457 / 681
連載
たとえ、この身は滅ぶとも25
しおりを挟むその小さな石だけをその場に残して……砂すらも、溶けるように消えていく。
静寂の戻った空間の中で、イクスラースは石を拾い上げる。
それは、イクスラースの手の上に乗ってしまうような小さな石。
ゾクリとする程に濃密な魔力を秘めたそれを見つめていたイクスラースの手元を、寄って来たアルムが覗き込む。
「ほほう、相当の魔力が篭ってるのう。つーかこりゃ、魔法石じゃな。しかも加工の必要がないのう。このまま杖に使えるぞ?」
「……そう」
確かに、アルムの言う通りだろう。
今の短杖と比べてもかなり高性能な杖になるのは間違いない。
……どうにもそれだけでは無いような気もするのだが、今考えても仕方の無いことではあるだろう。
魔法石を握りこんで、イクスラースは自分に向けられている視線の主……レルスアルナへと視線を投げ返す。
「……レルスアレナ。やっぱり貴女は言葉は信じないと言うのかもしれないけれど」
正面からレルスアレナを見据えて、イクスラースは宣言する。
「私は、ヴェルムドール達と一緒に戦う。それが、今の私に出来る最善だと思うから」
レルスアレナは、やはり答えない。
相変わらず感情の読めない瞳でイクスラースを見つめてはいるが……それだけだ。
だが、それでも構わずにイクスラースは続ける。
「そして、命の神を倒す。きっと他の神様みたいに特殊な空間にいるんでしょうけど……そこにだって辿り着いてみせる」
「……そんなことが、出来ると?」
「勿論よ。その為にまずは、アルヴァ共の親玉を……アルヴァクイーンを倒す」
そう言うと、イクスラースは手の中の魔法石に魔力を込める。
「そこで聞いてるんでしょう、杖魔……! 闇撃!」
放たれた闇撃が何もないはずの空間で弾け……そこからひび割れるように空間に穴が空き、仮面の魔族が現れる。
空中に浮かぶように立つ仮面の魔族……杖魔は、小さな笑い声をあげる。
「妙な魔力の動きがあるから来てみれば……貴方達とはね。一体こんな所で何をしていらっしゃったのですか?」
「答える筋合いはないわね」
「それもそうですね。くくっ」
イクスラースは、「魔王シュクロウス」としての記憶を辿る。
確か時期的にいえば、レルスアレナとリューヤが関わり始めた頃には杖魔はもう剣魔を連れて出奔していたはずだ。
だから、杖魔はレルスアレナのことも……この街のことも、ほとんど知らないはずだ。
「……確か人類の伝承によれば、ここで勇者リューヤはシュクロウス様の居城に至る為の手段を手に入れたと。てっきり四大国家の何処かにあるものと思っていましたが、まさか」
杖魔の視線がその場の全員へと移動していき……その視線がルーティを捉えた直後に、移動してきたラクターに殴り飛ばされた杖魔が真横に飛んでいく。
「うわ……」
思わずイクスラースがそんな声をあげたのも、無理はない。
如何にもこれから何かを言いそうというところで殴られ、幾つかの建物を突き破りながら飛んでいった杖魔という光景だけでもシュールだが……更に絶句なのは、その後を翼を広げたラクターがぴったりと追尾し、時折追い越しながら追加で拳を叩き込み続けているところである。
殴られる度加速する杖魔は最終的には地面に突き刺さり、着地したラクターによって思い切り顔面から掴みあげられる。
「いよーう、杖魔じゃねえか。元気そうだな」
「そちらこそ。無駄に長生きしてるようじゃあないですか……!」
「まあな。色々やってくれてるってのは聞いてるぜ。ちょっと次会ったら軽くブッ殺してやろうかと思ってたんだけどよ。まずは……おっと」
ボキャン、と。
冗談のような音を立てて杖魔の頭部が仮面ごと握り潰される。
だが、そう見えたのは一瞬で……実際に握り潰されたのは仮面のみ。
ローブの「頭」の部分にあったのは黒い闇のようなもので、しかしそれも握り潰された瞬間に幾らか霧散し……それでも杖魔は拘束が緩んだ一瞬を狙って離れるように飛翔する。
仮面の砕けた杖魔のローブの中にあるのは赤い光が目のように浮かぶ闇色の何かであり……それをローブの腕の部分で覆い隠しながら杖魔は屈辱に満ちた叫びをあげる。
「おのれ、この腐れ竜がっ! 様式美も理解せぬクズめっ……貴様のような」
