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連載
今こそ、今だからこそ19
しおりを挟む収束した黒い霧は、やがて今までよりはずっと小さな……大人程度の人型へと纏まっていく。
そうして現れたのは、最初に会った人間サイズのシュクロウス。
すでにその手には杖も無く、しかし何かを探すようにキョロキョロと辺りを見回している。
「元に戻ったようだな、どれ……」
名前:シュクロウス
種族:魔人(変異体)
ランク:SS
職業:魔王
装備:
なし
技能:
魔力体操作
捕食融合B
巨人化
詠唱破棄SSS
洗脳魔法S
???の欠片の残滓
読み取ったシュクロウスのステータスは、大体思ったとおりだが……一部妙なものがある。
???の欠片の残滓。
これと似たようなものを以前サンクリードから報告を受けたことがあるが、それ以降の例が確認できなかったものに似ている。
しかし、「欠片の残滓」ということはもう消える寸前……という風にも思える。
どちらにせよ、これ以上の情報を得る事は不可能だろうが……あるいは、その「欠片」か何かがシュクロウスをパワーアップさせ、今必死で探しているものの正体というのも充分にありうるだろう。
そうヴェルムドールが考えていると……シュクロウスが顔を上げ、木の上にいるヴェルムドール達を見上げて叫ぶ。
「貴様……我を「見た」な!? おのれ、おのれ……何たる屈辱! だが、まだだ! アレさえあればまだ……」
「見苦しいわね」
その様子を見かねたか、イクスラースが木から海岸へと飛び降り着地する。
その手には黒薔薇の剣を握り……冷たい表情を浮かべてシュクロウスへ向けて歩いていく。
一方のシュクロウスも近づいてくるイクスラースに気付き、目を見開く。
「貴様……そうか、貴様だ。貴様が何故我の魔法を使える。あれは我であるからこそ」
「勘違いしないで欲しいわね」
歩みを止めないまま、イクスラースはシュクロウスの言葉を遮る。
「貴方の魔法じゃない……私の魔法よ」
確かに、巨大シュクロウスの使ったあの魔法の数々は巨大シュクロウスの特異な形状の身体を最大限に利用した魔法だ。
故に、普通の魔族では真似すらできない。
だが……魔法である以上、いつかはそれを再現する事も出来る。
言うなれば、追いつかない技術など無い……ただそれだけの話なのだ。
「認めぬ、認めぬぞ。我はこんな所で終わらぬ! こうなれば貴様をこの場で!」
「……私の事を、「我」と呼ばなくなったわね」
その身を黒い霧に変えていたシュクロウスの顔が、驚愕に歪む。
黒い霧に変わりかけていた身体の変化が一瞬止まり……その瞬間に、その胸をイクスラースの黒薔薇の剣が貫く。
「……かはっ」
シュクロウスは血ではなく、黒い霧を吐く。
それはすぐに空気に溶けて霧散して……そのシュクロウスを、ただ無表情にイクスラースは見上げる。
「それでいいのよ。貴方は私じゃないもの。貴方は所詮、シュクロウスという形を持っただけの別人。全部捨てて、新しく生きればよかったのに」
「……出来るものか。我は魔王シュクロウス……世界を震撼せし魔王。それ以外の生き方など、どうして出来ようか。何処までいこうと我は我。他の何かになど……今更なれるものか」
シュクロウスの手が、だらりと下がる。
その膝が崩れ、イクスラースによりかかるように……黒薔薇の剣により深く突き刺さるように倒れる。
「言ったでしょう。シュクロウスの罪は、私の中にこそある。そして貴方はただのそっくりさん。貴方には、シュクロウスとして生きる必要なんて……何処にも無かったのよ」
「だが、我は」
「そうね。貴方はそうとしてしか生きられなかった。なら、私は貴方をもう否定しはしない。さようなら、「魔王シュクロウス」。貴方という魔王がいたことは、私が覚えていてあげる」
優しい声色を含んだイクスラースの剣が貫いた傷から、黒い霧が溢れては消えていく。
自分の身体が崩壊していくのを感じながら、シュクロウスは小さく息を吐く。
「……そう、か。くくっ、不思議な気分だ。此処にいたって尚、我は我こそがシュクロウスであるという認識から抜けられぬ。だというのにこの身に溢れる狂気が抜けている。ああ、不思議だ。この身の中の記憶には、一瞬たりともこんな気分になった時などないというのに。あるいは、これが我本来の……」
消えていく。
シュクロウスの身体が、完全に風に溶けて消えていく。
何も無い空間をそのまま見つめていたイクスラースは黒薔薇の剣を無言で鞘におさめ……ヴェルムドール達が近づいてきた気配を感じ、振り返る。
そしてその瞬間、頭にぽんと手を置かれてビクリとその身を震わせる。
「な、なによ」
そのまま撫でるでもなく自分の頭に手を載せたままのヴェルムドールを見上げたイクスラースは、感情の読みにくい無表情で自分を見つめているヴェルムドールに複雑そうな表情を向ける。
「過去は、過去だ。お前が背負う必要はないと俺は考える」
「……過去も含めての私よ」
「分かっている。だが、お前が自分を罪深いと考えているならば」
「もう、心配性ね!」
ヴェルムドールの手を少し乱暴に払いのけると、イクスラースは両手を腰にあててヴェルムドールを睨み付ける。
「私がそんな殊勝な魔人に見えるのかしら、ヴェルムドール。敬虔な神官のように祈りを捧げ許しを請うて生きているように見えたのかしら!?」
「……さて、な」
ヴェルムドールはそう言うと、軽く肩をすくめてみせる。
「お前を含め、うちには我慢強い奴が多すぎる。そう見えずとも、感じずとも傷を抱えているかもしれない。だから俺は、言わねばならない」
「何をよ」
ヴェルムドールはイクスラースの肩を掴むと、そのまま強く引き寄せる。
「俺の元にいる限り、お前達の罪は全て俺の物だ。覚えておけ」
「……何よそれ。強欲ね」
「魔王だからな」
呆れたようにイクスラースはヴェルムドールの胸に身体を預け……そのまま、力尽きたかのように倒れこんだ。
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