勇者に滅ぼされるだけの簡単なお仕事です

天野ハザマ

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闘国エストラトへ

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「もうそろそろ、闘国エストラトへ到達しますよ。今日はそこで宿をとることになるでしょうね」

 ルーティがそう告げると、外の風景にも飽きて再び寝入っていたファイネルが目を覚ます。

「む。闘国エストラトか。強い奴が正義という国だったか?」
「そういうところだけ覚えてるんですね……まあ、その通りです」

 前半のルーティの嫌味を聞き流したファイネルは、満足気に頷いてみせる。

「人類にも、多少は骨のある奴がいるんだな。気質としては我々に近い感じか?」
「あー……いえ」

 独り言に近いファイネルの台詞に、ルーティは言葉を濁す。

「あまり、期待しないほうがいいかと」

 闘国エストラト。
 それは戦う事を商売として成り立たせている国であり、巨大な闘技場が有名な観光名所となっている。
 そこで戦う「闘士」と呼ばれる人々は上に行けば行くほど名誉と金を得られ、この闘国エストラトの闘士であったというのが一種のハクのようなものになることもある。
 強い者こそが正義、というのはまさにこういった部分から生まれているのだ。
 だが、それでも。

「権力は人を腐らせる。私はかつて、この国でそれを学びました」
「どういう意味だ?」

 ファイネルの疑問に、ルーティは答えない。
 沈黙の支配した箱の中で、ニノがぼそりと口を開く。

「勘違いしたバカが多いってことじゃないのかな」
「ん? んん……ああ、なるほど?」
「普通に勘違いしたバカだけであればいいんですがのう」

 アルムがぼそりと呟き、ルモンが苦笑にも似た笑みを浮かべる。
 ファイネルが「分からない」といった顔をしてヴェルムドールを見ると、ヴェルムドールは少し思案するように上を見上げ……やがて、真面目な顔でファイネルに向き直る。

「理解しようとする努力は認める。だから寝ておけ。な?」
「……魔王様。その仰りようはあんまりです」

 不満そうなファイネルにヴェルムドールは肩をすくめると、ふむと呟く。

「そうか。だったら説明するが……そうだな、闘国エストラトにおける権力の構造は分かるか?」
「強い者が正義なのでしょう?」

 そんな事知っていますよ、というファイネルにヴェルムドールは頷く。

「そうだ。だが強い者が正義と単純に言うが、ここでいう「正義」とはどこまでのものを指す?」

 ヴェルムドールの問いに、ファイネルは首を傾げる。
 正義は正義であるだろうに、何を言っているのかと言いたげな顔だ。

「いいか、強い者が正義であるということは、強くない者は正義ではないということだ。そして行為ではなく人物に正義を付与するということは、それ即ち権力へと直結するということでもある」
「んん……? 何故権力に?」
「正義の化身の行う行為は正しい事だろう?」

 ヴェルムドールの冗談めいた台詞にファイネルは更に首を傾げてしまう。

「もっと簡単に言おう。闘国エストラトにおいては強い者が偉い。つまり、一番強い者がエストラトにおける最高権力か、それに次ぐ権力を持っているであろうことは簡単に想像できる」
「そう、ですね?」
「まあ、トップの切り替わりが激しすぎれば国は成り立たん。恐らくは二番か三番程度だろうが……とにかく、強ければ地位を得られるわけだな」

 強ければ地位を得られる。
 それは成り上がりを目指す者としては、至極単純で分かりやすい道だ。

「だが、一度得た地位を手放せる者はそう多くない。当然、あらゆる努力を行うだろう」
「いいことなのでは?」
「ああ、いいことだ。単純な努力であればな」

 やはり、分からない。
 更に首を傾げてしまうファイネルに、ヴェルムドールは苦笑する。

「まあ、単なる想像の話だ。要は権力の為にあらゆる手段を使う者が蔓延っているのではないか……と、それだけのことだ」
「それの何処が問題なのですか?」

 ファイネルの台詞にルーティは一瞬ギョッとしたような顔をした後、すぐに何かを理解したかのように元の表情に戻る。
 ファイネルの想像する「あらゆる手段」とは、あくまで戦法における「あらゆる手段」だ。
 それはファイネルの中においては卑怯でもなんでもない。
 戦う時に使える手を全て使わないのは、単純に努力不足でしかないからだ。
 しかし、ここでいう「あらゆる手段」とは違う。

「……まあ、お前はそのままでもいいんだが。要は戦いの場以外で仕掛けてくる輩がいるという話だ」
「なるほど」

 分かったような顔でファイネルは頷くが、それでも精々「食事の場で机を蹴り上げる」とかその程度の想像だろうな……とヴェルムドールは思う。
 そもそも、そうした手段など思いつきもしないのだろうから仕方が無い。

「本当ならこのままこの国も通り抜けたかったのですが……このあたりで野営するのは一番危険ですからね」
「別に構わん。とはいえ、街は街で嫌な予感しかしないがな」
「……流石に「それ」はないと信じたいのですがね」

 ルーティはそう呟くと、アースワームを減速させていく。
 その先にあるのは、巨大な闘技場。
 闘国エストラトにある五つの闘技場のうちの一つ「青闘場アジバ・バウ」の設置された街、キルコネンである。
************************************************
闘国エストラトは、宿泊の関係でちょっとだけ留まります。
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