叫び続ける杖魔の視界は、突然現れた風の壁に塞がれる。
いや……それは風の壁などではない。
風を人型にまとめたような何かが、そこにいたのだ。
「エレメント……ッ!」
完全に不意をうたれた杖魔はウインドエレメントの巻き起こした突風に弾かれ、地面へと叩きつけられる……その寸前に、滑るようにやってきたファイアエレメントに殴り飛ばされる。
「があっ……!?」
この場がエレメントの巣窟であることは、杖魔も知っている。
特に何かをする価値があるとも思えず放置していたのだが……それにしても、おかしい。
無差別に攻撃を仕掛けるはずのエレメントが、何故こんな「杖魔を狙うような」行動をするのか。
余裕の表情で立つヴェルムドール達には、エレメントは攻撃を仕掛けていない。
上空から降りてくるウインドエレメントも、迫ってくるファイアエレメントも、「杖魔だけ」を狙っている。
「……まさか。そうか! エレメントを操る術が此処にあったと、そういう……!」
「そんなもの、此処には無いわよ」
イクスラースの手の中の魔法石が輝き、その側に一体のアースエレメントが現れる。
そう、これがエレメント達の残した魔法石に隠されていた能力。
ゴーレム作成魔法のように、エレメントを作り出す能力である。
何の意思もない、人形のような存在ではあるが……確かに、彼等の残した「力」がそこには秘められていた。
「此処にあったのは、後悔と祈り……ただ、それだけよ」
三体のエレメントが、杖魔を粉砕するべく襲い掛かる。
そして、杖魔にその攻撃が到達する、その直前。
「う、うおおおおおお!」
転移魔法を起動させた杖魔の姿が、光の中に掻き消える。
誰も居なくなった場所を攻撃が砕き……イクスラースの溜息と共に、エレメント達の姿も掻き消える。
「……ごめんね、逃がしちゃったわ」
「別に構わん。いい宣戦布告だ。それに……逃がさないつもりならば、この場の全員でかかっている」
どうせアルヴァクイーンの所へ殴り込めば、そこに杖魔もいる。
ここで杖魔を倒す必要など、何処にも無い。
その程度の価値しか、アレにはないのだ。
「……姉さん」
かけられた言葉に、イクスラースは振り返り……近寄ってくるレルスアレナを、正面から見据える。
レルスアレナはイクスラースの眼前でぴたりと止まると、魔法石を握りこんでいる方とは別の手をとって持ち上げる。
そうして手の平を上にして開かせると……そこに、黒い鍵のようなものを一つ落とす。
「……これって」
「闇の鍵。姉さん達が私に会いに来たのは、これが理由でしょう?」
「私達を、信じてくれるの?」
イクスラースの問いかけに、レルスアレナはふいと視線を逸らす。
「……それは無理です。でも、皆が姉さんに託したのなら。私は、その皆の想いに応える義務があります」
そう答えて、レルスアレナは身を翻す。
「レルスアレナ。俺達と共に行く気はどうしてもないか?」
「ありません。皆が姉さんに「託した」ことで、此処がどうなるか不明な以上……私は、此処を離れるわけにはいきません」
「そうか。だが、もしその問題が解決し……その後普通に生きる気があるのであれば、ザダーク王国はお前を受け入れる準備はある」
「……そうですか」
振り返りもせず、レルスアレナは歩いていく。
イクスラースはそれを止めようと一瞬迷い……しかし踏み止まって、受け取った闇の鍵を胸元で抱きしめる。
ここで止めても、今はレルスアレナは止まらないだろう。
だから、今言うべき言葉はこうだ。
「……レルスアレナ! また会いましょう!」
かけられたその言葉に、レルスアレナは振り返り……やはり感情の読めない表情を向けると、歩き去っていく。
「……ええ。いつか、また」
そんな言葉だけを、その場に残して。
2
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな
七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」
「そうそう」
茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。
無理だと思うけど。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。