勇者に滅ぼされるだけの簡単なお仕事です

天野ハザマ

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連載

たとえ、この身は滅ぶとも25

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 その小さな石だけをその場に残して……砂すらも、溶けるように消えていく。
 静寂の戻った空間の中で、イクスラースは石を拾い上げる。
 それは、イクスラースの手の上に乗ってしまうような小さな石。
 ゾクリとする程に濃密な魔力を秘めたそれを見つめていたイクスラースの手元を、寄って来たアルムが覗き込む。

「ほほう、相当の魔力が篭ってるのう。つーかこりゃ、魔法石じゃな。しかも加工の必要がないのう。このまま杖に使えるぞ?」
「……そう」

 確かに、アルムの言う通りだろう。
 今の短杖と比べてもかなり高性能な杖になるのは間違いない。
 ……どうにもそれだけでは無いような気もするのだが、今考えても仕方の無いことではあるだろう。
 魔法石を握りこんで、イクスラースは自分に向けられている視線の主……レルスアルナへと視線を投げ返す。

「……レルスアレナ。やっぱり貴女は言葉は信じないと言うのかもしれないけれど」

 正面からレルスアレナを見据えて、イクスラースは宣言する。

「私は、ヴェルムドール達と一緒に戦う。それが、今の私に出来る最善だと思うから」

 レルスアレナは、やはり答えない。
 相変わらず感情の読めない瞳でイクスラースを見つめてはいるが……それだけだ。
 だが、それでも構わずにイクスラースは続ける。

「そして、命の神を倒す。きっと他の神様みたいに特殊な空間にいるんでしょうけど……そこにだって辿り着いてみせる」
「……そんなことが、出来ると?」
「勿論よ。その為にまずは、アルヴァ共の親玉を……アルヴァクイーンを倒す」

 そう言うと、イクスラースは手の中の魔法石に魔力を込める。

「そこで聞いてるんでしょう、杖魔……! 闇撃アタックダーク!」

 放たれた闇撃アタックダークが何もないはずの空間で弾け……そこからひび割れるように空間に穴が空き、仮面の魔族が現れる。
 空中に浮かぶように立つ仮面の魔族……杖魔は、小さな笑い声をあげる。

「妙な魔力の動きがあるから来てみれば……貴方達とはね。一体こんな所で何をしていらっしゃったのですか?」
「答える筋合いはないわね」
「それもそうですね。くくっ」

 イクスラースは、「魔王シュクロウス」としての記憶を辿る。
 確か時期的にいえば、レルスアレナとリューヤが関わり始めた頃には杖魔はもう剣魔を連れて出奔していたはずだ。
 だから、杖魔はレルスアレナのことも……この街のことも、ほとんど知らないはずだ。

「……確か人類の伝承によれば、ここで勇者リューヤはシュクロウス様の居城に至る為の手段を手に入れたと。てっきり四大国家の何処かにあるものと思っていましたが、まさか」

 杖魔の視線がその場の全員へと移動していき……その視線がルーティを捉えた直後に、移動してきたラクターに殴り飛ばされた杖魔が真横に飛んでいく。

「うわ……」
 
 思わずイクスラースがそんな声をあげたのも、無理はない。
 如何にもこれから何かを言いそうというところで殴られ、幾つかの建物を突き破りながら飛んでいった杖魔という光景だけでもシュールだが……更に絶句なのは、その後を翼を広げたラクターがぴったりと追尾し、時折追い越しながら追加で拳を叩き込み続けているところである。
 殴られる度加速する杖魔は最終的には地面に突き刺さり、着地したラクターによって思い切り顔面から掴みあげられる。

「いよーう、杖魔じゃねえか。元気そうだな」
「そちらこそ。無駄に長生きしてるようじゃあないですか……!」
「まあな。色々やってくれてるってのは聞いてるぜ。ちょっと次会ったら軽くブッ殺してやろうかと思ってたんだけどよ。まずは……おっと」

 ボキャン、と。
 冗談のような音を立てて杖魔の頭部が仮面ごと握り潰される。
 だが、そう見えたのは一瞬で……実際に握り潰されたのは仮面のみ。
 ローブの「頭」の部分にあったのは黒い闇のようなもので、しかしそれも握り潰された瞬間に幾らか霧散し……それでも杖魔は拘束が緩んだ一瞬を狙って離れるように飛翔する。
 仮面の砕けた杖魔のローブの中にあるのは赤い光が目のように浮かぶ闇色の何かであり……それをローブの腕の部分で覆い隠しながら杖魔は屈辱に満ちた叫びをあげる。

