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出発4
しおりを挟むジオル森王国からレプシドラへ向かうには、三つの国を超える必要がある。
近い順から並べれば、こうだ。
まずは、テトラ遊国。
あくどい商売で聖アルトリス王国を追われた豪商が私兵を雇い占拠して建国したという特殊な経緯を持つ国で、賭け事などの施設がそのほとんどを占めている。
大国では禁止される類の賞品や賭け事をやっているのも特徴で、金と暇を余らせた者達が遊んでいるという。
二つ目は、闘国エストラト。
闘技場を中心とした「戦い」で成り立っている国であり、強い者こそが正義を掲げる国でもある。
そして最後の三つ目は、祈国セレスファ。
他の二国とは違い、このセレスファだけはどんなルートを通っても必ず通過する。
何故ならばセレスファはレプシドラをぐるりと囲むように存在する国であり、中小国の中で一番の力を持っている国でもある。
その樹立当初の目的は、レプシドラの監視と祈り。
レプシドラの現状を「エレメント達の怒り」として、それがやがて収まるように祈る事と、それが成るまで周辺へ被害が拡散しないように樹立されたのだとされている。
これをセレスファが目的としている以上は他の中小国としても手を出しづらく、結果としてセレスファは霊王国支配地域だった箇所での戦国時代に攻撃を受ける事も無く生き残り、力を蓄えた。
現在では四大国の一部からも「レプシドラの監視者」として認められ、多少の国交や支援があり更に力を増している。
「大体こんな感じですね」
アースワームを走らせながら、ルーティはそう説明する。
一度最高速にのってしまえばアースワームの「箱」の中は快適であり、ファイネルなどは早々に寝てしまっている。
「どの国もくだらんが、その祈国とやらはもっとくだらんのう」
縄で縛り倒されたアルムはそう吐き捨て、ルモンが困ったように笑う。
「はは……でも、今聞いた限りだと他の二国よりはまともそうですよ?」
だが、そのルモンの台詞をアルムは鼻で笑う。
「ハッ、どこがまともなんじゃ。力を蓄えてきたんじゃろ? おかしいと思わんのか」
「え?」
「普通のモンスターの攻撃でも人類の騎士が木の葉みたいに吹っ飛ぶこともあるのに、エレメントが襲ってきて死者が出ないわけが無かろう?」
その説明に、ルモンの目にも理解の色が浮かぶ。
そう、確かにその通りだ。
エレメントはアースエレメントを除けば魔力体であり、物理攻撃が通用しない。
つまり魔法攻撃を主体にする必要があるわけだが、それでも被害が出ないわけがない。
それはある意味で人類の中小国家同士の争いよりも苛烈であったはずだ。
それが当時の戦国時代を経ても弱らず、今尚力を増している事実。
それはつまり、とあることを示している。
「……エレメントは、レプシドラから出てこないんですね」
「その通りです」
ルーティも頷き、ルモンの言葉を肯定してみせる。
「エレメントはレプシドラに侵入した者は襲いますが、自分からレプシドラの外へ攻め込んだという例はないようです」
かつて勇者リューヤ達と共にレプシドラへ向かった時もそうであったとルーティは語り、それを聞いてアルムはやはりな、と頷く。
「そんなことに気付かんはずはないのだ。たとえ最初のうちに「攻めてくるかもしれない」という懸念があったとしても、ずっと監視しているのであればそうではないと気付く」
「い、いやしかし……それは「現時点ではそうではない」というだけであって将来的にそうではないからでは?」
ルモンの反論に、アルムはころころと箱の中を転がりながら笑う。
「ハハハ、まあそういうことにしてこうかの。どうせ現地を見れば一発で分かる事じゃ」
「……」
アルムの言葉にルモンは考えるように黙り込み、ルーティは何も言わずに魔法球の操作に集中する。
そうして無言が箱の中を支配し、ファイネルの幸せそうな寝言が聞こえてきた頃……魔法球に手を添えていたルーティがピクリと動く。
「見えてきましたね」
ルーティの視線の先に遠く見えるのは、砦のような、壁のような……そんなものだ。
それはジオル森王国と外を繋ぐ関所であり、「冒険者」との途中合流の地点でもある。
「そろそろ減速ですね……ルモン、ファイネルを起こしてあげてください」
「あ、はい。えーと……ファイネル様、起きてください」
「待て、わしに任せるのじゃ! こういう時の起こし方はよぉく知っとる!」
騒ぐアルムを無視し、ルモンはファイネルの肩を叩く。
「ファイネルさまー、起きないとアルムさんがファイネル様の駒にキスしようとしてますよ?」
「なにいっ!」
即座に跳ね起きたファイネルは怒りの表情で辺りを見回し……突如、きょとんとした顔になる。
「あれ? えーと……」
「おはようございます、ファイネル様」
声をかけられたファイネルはルモンを見て少し考え、ああと頷く。
「そうか、もうレプシドラに着くのか」
「違いますよ?」
当然のように何も分かっていないファイネルにそう答えると、ルモンは説明を最初から諦めて席につく。
そうしているうちにアースワームは静止し、ルーティが御者席から出てくる。
「それでは、私は出国の手続きをしてまいりますので」
「はい、分かりました」
ドアを開けて縄梯子を下ろしたルーティが降りていくのを見ると、その先の地上に二人分の人影があるのが見える。
「……確かに魔王として動くのは問題あるだろうけど。ハハ、服まで違うや」
それがヴェルムドールとニノの二人であることを確認し、ルモンはそんなことを呟いた。
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