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連載
冒険者ギルドにて2
しおりを挟むかけられた言葉にカインが振り向くと、そこには書類の束を抱えた女性の姿が在った。
後ろで縛った茶色の長い髪の印象的な、ギルドの制服に身を包んだおっとりとした雰囲気の彼女の名は、サーラ。
この冒険者ギルドエディウス支部の職員であり、カウンターでの依頼関連の業務を担当だ。
依頼を精力的にこなすカイン達とは自然と仲良くなったのだが……自分達に無い「大人」な雰囲気を持つサーラをライバル認定しているのか、シャロンもセイラも複雑そうな顔である。
「あ、サーラさん。この依頼って……やっぱり「そう」なんですか?」
ぼかしながらカインが聞くと、サーラは頬に手をあてて困ったように笑う。
あの仕草を僕がやっても「どうしたの? 痛むの?」とか聞いてくるだろうなあ……などとセイラが思っているとは夢にも思わないカインは、その様子を見て最悪の想像をするが……サーラから返ってきたのは違う反応であった。
「うーん、違うのよ。それはあくまでうちからの依頼。でもちょっと複雑でねえ」
そう、事態は非常に複雑である。
そもそもの始まりを言えば、確かに国からの要請が始まりではある。
しかしそれは聖アルトリス王国から、というわけではなく……全ての国からの要請なのだ。
「す、全ての国……?」
「そうなの。しかも中小国合わせたギルドのある国全部からよ」
その内容はどれも一致していて、「アルヴァクイーンの討伐作戦が行われるのだが、冒険者ギルドからも人を出すわけには行かないだろうか」という内容である。
いきなりアルヴァクイーンの討伐作戦などという超大規模な話を持ち込まれた冒険者ギルド各支部は大慌てでキャナル王国のエルアークにある本部に早馬を送ったが……本部の方にもキャナル王国から同様の話が持ち込まれていた。
「でも、冒険者ギルドは中立……ですよね?」
シャロンの遠慮がちな疑問にサーラはそうよ、と答える。
たとえ国からの要請であろうと、冒険者ギルドは特定の勢力には与さない。
それを守ってきたから現在の冒険者ギルドという世界的組織があるが故に、その原則は絶対に曲がらないし……そこには一切の例外は無い。
「なら、これ何? まさか聖アルトリス王国だけ煩いから機嫌とっとこうとか……」
「だから違うんだってば」
セイラの発言に苦笑しながら、サーラは件の依頼書に目を向ける。
「あれはね、冒険者ギルド独自のものなの。アルヴァ問題は人類全体の問題でもあるし、一切関わらないとなると色々と……ね」
ただでさえ冒険者ギルドは「ならず者」だの「拝金主義者」だのと陰口を叩かれる事もある。
アルヴァの件は放っておいても世界的な騒ぎになるし、その際に冒険者ギルドだけ無関係を貫いていてはそうした声が大きくなる怖れもある。
そうなる前に対処してしまおう……ということなのだ。
「けれど、そうなると指揮系統はどうなるんです? まさか何処かの国に?」
「うーん。そういう前例を作るのはちょっとね。一応、参加した冒険者の中から適当と思われる人を選んで統率役をお願いする事にしてるわ」
サーラの悪い意味での適当にも思える言葉に、セイラが少しだけ不快そうな顔をする。
相手がゴブリンならばともかく、一体一体が極悪な力を持つアルヴァなのだ。
少しでも勝率をあげようと思うならば動きの統一や戦術の浸透などやるべきことは幾らでもある。
サーラの言う通りにやれば言う事を聞かない者も出るだろうし、ただの素人集団の集まりとなることは明らかだ。
如何に個人での戦闘力に優れた者が集まったとしても、全く意味が無い。
そんなセイラの感情を読み取ったのだろう、サーラは更に困った顔になる。
「……んーとね、これってあまり言えない話なんだけど。私達が活躍しすぎるのは……マズイのよ」
「活躍って。したくないなら生き残る戦術を練習するだけでもいいじゃない」
「だから、そこなのよ」
サーラは声を潜めて、三人の近くへと顔を寄せる。
「冒険者は集団行動の苦手な個人主義者でなければならない。そういうことなの」
そう、これは冒険者ギルドが常々抱えてきた問題への対抗策である。
簡単に言えば冒険者ギルドとは「冒険者」という戦力を抱える武装勢力だ。
中立を謳い各国の市民レベルでの問題解決に寄与しているが、それゆえに一般市民には知名度も人気も高い。
そして、それであるが故に権力者からの警戒も非常に高い。
特にすぐに政権の引っくり返る中小国家などの権力者の警戒は凄まじい。
彼等は自分の権力が脅かされるのではないかと常に脅えており、そうした事に関する相談や依頼が冒険者ギルドに持ち込まれるのではないかと夢にまで見るほどだ。
大国家でも同じような考えを抱く者は居り、そうした者は常に「冒険者ギルドを監督下に置くべき」と主張したりする。
彼等は「冒険者ギルドが蜂起したら自分の権力が奪われる」と本気で考えているのだが……それは繰り返しになるが、冒険者ギルドが「冒険者という戦力を抱える武装組織」であるからだ。
それは言葉で説明しようと文書にしようとどうにかなるものではなく、それゆえに冒険者ギルドは騎士のお株を奪うような大規模な戦いには決して手を出さないようにしてきた。
一定以上の戦力の必要な事態には常に「最寄の騎士団への通報」を手伝うようにし、あるいはそれを請け負った。
そう、「冒険者は集団行動が苦手である」というイメージを植えつけて「権力者にとって代わろうとするような大規模な軍事行動を出来るような集団ではない」というアピールとしてきたのだ。
「だから、ね。私達が「あいつ等ヤバいかも」と思われるのは凄くマズいの。一応統率役は置くけど、基本単位はいつものパーティ基準の予定よ。でも、だからといって私達がアルヴァ問題を憂慮してないわけじゃない。それでも……」
それでも、「その後」を考えなければならない。
たとえ負ければ何も残らないとしても、「全てを捨てて戦える時期」はとうに過ぎた。
組織を率いるということは、常に「先」を考えなければならないということだ。
それが出来なければ、勝利と引き換えに衰退をも得てしまう。
たとえ今この瞬間に腰抜けと呼ばれようと、組織を率いる者には未来を守る責任があるのだから。
「カイン君達なら、この依頼を受けるのは自由よ。でも、アルヴァの本拠地に攻め込むなんて危険度の測定すらも出来ない。だから……受けるつもりなら、よく考えてね」
そう言って去っていくサーラを見送ると、カインは再び依頼書に目を向ける。
「どうするの、カイン?」
シャロンのそんな問いかけにカインは答えず……ただ、じっと依頼書を眺めていた。
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次回、舞台はザダーク王国に戻ります
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