「おのれ、この腐れ竜がっ! 様式美も理解せぬクズめっ……貴様のような」

 叫び続ける杖魔の視界は、突然現れた風の壁に塞がれる。
 いや……それは風の壁などではない。
 風を人型にまとめたような何かが、そこにいたのだ。

「エレメント……ッ!」

 完全に不意をうたれた杖魔はウインドエレメントの巻き起こした突風に弾かれ、地面へと叩きつけられる……その寸前に、滑るようにやってきたファイアエレメントに殴り飛ばされる。

「があっ……!?」

 この場がエレメントの巣窟であることは、杖魔も知っている。
 特に何かをする価値があるとも思えず放置していたのだが……それにしても、おかしい。
 無差別に攻撃を仕掛けるはずのエレメントが、何故こんな「杖魔を狙うような」行動をするのか。
 余裕の表情で立つヴェルムドール達には、エレメントは攻撃を仕掛けていない。
 上空から降りてくるウインドエレメントも、迫ってくるファイアエレメントも、「杖魔だけ」を狙っている。

「……まさか。そうか! エレメントを操る術が此処にあったと、そういう……!」
「そんなもの、此処には無いわよ」

 イクスラースの手の中の魔法石が輝き、その側に一体のアースエレメントが現れる。
 そう、これがエレメント達の残した魔法石に隠されていた能力。
 ゴーレム作成魔法のように、エレメントを作り出す能力である。
 何の意思もない、人形のような存在ではあるが……確かに、彼等の残した「力」がそこには秘められていた。

「此処にあったのは、後悔と祈り……ただ、それだけよ」

 三体のエレメントが、杖魔を粉砕するべく襲い掛かる。
 そして、杖魔にその攻撃が到達する、その直前。


「う、うおおおおおお!」

 転移魔法を起動させた杖魔の姿が、光の中に掻き消える。
 誰も居なくなった場所を攻撃が砕き……イクスラースの溜息と共に、エレメント達の姿も掻き消える。

「……ごめんね、逃がしちゃったわ」
「別に構わん。いい宣戦布告だ。それに……逃がさないつもりならば、この場の全員でかかっている」

 どうせアルヴァクイーンの所へ殴り込めば、そこに杖魔もいる。
 ここで杖魔を倒す必要など、何処にも無い。
 その程度の価値しか、アレにはないのだ。

「……姉さん」

 かけられた言葉に、イクスラースは振り返り……近寄ってくるレルスアレナを、正面から見据える。
 レルスアレナはイクスラースの眼前でぴたりと止まると、魔法石を握りこんでいる方とは別の手をとって持ち上げる。
 そうして手の平を上にして開かせると……そこに、黒い鍵のようなものを一つ落とす。

「……これって」
「闇の鍵。姉さん達が私に会いに来たのは、これが理由でしょう?」
「私達を、信じてくれるの?」

 イクスラースの問いかけに、レルスアレナはふいと視線を逸らす。

「……それは無理です。でも、皆が姉さんに託したのなら。私は、その皆の想いに応える義務があります」

 そう答えて、レルスアレナは身を翻す。

「レルスアレナ。俺達と共に行く気はどうしてもないか?」
「ありません。皆が姉さんに「託した」ことで、此処がどうなるか不明な以上……私は、此処を離れるわけにはいきません」
「そうか。だが、もしその問題が解決し……その後普通に生きる気があるのであれば、ザダーク王国はお前を受け入れる準備はある」
「……そうですか」

 振り返りもせず、レルスアレナは歩いていく。
 イクスラースはそれを止めようと一瞬迷い……しかし踏み止まって、受け取った闇の鍵を胸元で抱きしめる。
 ここで止めても、今はレルスアレナは止まらないだろう。
 だから、今言うべき言葉はこうだ。

「……レルスアレナ! また会いましょう!」

 かけられたその言葉に、レルスアレナは振り返り……やはり感情の読めない表情を向けると、歩き去っていく。

「……ええ。いつか、また」

 そんな言葉だけを、その場に残して。
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