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連載
出発2
しおりを挟むその女には、ゼクウェルも見覚えがあった。
近頃ルーティの友人として度々やってくる、魔族のファイネルである。
その凛とした佇まいからシルフィドの中には憧れている者もいると聞いてはいたのだが……随分と印象が違う。
「ファイネル……いきなりなんですか」
飛びついてきたファイネルをルーティが引き剥がすと、ファイネルは不満そうな顔をする。
「なんだ、つまらないな。驚くかと思ってわざわざ気配を消してきたというのに」
「室内ならともかく、屋外でシルフィドにその手が通じると思わないでくださいね」
「そうか。じゃあ次から屋内でやるよ」
「やらないでください」
視線を逸らして聞こえないふりをするファイネルをルーティがじっとりと睨んでいると、更に二人の姿が森の奥から現れる。
どちらも相当の実力者であることが見てとれて、ルーティもゼクウェルもとっさに反応する。
ゼクウェルの手は剣に、ルーティの手は短杖へと伸び……しかし、両手をあげて苦笑する一人の青年の様子にルーティはその手を止める。
「ああ、落ち着いてください。僕達は敵じゃありません」
その青年は、青年という程身長は高くは無い。
青い髪に青い目、幼さを残した顔立ちは可愛らしく、持っている雰囲気も柔らかく暖かだ。
腰にあるのは一本の長剣で、どうやら剣士であることが伺える。
もう一人は青年よりも更に背が低く……青い髪をツインテールにまとめ、同じ色の瞳を持つ少女であった。
こちらは奇妙なデザインの金属杖を持っており、一目見て魔法使いと分かる姿だ。
この二人の共通点といえば同じデザインの白い服であり、たとえるならば騎士の礼装のような印象を受ける服装である。
「ああ、二人とも挨拶しろ」
その二人を見るとファイネルはそう促し、それを受けてまずは青年のほうが一礼してみせる。
「お初にお目にかかります。ザダーク王国東方軍所属、ルモンです。この度はこちらのアルムと共に同行させていただきます」
「アルム……?」
その名前を聞いてルーティがピクリと反応するが、青髪の少女を見て複雑そうな顔をする。
そうすると、青髪の少女……アルムが、ニヤリと笑ってみせる。
「今ご紹介に預かりましたアルムですじゃ。どうぞよろしく」
「……失礼ですが、血縁に同じ名前の魔族がいたりは? その方の見た目は相当なご老体なのですが」
「さて、わしと同じ名前の魔族など……いるのかもしれませんが、会った事はありませんのう?」
アルムの返答に、ルーティはそうですか……と言いつつもアルムに警戒するような視線を向ける。
そんなルーティの様子を見て、ファイネルはああと頷く。
「こいつ、昔お前も会った事のあるアルムだぞ。大分姿は変わったがな」
「あの変わり者の変態魔族……生きてたんですか」
「ふほほ、あの暴れシルフィドが随分と印象を変えたものじゃのう」
カラカラと笑うアルム。
当時リューヤ達が暗黒大陸にやってきた頃は魔王グラムフィアの元を出奔していたアルムであったが故に、ルーティからの印象はそんなものである。
「……で、ファイネル。まさかこの二人も連れて行こうと?」
「ああ、それなりの実力者を選抜した。流石に魔王軍全体を動かすわけにはいかんからな」
「……一応聞きますが。他の同行者の内訳は?」
ルーティがそう聞くと、ファイネルは何かを思い出すかのように空を見上げ……そのまま、動かなくなる。
「ファイネル?」
ルーティが声をかけるも、ファイネルは空を見上げたまま動かない。
一体どうしたのかと心配したルーティは、まさか空に何かいるのかと見上げたが何もない。
そこには青い空があるだけで、そんな空を見上げたままのファイネルはポツリと呟く。
「空が綺麗だな、ルーティ」
「そうですね?」
そのまま黙って二人で空を見上げていると、ルモンがパンパンと音を立てて手を叩く。
「えーとですね。ファイネル様はお忘れのようなので僕が補足しますが、他の同行者については「いないこと」になっています」
「……それは」
ルーティが思わず聞き返すと、ルモンはゼクウェルを一瞬だけ見てすぐにルーティへと視線を戻す。
「まあ、諸国に配慮ということです。あまりザダーク王国の将がウロウロしているのをよく思わない御仁も多いでしょう」
「まあ……そうだな」
ゼクウェルが遠慮がちに言うと、ルモンは頷いてみせる。
とはいえ、その言葉を言葉通りに捉えるほどルーティは純粋ではない。
今、ルモンは「いないことになっている」と言った。
もし他の同行者がいないのであれば、「来ない」とか「いない」とかいう表現になるはずだ。
それをわざわざ「いないことになっている」という表現をしたからには、実際にはいるという事だろう。
そして恐らくだが、転移魔法を使った途中合流になるのであろうことは予想できた。
「しかし、そうなると……人数が足りないのではないか?」
ジオル森王国からも誰か信頼できる者を選抜して同行した方が……と言いかけるゼクウェルを、ルモンが柔らかな笑顔で押し留める。
「ああ、問題ありませんよ。個人的に伝手のある冒険者に護衛もお願いするつもりですから。まあ、ギルドを通さない個人的依頼なのでこっそり……ですがね」
「そ、そんな伝手が? いや、しかし信頼できるのですか?」
「ええ、実力もしっかりとある冒険者です。安心してください」
そう言ってルモンは一礼して背を向け、アースワームをペタペタと触り始めているファイネルの元へと向かっていく。
その途中でルーティの隣を抜け、小さい声でぼそっと呟いていく。
「シオンとニノっていう二人の冒険者なんですけどね」
「え、ちょっと」
思わず振り返ってルモンに今の発言を問いただそうとするルーティに、ゼクウェルが疑問符を浮かべる。
「どうした、ルーティ?」
「え? ……あ、いえ。なんでもありません。気にしないでください」
その冒険者とやらは魔王とその側近ですよ……と此処で言う訳にもいかず、ルーティは曖昧な笑みを浮かべてみせた。
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