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連載
闇の巫女レルスアレナ2
しおりを挟む村や街には必ず、「一番頑丈な建物」が存在する。
それは集会場であったり、あるいは村長の家であったりする。
それは「いざという時の避難所」として利用する事を想定しているからであり、それ故にそうした場所には食糧の備蓄などがされていることも多い。
この村の場合はそれは村長の家であり、しかしこの有事に村長は扉も窓も閉ざし村人達の侵入を拒んだ。
素早いビスティアを中に入れないという点では、正しかったかもしれない。
だがその代わり、村長は村人達の明確な怒りと恨みを買った。
もし村人に生き残りがこの後いれば、八つ裂きにされてもおかしくはないだろう。
しかし村長にとって安心すべきなのは……すでに村に生き残りなどいないということだろう。
村にすでに、他の生き残りは居ない。
しかし村長にとって計算外であるのは、怒れるビスティア達がそれでは満足しなかったということだろう。
暗黒大陸のビスティア達からしてみれば「つーかアレって、なんか別の種族だろ?」の一言で済まされてしまう程度の知能しか持たないのがシュタイア大陸のビスティアだが、その仲間意識は恐ろしく高い。
ビスティアを相手にする時は殲滅戦を覚悟しろ……というのはとある冒険者の台詞だが、それは自分達が場合によっては殲滅される側に回るという意味を含むということを知っている者は意外に多くない。
そしてこの村は殲滅される側であり、ビスティア達のよく利く鼻は建物の中に「まだいる」ことを良く分かっているということだ。
それであるが故にビスティア達は村長の家の扉を叩き、爪で削り、周りをぐるぐると回る。
絶対に逃がすまいという意思を感じるビスティア達の行動だが、村中に散っていたビスティア達は少しずつ村長の家の周囲に集まり……やがて、その数は五十を超える集団となる。
ビスティアとしては中規模に届くレベルだが、よくよく見るとおかしな個体が混ざっている事に気付く。
ビスティア達は犬のビスティアの集団であるが、素手の者もいれば何処から拾ってきたのか粗末な武器を持っている者もいる。
かと思えば、立派な鎧や武器を纏った者もいる。
しかしそれに共通しているのは、その武器や防具の全ては「きちんと手入れされている」という点だ。
どれも実用レベルに整えられており、それ故に今回の殲滅にも何の支障も無かったようだ。
そこまではいい。
そこまでは、ビスティアの集団にはよく見られる光景だ。
おかしいのは、そこから先。
まず一つ目は立派な装備を纏ったビスティア達の中に、金属の長杖を持ったビスティアがいる点だ。
……杖の所持自体は、まあおかしくはない。
特に金属杖ともなれば、下手な棍棒よりも立派な打撃武器となる可能性もある。
魔法石のついた金属杖は見た目にも美しいし、ビスティアの集団内としての権威の象徴としてもいい。
だがおかしいのは、その杖が非常に綺麗である事だ。
打撃に使えば当然あるはずの血痕や傷も無く、とても綺麗なものだ。
そして、もう一体のビスティアもまた妙だ。
まるでオウガのような筋骨隆々な身体。
明らかに強い個体でありながら武器らしい武器は持たず、その目は真っ赤にギラギラと輝く。
その二体は状況を楽しむかのように他のビスティア達が運んできた椅子に腰掛け、状況を見守っている。
狩りでも楽しんでいるつもりなのか、その表情には余裕が伺える。
……まあ、もう勝利は見えているのだ。
あとは群れをどう満足させるかといったところなのだろう。
その瞳には、他のビスティア達と比べるとある程度の知性の輝きがある。
しかし、その二体は突如警戒するような視線を村長の家とは別方向へと向け……続けて、他のビスティア達もそちらへと視線を向ける。
その方向から来るのは、一人のシルフィドの少女。
散歩でもするかのように自然な足取りで歩いてくる少女が持つのは杖で、ビスティア達からしてみれば即座に引き裂いてしまえるような華奢さだ。
その少女はビスティア達にそこで初めて気づいたかのように立ち止まると、ビスティアに取り囲まれた村長の家へと目を向ける。
そしてつまらなそうに鼻を鳴らすと、小さく「役立たず」と呟く。
「いっそ全員殺しておいてくれれば楽だったのに。こんなことならもう二、三日くらい前の村で泊まっておくんでした。そうしたら……ああ、でもそれはそれで面倒でしたかね。そうか、さっきの高台でもう少し様子を見ておけばよかったんですね」
無表情のまま呟かれる台詞には、一切冗談の色が含まれていない。
少女はビスティア達を見つめ、ビスティア達も少女を見つめる。
それは、明らかに襲いやすい獲物である少女を警戒するような仕草。
そして少女もまた、ビスティア達を感情の一切分からない瞳で見つめている。
「……面倒ですね」
呟きと共に少女が取り出したのは、一つの赤く透き通る球体。
それはまるで燃え盛る炎を凝縮したかのようで、宝玉だと言われれば納得してしまうであろう美しさがある。
だがそれがただの宝玉であるはずもない。
その宝玉は内部から強く輝いており……尋常ではない魔力が込められていっているのは一目瞭然であったからだ。
それを少女は空へと放り投げ……ビスティア達の視線も自然と、空に投げられた宝玉を追う。
「来なさい、レッドオーブガーディアン」
そんな宣言と共に宝玉から炎が噴き出し……それはやがて赤く透き通る巨大なゴーレムへと変化し、轟音と共に着地した。
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