけの簡単なお仕事です

天野ハザマ

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真実の欠片2

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 ザダーク王国、魔王城。
 裏庭で苔むしているゴーディ以外の全員が忙しく動き回っているこの場所でも一番忙しいのが、執務室にこもりきりの魔王ヴェルムドールである。
 恐らく人類社会一般でイメージするであろう「魔王」とは程遠い生活を送るヴェルムドールであるが、今日もいつもと同様に執務室で書類とにらめっこである。
 魔王城に自分の最高傑作を献上したがる職人達も分かってきたのか、最近は「豪奢」とか「華麗」よりも「疲れにくい」とか「癒し効果」だのといったものをテーマに作ってくるようになっている。
 とはいえ、そればかりだとイチカが微妙な顔をする為、職人達のテーマは魔王に似合う美しさとの両立である。
 勿論ヴェルムドールはそういうのを一切気にしないのだが、気にしないが故に魔王城の内装に関してはイチカが主導権を握っているが……それはさておき。

 そんなヴェルムドールの執務室では、机にむかい書類を整理しているヴェルムドールの肩をニノが叩いている。
 なんだか珍しい光景にも思えるのだが、「イチカがいない」という勝者の余裕がニノを普段よりも優しくさせるのであろう。
 かいがいしくヴェルムドールの世話を焼く様は、普段のニノを知る者からしてみれば奇妙に映るものの、そんなことを指摘する命知らずなどいるはずもない。

「……ニノ、もういいぞ? お前も忙しいだろう」
「ニノは魔王様専用だから。他の有象無象はどうでもいい」
「そうか」

 短く答えて、ヴェルムドールは再び書類に視線を落とす。
 ヴェルムドールとしては他にも気を配ってもらえれば助かるのだが、元より遊撃隊的な役割のニノの場合、ニノの好きにさせたほうが色々と捗るのも事実なのである。
 故に、ヴェルムドールはそれ以上は何も言わず。
 ニノは、絶妙のタイミングでお茶を机の上に載せる。
 
「その書類は何?」
「これか?」

 お茶を一口飲んだヴェルムドールが、机の上に置かれた書類を指差す。
 雑談の材料としては不向きだが、ワーカホリックなヴェルムドールから引き出せる会話の材料が然程多くないのはニノも知っているので、妥当な話題であったりする。
 勿論、ヴェルムドールはニノがそういう気を利かせていることには気付いてはいないが、ニノもヴェルムドールが気付いていないことくらいは承知の上なので全く問題ない。
 邪魔する者もいないので遠慮なくヴェルムドールの側へと近づいて、書類に視線を落とすヴェルムドールの近くから書類を覗き込もうとするかのように頬を寄せると、ヴェルムドールはそんなニノの頭を撫ぜる。
 少しばかり子供に対するような態度だが、ニノとしては満足だ。
 雑談に興じるヴェルムドールがいつもより優しく柔らかいことはニノも充分過ぎる程に知っているので、まさに狙っていた時間の到来である。

「これはだな……例のドラゴンスカイサービスの」
「魔王様!」

 ガァン、という壊れそうな音を立てて執務室の扉が開かれる。
 そこに居たのは珍しく扉から入ってきたファイネルであり……なごやかだった執務室の雰囲気は一気に変わる。

「どうした、ファイネル」

 書類を机に置いたヴェルムドールのものは一瞬前とはすでに異なっており、完全に仕事モードに入ってしまっている。
 それに気付いたニノがファイネルを殺さんばかりに睨みつけるが、ファイネルは全く気にしていない。

「イチカが、魔王様にジオル森王国のルーティの家まで来てほしいと。魔王様のお力が必要なようです」

 イチカと聞いてニノの纏う殺気が増すが、ヴェルムドールがニノの頭にポンと手を載せることで霧散する。

「そうか。イチカが俺を呼ぶということは、本当に必要な事態なのだろう。ならば行くしかあるまいな」
「むう……」

 不満そうなニノだが、ここで止めるのが我侭に過ぎないということくらいは分かっているので、小さく唸って不満を表現するだけに留める。

「ニノ」
「何?」

 不機嫌そうな表情で見上げるニノに、ヴェルムドールは優しげな笑みを浮かべてみせる。

「今の話の続きは、帰ってきたらしてやろう」
「ニノと二人で?」
「そうだな。暇があれば好きだと言ってた焼き菓子も買ってこよう」
「ニノ、焼き菓子はそんなに好きじゃないよ?」
「む、そうだった……か? だが以前旨そうに……」

 そこまで言って、ヴェルムドールは暇そうに立っていたファイネルへと視線を向ける。
 突然視線を向けられたファイネルはきょとんとしていたが、その顔を見てヴェルムドールはポンと手を叩く。

「ああ、そうか。あれはファイネルだ。確かナナルスの持ってきたクッキーを全部一人で」
「ま、魔王様、そのお話は秘密のはずです」

 ファイネルが慌てたように言うが、ヴェルムドールは不機嫌度を増したニノに睨まれ抱きつかれてそれどころではない。

「魔王様。ニノが好きなのはリンゴだよ?」
「あ、ああ。分かってる」
「ニノを差し置いて記憶するくらい、あんなのが好きなの? どこ? どこがいいの?」
「悪かった。間違えたのは悪かったから。落ち着け、ニノ」
「やだ。許さない」

 すっかり機嫌を損ねてしまったニノを困ったように見ながらヴェルムドールは、「あんなの」呼ばわりされたファイネルへと視線を向ける。

「あー、なんだ。ナナルスには話をしてるんだよな?」
「え?」
「一応先方にも話を通しておくのが義理というものだからな。ナナルスに話をしておけばいいようにやってくれるだろう」

 その言葉にファイネルは少し考えるような様子を見せた後、「行って来ます」と宣言する。

「ナナルスに話をしたら戻ってまいります」
「そうか。ナナルスからも話をしっかり聞いて来い」
「……最大限努力はします」

 そう言って去っていくファイネルを見送ると、ヴェルムドールは抱きついたままのニノを見下ろす。

「……俺が悪かったよ。な、ニノ。許せ」
「やだ、許さない。大好き」

 抱きついて離れようとしないニノの様子に、ヴェルムドールはしばらくは離れないだろうな……と考えニノの頭に手を置き撫ぜる。
 ファイネルが戻ってくるまでに機嫌が直ればいいのだが……とそんな事を考えながら、ヴェルムドールは小さく溜息をつくのだった。
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